「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
ウェイトレスに案内されて禁煙席に座り、多少腹に入れておこうとサンドイッチとコーヒーを注文する。
店内は特にこれといった特徴もない、ごく普通の喫茶店だ。オープンカフェもある。しかしあまり外で食べる気にはならない。
夕飯前だからか休憩しようという若者が多く、席はほぼ埋まっていた。中にはカップルも居る。
別に店内で喋るのはいい。構わないが、注文もせず居座るのはどうかと思っていた。なんせバイト先が喫茶店だけあり店側に意見が偏る。
(……言っても仕方ねえけどな)
「お待たせしました。こちら注文の品になります、ごゆっくりどうぞ」
店に備え付けられたテレビから流れるニュースと店内を流れる音楽がミスマッチしているが、これも気にしたところでどうにもならない。
マスターがコーヒーでサンドイッチを飲み下そうとした矢先、柄の悪い連中がズカズカと集団で入り込んで来た。店員が対応する前にその一団は真っ直ぐ──マスターのいる席を取り囲む。
「席なら空いてるが禁煙席だぞ」
銃声。
割れたカップからコーヒーがこぼれ落ち、店内が静まり返った。
テレビから流れるニュースがやけにはっきりと店内に響く。
『──テロ集団は未だ捕まっておりません』
テロリスト。自由主義者の集まり。
管理体制の敷かれた国で生活することに耐え切れず、革命を企てる集団。その存在は別に珍しい物ではない。
特に、マスターの周囲では。
「お前みてえなガキが……? おいてめえ等、ホントにこいつが“あの”マスターだってのか」
「すんませーん、コーヒーお代わり」
ヒラヒラと手を振って追加で注文するが、店員は既にテロ集団の一味によって身動きを封じられていた。
席を立とうとしたマスターに銃口が一斉に向けられる。
「動くんじゃねえ。オレ達に協力してもらうぞ」
「あー? テメエ等もぐりか? マナーの一つも守らねえ連中が何ほざいてやがる」
渋々座り、両手を挙げた。
その右手にだけ何故か包帯を巻いているのが目立つ。
「おい、黙らせろ」
頷き、手を掴んだ一人が捻ろうとするがビクともしない。
「何してやがる、早くしねえか」
「くっ……この、テメエ!」
「バイトに遅れちまう、さっさとしろよ」
呆れたマスターはそのまま手首を返して手を掴んだ男性をテーブルの上に叩きつけた。蹴り倒し、立ち上がるついでに椅子を持ち背後にいる一人に脳天から振り下ろす。
木製品の椅子はあっという間に砕け散り、男性はその場で昏倒した。
こめかみに銃を突き付けられるが、お構い無しに顔面を拳でぶち抜く。倒れた相手を蹴り飛ばし、リーダーらしき男と向き直った。
「あのな、俺は一般人だ。ただの学生なんだっつの、見て分かれよ。裸眼じゃ見分けつかねえのか? メガネ屋なら近くに安いの紹介すんぞ」
「う、動くんじゃねえ! テメエそれ以上動いてみろ。あの女がどうなったっていいのか!」
「あん?」
ぐるりと首を向けた先には先程メニューを運んで来たウェイトレスが銃を向けられて怯えていた。羽交い締めにされ、涙ぐんでいる。
「知らん」
「は?」
マスターが振り上げたブーツの裏底(鉄板入り)はリーダーの顎を打ち砕いた。その顔に足を乗せてテロリストの一員に視線を向ける。
「おい、コイツ殺すがお前次第じゃ助けてやってもいいぜ? あーちなみに降参しましたってんなら銃捨てて解放しろ。オーケー?」
「ぉ……ぁ……! この、化け物が!」
「よく言われんな。で?」
「………へ?」
「今さら何言ってんだお前? 三秒以内に決めろ。さーん、にーい……」
「ちょ、ちょっと待て! 解放する!」
慌ててウェイトレスを突き飛ばしたテロリストに、マスターは足をリーダーの頭から退けた。
「ちなみにテメエを逃がすとは言ってねえからな」
投げたコーヒーの受け皿は男性の顔面に直撃し、意識と共に砕け散る。