由香里に焚き付けられたので、積極的になり少し前へ踏み出してみようと考えた。だが、何のことはない。由香里は秋に結婚が決まっているので、自分と同じ境遇に私を早く引っ張り込もうとしただけである。自分も満更ではないかもなどと、勘違いさせられた私は一時、躊躇したが、まずは宏樹へ夏の礼状を書いた。すると宏樹はすぐに返事を送って来た。投函日を指折り確かめると、私の手紙が届いた翌日にはもう、返信している。脈があるかもしれないと感じ、由香里の結婚式に上京するので、会えないかと手紙で打診するとOKの返事が、また即、届いた。
9月末になった。由香里の挙式会場はプロ野球のドラフト会議に頻繁に使われるホテルで、九段下(くだんした)にある。披露宴場を抜け出し、1階に降りたが宏樹はまだ到着していない。土曜日だが、残務整理があるので勤務先から向かうと知らされていた。いったん4階に戻り、少し時間をおいて、またロビーに降りて来ようと歩き始めた時に、長身の男性が右手から距離を隔てた目の前を過ぎ、椅子に腰を降ろした。私が宏樹だと気づき、近づいたのと同時に、宏樹は立ち上がった。
夏以来、1カ月半が経過している。互いに照れながらの、挨拶をかわす。
「時間通りにいかなくて、終わるのが4時くらいになるようです、すみません」
待たせるのを詫びる。1時間待たせることになるので、丁重に頭を下げた。本当は、私のミスである。2時間の披露宴を想像した私の計算違いだ。由香里に確かめなかった。3時間の宴は通常より長い。宏樹は
「まあ、そんなもんだよ。この間、出席した結婚式でもそうだった。いいよ、待てるから」
と、すかさず返してくれる。理由なしに宴会の時間延長は、到底考えられない。だが、宏樹は社交辞令にそう返事した。こういった言葉を私も使うようになった。大人の応対口調である。親や職場の先輩のやりとりを真似て、こういう台詞が口から出るようになった。
宏樹は顔色が浅黒くなり、ヒゲも伸びていた。なんとなく疲労している印象がある。10代の頃の男友達には、待たせることになると告げると「えーっ」と返されたものだ。もう子供のときの付き合いとは違う。だが、社会人としての振る舞いがまだ私には定着はしていない。ギクシャクする時には、ふざけられたほうが気が楽な場合もある。私が待たされる立場なら、一体どうしただろうと考えながらエレベーターで4階に引き返す。
9月末になった。由香里の挙式会場はプロ野球のドラフト会議に頻繁に使われるホテルで、九段下(くだんした)にある。披露宴場を抜け出し、1階に降りたが宏樹はまだ到着していない。土曜日だが、残務整理があるので勤務先から向かうと知らされていた。いったん4階に戻り、少し時間をおいて、またロビーに降りて来ようと歩き始めた時に、長身の男性が右手から距離を隔てた目の前を過ぎ、椅子に腰を降ろした。私が宏樹だと気づき、近づいたのと同時に、宏樹は立ち上がった。
夏以来、1カ月半が経過している。互いに照れながらの、挨拶をかわす。
「時間通りにいかなくて、終わるのが4時くらいになるようです、すみません」
待たせるのを詫びる。1時間待たせることになるので、丁重に頭を下げた。本当は、私のミスである。2時間の披露宴を想像した私の計算違いだ。由香里に確かめなかった。3時間の宴は通常より長い。宏樹は
「まあ、そんなもんだよ。この間、出席した結婚式でもそうだった。いいよ、待てるから」
と、すかさず返してくれる。理由なしに宴会の時間延長は、到底考えられない。だが、宏樹は社交辞令にそう返事した。こういった言葉を私も使うようになった。大人の応対口調である。親や職場の先輩のやりとりを真似て、こういう台詞が口から出るようになった。
宏樹は顔色が浅黒くなり、ヒゲも伸びていた。なんとなく疲労している印象がある。10代の頃の男友達には、待たせることになると告げると「えーっ」と返されたものだ。もう子供のときの付き合いとは違う。だが、社会人としての振る舞いがまだ私には定着はしていない。ギクシャクする時には、ふざけられたほうが気が楽な場合もある。私が待たされる立場なら、一体どうしただろうと考えながらエレベーターで4階に引き返す。