
ビルの狭い階段を2人で仲良く降りながら、宏樹が言ってくれる。
「足元、気をつけてね」
「ありがと」
マリンタワーに向かう。正面のドアから入り、階段を昇ると、入場券を売っている。宏樹が急いで買ってきてくれる。透明のガラスで囲われたエレベーターで上がるので、周囲の景色が見渡せる。エレベーターの扉を背にして立つと、外がよく見える。
「海はこっちだよ」
宏樹の声に、一緒に乗り込んだ人たちが一斉に、方角を向く。まるでガイドさんだ。宏樹がほおを赤らめるので、私は首をすくめて笑ってしまう。エレベーターを降りる。やはり、いい眺めである。海が広く臨めるのに、感動する。宏樹は思わず声を上げる。
「あれが、山下公園だよ」
「車がずいぶん小さく見える」
「あっ、スケボーしてる」
「どれどれ?」
まるで、子供同士のように、声を立て、同じ方向を見て、喜ぶ。
「あっ、今、揺れたでしょ?」
「本当、揺れてる」
「あの船が、氷川丸よね」
展望台をぐるりと360度、ひと回りする。世界の塔やビルが写真展示してある。
「もやがかかってきたよ」
「これだけ高さがあるから、揺れるし、もやもかかるのね」
「船の博物館があるから、行ってみよう」
階段で降りて行く。
「さっきの入場券が、必要ね」
「うん」
バッグの中から券を取り出す。
「これじゃなくて、もう一枚の券だよ」
宏樹の指摘で、別の券を探す。
「こっちの?」
「そう」
宏樹にOKと言われたので安心して、階段を降り続ける。が、券に書かれた文字を読んでしまったので、最後の一段を踏み外しそうになる。私がハイヒールを履くのは由香里の影響だ。由香里は小柄なので、学生時代からかかとの高い靴を履いていた。彼女とおそろいの服と靴をいつも揃えていた。それ以来、私もずっとハイヒールである。宏樹と一緒にいると決まってコケそうになる。宏樹が私の左手を引っ張って、肩を抱く。
「危ないから少し、寄りかかっていて、いいよ」
まだ、昼なのに、とちょっとブーイングだが、でも、宏樹のスタジャンの胸が温かくて気持ちよい。近くに人がいないのを確認して宏樹がくちびるを近づける。私は頭を宏樹の肩に預け、一瞬目を閉じたので、宏樹の行動に気づかない。「あっ」と思ったが私が拒否しなかったので、ちょっと長いキスになる。