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 横浜駅の構内に入る。
 「石川町(いしかわちょう)までは8分で行けるよ」
 「そう、近くてよかった。野球場のそばを通ったのを覚えているわね」
 「中を横切ったの?」 
 「ううん、そばを通っただけです」
 「10周したの?」
 「違う。歩いて、通り過ぎたのよ」
 「歩いて10周したんでしょ?」
一体、何だというのだろう、宏樹のこのしつこさは。私は彼にかなりおちょくられている。電車がホームに来たので乗る。
 「海が見えないかな?」
と尋ねると、宏樹は、
 「すぐ見えるよ、右側の方向」
指で示して教えてくれる。2人でせっかく、座席に座れたのに、わざわざ中腰になって窓の向こうの景色を覗き込む仕草がおかしくて笑ってしまった。
 「2人して、変よ」
 「何してるんだろうと思われるよ」
 「まったく、恥ずかしいんだから」
 「見たいけど、我慢しよう」
石川町の駅に到着する。改札を抜けるとすぐに交差点があり、右前方には、有名な私立の女子大の校舎がそびえている。
 「2階建てバスに乗ったことある?」
宏樹に質問される。
 「ない」
 「じゃ、乗せてあげよう」
 「わぁい。東京の浅草(あさくさ)にも2階建てバスが走ってるわよね」
 「あれは、赤いでしょ」
 「じゃあ、もしかして青いの?」
 「そう。確かブルーラインって言ったかな」
元町(もとまち)通りは、駅から続く直線の道である。左右に沢山の店が並ぶ。途中で、タヌキとウサギの動物の着ぐるみでビラ配りをしている人たちがいる。仕事をひと休みして、小学生の子供たちとじゃんけんをして遊び相手になっている。
 「冬は、ああいうの着ると、温かくていいわね」
 「あのウサギ、チョキしか出さないぞ。しかも親指と人差し指のチョキだな」
 「そうね。普通のチョキは出しにくいのよ」
道路には、ところどころタイルがはめ込まれているが、少し凹凸で、歩きにくい場所がある。
 「ヒロくん、建築屋さんでしょ、直したら?」
私が促すと、
 「こういうのは、県や市の仕事なの」
と、すぐさま却下されてしまう。