
恋愛は、しないより、している方が良いとは思う。でも、片想いはどうか。日々苦しいだけだ。だったら、人を好きにならない方が平和だ。自分ばかり、相手のことを考え続け、損である。相手に会ったらこれを話そう、あの話を伝えようと、そんなことをひたすら考える。相手の趣味に無理やり合わせ、必死で知識を詰め込もうとさえする。
宏樹とは、めったに会えない。会えない方が当たり前だから、デートが私の目標である。きょうのように、たまにデートしたりすると慣れ切った日常生活とかけ離れ、変な錯覚を起こす。自分の理想は「宏樹」なのに、目の前の宏樹に「私は好きな人がいてね、その人のことを毎日考えて生活しているの」と、相談しそうになる。日々考える宏樹と実体の宏樹が、重ならず別人に思える。ふと、今、デートしている相手が日常の崇拝者だと気づき、急に慌てる。なんて愚かだろう。
生活とは何か。今の私には、宏樹に会うために自分を戒め、会ったときに少しでも良く思われたいと願う日々だ。来るべき日のための準備期間である。端から見たら、馬鹿げている。冷静に考えればナンセンスだが、惚れた弱みである。私は毎日、宏樹とのデートを夢見て暮らす。となると、きょうはもう、目的を遂げている。宏樹と話し、一緒に食事をし、空間を共有している。もう、私は、これでいい、満足である。今後の目標を失い、突然、寂しく感じ始める。宏樹の気持ちがわからないことも寂しさの1つの原因だ。私に会い、どう感じるのか、楽しいのか、ただの時間つぶしか、単なる付き合いか。知りたくて心が落ち着かない。もちろん答えは聞き出せない。私がこんなに好きなのに、あなたは平気みたいね。どうってことないんでしょ、何とも思ってないんでしょう。やはり、片想いは辛く、苦しい。そんな想いをおくびにも出さず、私だって、あなたのことは何とも思っていないんだから、ただの横浜見物よと私は装う。演技する自分がここにいる。
フォークで、じゃが芋をつつく宏樹の指を見る。宏樹が口を開く。
「じゃが芋は美容にいいんだよ、ビタミンがあるから」
「あら、ずいぶん美容を気にしているじゃない」
「さつま芋は糖分があるから、太るんだよ」
人の気も知らず、そう言って、宏樹は私をからかう。