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 私は長野新幹線が好きである。甲府からわざわざ小海線を乗り継いで佐久平(さくだいら)まで出る。小海線は別名、八ケ岳高原線とも言う。避暑で有名な小淵沢(こぶちざわ)や清里(きよさと)を通過できる。長野新幹線は軽井沢(かるいざわ)を抜ける。冬の今頃は冷蔵庫のような寒さを味わうことになるが、上京するときには、大抵このルートを私は使う。
 通常なら、甲府からは中央本線で新宿(しんじゅく)駅までが最短距離だが、八王子(はちおうじ)駅から、都会の客が大勢乗り込み、旅のムードを味わうよりは、東京の日常生活や喧騒の中に埋没してしまう。車窓の風景から絵巻物のような情緒を感じるには、絶対、小海線と長野新幹線である。そんな私と同じコースを選んだ宮田さんも多分変わっているのだと思う。
 「ボーナスはもう出たの?」
宏樹のふところ具合を気にして、私が聞いてみる。
 「14日」
 「まだなの?」
 「公務員は5日だっけ」
 「そう」
 「いいなぁ」
と宏樹に、羨ましがられてしまう。前回、九段下で会ったときには、大分待ちぼうけさせてしまったのにもかかわらず、宏樹が支払ってくれたので、きょうのデート代は、私がもとうと決める。
 「お昼は何にする?」
宏樹に聞かれたので、横浜なら中華街だろうと考えて、
 「中華」
と答えると、
 「中華かぁ」
と残念そうに宏樹が言う。さてはプランを練っていてくれたのだろう。
 「でも、何でも構わないけど」
 「芋、好き?」
 「えっ、うん。ちょっと・・・焼き芋、食べるの?」
 「違うよ。チーズの中にじゃが芋料理が入っていて・・・それで・・・まぁ、食べればわかるから、まあ、とにかく行こう」
宏樹が煙草の火を消したので、それを合図に席を立つ。らせん階段を降りる。エスカレーターで立ちながら、前後でおしゃべりを続ける。
 「横浜は何回目?」
 「3回目。でもあまり覚えていないの。以前、歌手のステージ写真の展示会を見に来たことがある」
駅の構内で宏樹が切符を買おうとしたので、
 「今度は払うわ、いくら?」
と尋ねると
 「ちょっと待って、えっと・・・」
と自動販売機の「2枚」という表示ボタンを宏樹が押す。
 「これでよし」
 「おや」
先を越されて宏樹に購入させてしまったので、私が呆気にとられていると
 「山梨には、こういうのないだろ」
 「・・・」
 「素直にないって言えばいいのに」