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 大佛次郎記念館の扉を入ると、すぐ右に受付があり、入場券を販売している。宏樹が、自分が買うと言うので、便乗することにする。私は、宏樹の左手を放そうとして、手の平を下に降ろそうとすると、宏樹がぎゅっと自分の腕を押し付け私の手を挟んだような気がして、びっくりする。宏樹の腕を放すタイミングを私は失ってしまう。
 「入場券の裏に、スタンプを押そうよ」
宏樹に言われる。
 「私の職業の腕を見せてあげるわ」
スタンプの真ん中が、インクが少しかすれたが、まあまあ上出来に押せる。白くて綺麗な階段を昇っていくと、ステンドグラスの青の天井が見えて、美しい。書斎を再現した大佛の部屋がある。
 「う~ん、本当に小説が浮かんできそうな雰囲気の部屋だ」
宏樹が感動して、つぶやく。ベッドで本を読めるように工夫をして、棚が吊ってある。この部屋の前は、なぜかとても静かで、息が詰まりそうである。少し進むとゆったりした肘掛け椅子がじゅうたんの上に置かれている。宏樹が先に腰を降ろす。私も左隣の椅子に腰かける。テーブルは、洒落ていて、面が八角形である。
 「大佛は、猫が好きだったんだよ」
宏樹の解説にうなづく。先ほど読んだパネルの表示に近所の住人が、大佛の家に猫を捨てに来るとあったのを私も思い返す。
 「お手洗い、大丈夫?」
宏樹が聞くので、
 「ここで待っていて」
と伝える。
 「ミー、トゥー」
と、宏樹が英語で相槌を打つ。2人で戻り、
 「この後の予定は、どうしようか?」
私が相談をもちかけると、
 「そうねぇ」
宏樹は考えている。記念館を出る。博物館も近くにはあるが、公園を歩こうということになり、散歩する。「霧笛」という店名のレストランの看板が見える。いかにもエキゾチックな横浜の香りがする。
 「今、何時?」
宏樹に聞かれる。
 「3時。いつもなら、そろそろ帰りの準備をしているころね」
 「えっ」
 「6時間目が終わるのが2時40分。それから掃除して・・・下校鈴が4時半よ」
 「結構、早いんだね」
 「学校は、朝が早いからよ」