宏樹の服装を見ると、いかにもいっぱしのサラリーマンだ。
 「ねぇ、夏には会社にポロシャツで行ってはいけないの?」
 「夏はいいんだよ。でも、やっぱりクライアントと話をすることもあるから、ネクタイはした方がいいんだ。それはそうと、学校に可愛い高校生、いないの?」
 「もちろん、いるわよ。でも今、私が担当している3年生は進学や就職で忙しいから、相手にされないわね。ネクタイをしだしたらもう、おじさんなんだから」
 「そうか・・・」
そんなに寂しそうな顔をすると、可哀想と思う。少し、楽しくさせてあげなくてはならないと話題を変える。
 「さっき、まだ滝に打たれていないって言ってたけど、華厳の滝(けごんのたき)って知ってる?」
 「知ってるよ、日光だね。日光に行きたいな」
 「私は、長距離運転して、自分の車で行ったことがある」
 「でも真美ちゃんの車に乗るには、保険をかけないとな」
 「失礼ね」
 「ゴーカートというか、オートマだよね」
 「そう、クラッチはありません。アクセルとブレーキしか、付いていないよ」
 「えーっ、ハンドルが付いていないのか。まさか気合で曲がるんじゃないだろうね。えいっ、ほれっ、とか」
調子に乗っている。寂しそうだなんて心配して損したようである。食事が済んだので、デザートでも選ぼうかという話になる。
 「甘いものは、それほど好きじゃないからな」
 「じゃあ、おせんべいでも注文しますか?」
 「うーん、いいねぇ。お茶に浸して食べたいな」
 「私の弟と似てるわね。エビせんを湯飲み茶碗に入れて、お箸でつまんで食べているわ」 
 「はは・・・、まるでコーンフレークだ。それはそうと、俺が君んちに行ったときのこと、家族に聞いてみた?」
 「聞いたけれど、みんな忘れちゃってる。何年前か分からないし、季節の感覚もありません」
 「そうか、確か春だった。選抜の大会やってたから」
私より、ずっと記憶力がいいようである。もしかすると、宏樹の言うように2人が中学生になっていた可能性の方が大きい。デザートはやめて、アイスコーヒーを注文することにする。