映画「乱」、続き。 | 小太郎です。

小太郎です。

とりあえず、思ったことを書きます。

黒澤明監督の映画「乱」を再鑑賞。

物語を、おさらいします。

 

主人公、一文字秀虎は、戦国時代と思われる世の中で、悪逆非道の限りを尽くし、のし上がった人物。しかし、今では、周辺諸国を平らげ、隣接する藤巻氏、綾部氏も、配下に従えるようになっていた。秀虎は、藤巻氏、綾部氏の当主と、息子である太郎、次郎、三郎を従えて、巻き狩りに出る。そこで、休憩中に、秀虎は、居眠りをしてしまう。秀虎は、その居眠りで悪夢を見たことをきっかけに、家督を嫡男の太郎に譲ることに決める。しかし、それには、三郎が「兄弟が、争い、混乱を起こすことになる」と反対をする。家臣の平山丹後もまた、三郎に同調し、秀虎を諫める。しかし、怒った秀虎は、三郎と平山丹後を追放することに。

秀虎一行から追放された三郎を、藤巻氏の当主が追いかけてくる。三郎の気概が気に入ったと、婿に迎え、自分の領内に来るように誘う。そして、三郎は、平山丹後に、「大殿を守れ」と秀虎を陰で支えるために、秀虎の元に帰らせる。

 

一文字家の家督を継いだ太郎は、一の城の本丸に、家督を譲った秀虎は、二の丸に移る。しかし、秀虎が馬印を持って二の丸に移動をしたため、太郎の正室、楓の方は「馬印がなくては、一文字家の頭領とは言えない」と、太郎に、秀虎から実権を奪うことをけしかける。太郎は、秀虎を本丸に呼び出し、以後は、頭領である自分に服従するよう秀虎に求める。しかし、それに激怒をした秀虎は、一の城を出て、次郎が城主を務める二の城に向かうことに。

しかし、太郎は、先手を打ち、次郎に、秀虎を受け入れないように書状で伝える。そして、秀虎の側近もまた、太郎に通じていることも伝える。二の城に来た秀虎は、「郎党たちは別にして、大殿だけなら、受け入れる」と、事実上、秀虎の入城を拒否。次郎もまた太郎の下にあることを知った秀虎は、また、激怒をして、城を後にする。

次郎の正室、末の方は、太郎の正室、楓の方を同じく、一族を、秀虎によって皆殺しにされていた。しかし、末の方は、誰を恨むこともなく、仏を信じて、生きて行こうと決意をしていた。

二の城を後にした秀虎は、郎党と共に、土地をさまようことになるが、どこの村でも、村人は食料を持って逃げていたので、食料が手に入らない。困っていたところ、三郎の命令で秀虎を離れて見守っていた平山丹後が、村人から集めた食料を持って秀虎の前に来る。秀虎は、そこで、「秀虎に協力をするものは死罪にする」という太郎の命令のために、村人が、そのような行動を取っていたことを知る。秀虎は、仕方なく、側近の助言により、三郎を追放した後の三の城に向かうことにした。

 

しかし、これは、太郎の仕掛けた罠だった。側近が、秀虎に三の城に入ることを申し出たのは、太郎の意向を受けてのこと。三の城に入った秀虎は、太郎の軍勢、次郎の軍勢に包囲され、城を攻められることになる。太郎、次郎の軍勢に攻められ、城は、焼け落ちることに。しかし、その中で、次郎の側近、鉄(くろがね)が、太郎を射殺。

郎党たちは討ち死に、女たちは自害をして行く中で、秀虎は、狂人となってしまい、ふらふらと城を出て行く。太郎、次郎の軍勢は、その秀虎の姿を見送るだけで、手が出せなかった。

狂人となった秀虎は、狂阿弥、平山丹後と共に、また、土地をさまようことに。そこで、一夜の宿にと立ち寄った家に居たのは、末の方の弟、鶴丸だった。鶴丸は、秀虎が一族を滅ぼした時に、命と引き換えに、目を潰していたので、盲目となっていた。そして、鶴丸は、それ以来、笛を心の拠り所にして生きていた。

