「町はゴーストタウンと化しています。建物は焼け落ち、家1軒、小屋1つ残っていません。その不気味な風景の中、迷子になった犬、数羽の鳥、人が数人さまよっていました」
惨劇をもたらしたのは、同州で頻発している民族衝突。国連の推計によると、昨年末の襲撃で生じた避難民は6万人以上にものぼります。
衝突の要因をメディアは牛をめぐる争いと報じていますが、2009年時点に現・南スーダンの活動責任者だったジョナサン・ホイットールは、当時のインタビューで襲撃の性質が変容してきたことを指摘しています。
「現在起きている武力衝突は、昔ながらの牛泥棒とは異なります。これまでは、女性や子供が犠牲になることはありませんでしたが、いまや故意に狙われています。死者数が負傷者数を上回る点も、以前とは異なります」
南北スーダンの内戦で貧困が深刻化したのに加え、銃などの火器が流入したことで、襲撃はより暴力的で大規模なものへと変容してきたのです。
病院や診療所、水源などが標的とされるようになったのも懸念すべき点です。ピボール郡にあるMSFの診療所は3ヵ所。同郡に暮らす16万人にとって唯一の医療施設であるそれらのうち2ヵ所が襲撃を受け、スタッフは一時的に避難を余儀なくされましたが、約2週間後に活動を再開。再開から3週間足らずで銃創患者47人、傷を負った43人の手当を行っています。避難生活で増加するマラリア患者、幼児の栄養失調も大きな課題です。
スーダンからの帰還民と難民の増加、食糧問題、インフラ不足、医療・教育制度の不備など、問題が山積みする南スーダンで、2011年にMSFは入院治療2万件以上、外来診療約39万件、分娩約8000件、マラリア患者約5万人、栄養失調児約2万人の治療を行ってきました。
ピボール郡のMSFの診療所。医療設備や薬はほとんど使用不可能になり、活動再開の為、薬や医療物資など合計1tを越える物資を現地に空輸した。
COUNTRY DATA
20年以上に及ぶ南北内戦が2005年終結。その後行われた住民投票の結果、2011年7月に独立。それから半年が経過したもののいまだ国内情勢は緊迫。MSFは1983年から現南スーダンで活動を開始。現在、同国10州のうち8州で医療を提供、15のプログラムを運営している。
年末の襲撃を生きのびた住民の証言
1歳半の娘が重傷を負った母親
午後5時に、私たちの住む村は襲われました。私たちは走って逃げ出しました。妹が私の1歳半の娘を抱え、もう1人の子供を連れていました。走っている途中で、娘が地面の上で泣いているのを見つけました。顔を撃たれ、口をナイフで切り裂かれていました。私は娘を抱き上げ、森の中を走りつづけました。結局、夜になって走るのをやめ、朝まで森の中で過ごさなければなりませんでした。1日後、同じ村の人が私たちを発見し、ユアイにあるMSFの診療所まで連れてきてくれました。村から2時間かかる場所です。MSFがナーシルの病院まで飛行機で運んでくれるまで、そこで治療を受けました。夫がどうなったのか、何も情報はありません。殺されてしまったと思います。
腕を撃たれた男性
村を襲撃され、森へ逃げました。食べ物はなく、小さな子供たちの為の水しか持って出ることができませんでした。私は腕を撃たれ、8日間傷を抱えたまま森に隠れていました。その後、病院まで歩いてたどり着くのにさらに3日かかりました。私は幸運でした。彼らは私の家族には気づかなかったのです。森に逃げたら見つかっていたかもしれませんが、みんな川に入り、水中に隠れて呼吸のために口だけ出していたのです。家は焼き払われました。故郷に戻れるかわかりません。あまりに多くの人が行方知れずになり、多くの人が亡くなりました。連れ去られた子供たちもいます。戻って畑を耕し、子供たちの為にトウモロコシやソルガムを育てたいと思いますが、あそこにはもう何もありません。
3歳の娘を拉致され、足と頬に銃弾を受けた母親
2人の女性と一緒に子供たちを連れて逃げました。3つになる娘と連れの女性たちの息子2人が一緒でした。走って丈の高い草むらに隠れましたが、娘の泣き声で見つかってしまいました。彼らは娘をさらい、男の子2人の咽を目の前で切りました。それから私たちに走れと言いました。10mほど走ったところで彼らは銃を撃ちはじめました。2人の女性は殺されました。私は足を撃たれて転びました。彼らは私のところまで来て、確実に死ぬように頭を撃ちましたが、弾は頬を貫通しただけだったので助かりました。水を飲もうと川まで這っていき、そこに7日間留まりました。家族はどこにいるのか、娘に何が起きたかもわかりません。私の家族のうち10人が殺害されました。夫の家族は8人が命を奪われました。家族が殺され、胸が張り裂けんばかりの思いがします。たった1人の我が子も連れ去られ、ひとりぼっちになり、苦しくてしょうがありません。
REACT 2012年4月号


