
元町を抜け、大きな歩道橋の近くまで行く。
「山下公園の山下って、町の名前なのね」
「うん。電柱に山下町って、記されているもの」
立体交差で上をゴウゴウと何かが通る音がする。
「新幹線なの?」
「違う。高速道路だよ」
宏樹に笑われる。少し歩くと、街中なのに意外と閑静である。
「あれがテレビ神奈川だよ」
「ふうん」
「マリンタワーって登ったことある?」
「ない。京都タワーならある。東京タワーもある」
「あのね・・・」
幅広の道路は、東京の表参道(おもてさんどう)を思わせる雰囲気である。マリンタワーのまん前を通り過ぎ、ビルの中に入る。ウサギの外国キャラクターが店名に付いたレストランを目指すのだと、宏樹に言われる。レンガ造りの建物の中を歩いて行く。
「あったぁ!」
2人で、笑顔がこぼれる。テーブルでは、奥の方にくつろげるよう席をとる。宏樹お勧めの、チーズの中にじゃが芋が入った、グラタンらしき料理とオレンジジュースを注文する。店内には、なんと歌謡曲が流れている。流行歌だが、とっさに歌手名が浮かばない。
「勤務中は、お昼休みにテレビなんて見られるの?」
宏樹に質問してみる。
「ほとんど見ないなぁ」
「学校は、昼休みって、ないのと同じよ。時間も50分しかないしね」
「へぇ、昼休みは何をしているの?」
「食べ終わったら、仕事してます。校外には出られないし。こういうふうに、街中にいるのは、私にとってすごく新鮮なの」
「ふうん。きょうは何時に起きたの?」
「いつもと同じ」
「俺はいつも、ばあやに起こしてもらう」
「ばあや、なんて言って。お母さんでしょ? いいご身分ですね」
「最近は寒くて、起きるのをグズっていると、スリッパでペタペタぶたれる」
「うっ」
「目覚まし買おうかな、起きないと段々、音が大きく鳴るのがあるじゃない? あれにしようかな」
「私は、夜、生徒の夢を見るのよ、職業病よね」
「へぇー」
「寝言をむにゃむにゃ話すらしい。弟が私の寝言に答えるのよ。私はそれに会話するんだって。それってすごく神経が疲れるらしいのに・・・、弟を叱っておかないと」
「きっと、眠りが浅いんだよ、俺なんかバタンキュウだ」