朝のホームルーム開始のチャイムが鳴る。だがしかし担任はまだ来なかった。多少の誤差はあってもいい、今頃職員室を出たのだろうから。

 それから五分後、ようやく担任が現れる頃、既にクラスメイト達は席に着いていた。

「すいません、遅れちゃって~」
 朝から聞くにはあまりにキツい、のんびりとした口調の挨拶。この時点で欠伸を洩らす男子多数、ロンですら噛み殺していた。

(あ、ねみぃ)
 マスターに至っては開幕から睡眠体勢へ移行している。今まで一度も朝の挨拶から先の連絡事項など耳に入れたことは無かった。
 理由その一、眠い。
 理由その二、遅刻。
 理由その三、やっぱり眠い。

 結論。とにかく眠くなる。

 ホームルーム終了後に一体何人の生徒が起きているだろう。

「ちょいちょい、マスター。起きろし」
「やかましい黙れスロウド。ファラオの安眠を妨害すんな呪い殺すぞ」
「ツタンカーメンかお前は」
 ロイは眠気と激戦を繰り広げているのか、手の甲をつねっていた。



 朝のホームルーム終了後、いつも通りに時間が過ぎていく。

「いやー、楽しみだよにー。転校生とか転校生とか美少女とか」
「とりあえずロイ」
「なんだ」
「スロウド捨ててこい。焼却炉に」
「……最近使われなくなったらしいが」
「んじゃダストシュートに」
「俺の話をナチュラルにスルーした挙げ句、本人目の前にして廃棄予定の段取りせんで! 泣くよ!」
「うるせえスロウド」
「黙れスロウド」
「ちくしょう死にたい……!」
「「死ね」」
「これが現代における教育問題のいじめって奴かぁぁぁぁあああ!」
 仰々しく嘆くスロウドは例によって無視。ロンはもはやツッコミを諦めている。
 退屈な学校だが、友人と話す他愛ない会話はそれなりに楽しい。とは言ってもマスターはそれでも満足しないのだが。
 平凡な日常という物に飽いているのだから仕方ないことだ。



 放課後になれば部活に向かう生徒がいる。委員会に向かう生徒もいればそのまま帰る生徒だっている。マスターは部活動に興味が無いのでそのまま帰る予定だ。所謂帰宅部である。
 だが真っ直ぐ帰る訳ではない。

「おーいマスター、帰ろうぜよ」
「悪いがバイトだ」
「真面目だにー。授業と違って」
「金になる有意義な時間だからな」
 一部の生徒に許されるアルバイトをしている。担任からの許可さえあれば問題ないのだが、マスターの場合は前後して許可を貰うという異例の事態だった。

「先生、バイト始めました」
「そうですか~」
「許可ください」
「は~い」
 以上、許可申請の職員室より。

 すぐバイト先に向かっても時間を持て余すだけなのは分かっている。適当な場所で時間を潰そうと、マスターは喫茶店に足を向けた。