
午前10時半、上野駅15番線に降り立つ。電車内の窓からはホームに宏樹らしい人物は見えなかった。列車の外に降りても、誰も近づいて来る気配がない。宏樹は遅れているのだろうか。だったら携帯が鳴ってもよさそうなものである。車内で親しくなった宮田さんと一緒に、キョロキョロとプラットホームを遠くまで辺りを見廻す。
「まだ、来ていないの?」
「そうね、まだみたい」
宮田さんは、甲府駅から電車に乗り込む時に、左足を引きずっていた。私が先に席をとった4人掛けシートに彼女も後から座った。私と同年代の女性なので、道中一緒に過ごすなら近い年齢の同性がいいと感じたのだろう。私も笑顔で彼女を迎え入れた。
宮田さんは、甲府市内にある大きな建設会社のバスケット部員である。先日行われた、交流試合で脚のスジを傷めたと言っていた。全身黒づくめのファッションである。パンツスタイルが格好よく、長身でさすがにスポーツウーマンである。私は茶色のオーバーに毛糸のスカート姿。12月に入り2週目である。寒さが少しずつ深くなっている。宮田さんも私も、車両に1時間乗り込んで、だんだん心をお互いに許した。
「東京にいるカレシに会いに行く」
と宮田さんが打ち明けてくれた。
「私もデートなの」
とつい、同意してしまった。宏樹は私のカレシなのだろうか。この2カ月は、ずっと、携帯で話し、メール交換をした。付き合って、とは言っていないし、付き合おう、とも言われていない。でもずい分と仲良くなった。由香里の結婚式の日以来、会っていないが、私は宏樹のことをもう交際相手と一方的に思っている。
宮田さんは、これからカレシの下宿先を訪ねて行くのだと言う。定期的に通っているらしい。山梨と東京の距離は、遠いから大変だろう。宏樹と私のように軽い間柄ではなさそうなのは、男性が1人で暮らしている先を訪問するということで、すぐ理解できる。
「おーい、真美ちゃん」
遠くの背後から声をかけられ、振り返ると宏樹が煙草をくわえて近づいて来る。もちろん煙草に火は点いていない。大人ぶっているポーズだということを直感した。グレーのスタジャンとジーンズである。不良っぽく見せようとしているなとわかる。
「あ、いた」
宮田さんに耳打ちをする。
「どれどれ、うん、いい、丸だよ」
宮田さんにOKをもらえ、ルックスはいいんだけれど・・・、と考え込んでしまう。私には宏樹の心がまだつかめていない。本当は片想いのままである。