そして、秀虎、狂阿弥、平山丹後は、かつて、末の方や鶴丸の一族が住み、自身が焼き払った城に向かい、雨露をしのぐことになる。狂阿弥、平山丹後は、藤巻領に居る三郎の元に秀虎を連れて行こうとするが、秀虎は、三郎を聞いて、拒否をするばかり。仕方なく、平山丹後は、秀虎を狂阿弥に任せ、自身は藤巻領に行き、三郎を連れて来ることにする。

 

一方、太郎の討ち死にによって、一文字家の頭領となった次郎は、一の城に入り、楓の方と面会をする。楓の方は、次郎を籠絡、太郎を次郎の側近、鉄が殺害したという弱みを握り、自分を正室にするように次郎に迫る。そして、自分を正室にするのなら、今の正室である末の方を殺害しろと、次郎に迫る。次郎は、やむなく、鉄に、末の方の殺害を命じるが、鉄は、その理不尽に従わず、末の方を、密かに、逃がす。

 

平山丹後の知らせを受けた三郎は、軍勢と共に、一文字領に入る。そして、一の城に居る次郎に「大殿を引き渡して欲しい」と申し出る。しかし、次郎は、「大殿を三郎に渡せば、三郎が自分を攻める大義名分になる」と、それを拒否。更に、藤巻氏、綾部氏の軍勢が、国境に姿を現す。鉄は、「三郎に大殿を引き渡すと伝え、二人が一緒になったところを、殺害すれば良い」と次郎に助言。そして、今、合戦をしてはならないと、次郎を諫める。しかし、楓の方は、次郎に、合戦をするようにけしかける。次郎は、軍勢を率いて出陣し、三郎の軍勢と対峙をすることに。

次郎は、三郎に、「大殿を引き渡す」と伝える。しかし、そこに、狂阿弥から「大殿を見失った」という報告が入る。三郎は、平山丹後と、わずかな手勢と共に、秀虎を探すために軍勢を離れる。次郎は、「戦ってはいけない」という鉄の諫めも聞かず、三郎に追っ手を向かわせ、三郎の軍に攻撃を開始する。

しかし、次郎、三郎の軍勢が戦う間に、綾部氏の軍勢が、一の城に攻め寄せているという報告が入る。次郎は、驚き、急遽、軍勢を一の城に引き帰らせる。

一の城に戻った次郎だったが、時は、すでに遅かった。この一の城は、元々、楓の方の一族の城で、その一族を皆殺しにし、秀虎が奪ったもの。楓の方は、その恨みのために策略を巡らし、一文字家を滅ぼしたのだった。そこに、次郎の命令で、末の方を殺し、首を持ってきた家臣が戻って来る。呆れた鉄は、楓の方を斬り、次郎と共に、この城で討ち死にをする覚悟をする。

 

三郎は、無事に秀虎と再会をした。三郎に会った秀虎は、正気を取り戻す。「三郎と、親子二人きりで話をすることが出来れば、それで良い」と言った秀虎だったが、その直後に、次郎の差し向けた追っ手が、鉄砲で三郎を狙撃し、殺害。三郎の死を見て秀虎もまた、絶望して、亡くなってしまう。

 

さて、以上、映画「乱」の物語。

 

乱世、武家の家督相続。

 

この映画「乱」のモチーフになっているのは、毛利元就の「三本の矢」の話。

 

この「三本の矢」のエピソード自体は、作り話ですが、毛利元就の三人の息子、毛利隆元、吉川元春、小早川隆景の三人の仲が悪いことを懸念して、元就が、三人に「兄弟が力を合わせなければ、毛利家の未来はない」と諭した書状が残されていることが、このエピソードの誕生のきっかけになっているよう。

その後、毛利隆元は、元就よりも先に亡くなり、元就の家督は、隆元の嫡男、輝元が継ぐことになる。

毛利輝元は、優秀な戦国武将という訳ではなかったようですが、吉川元治、小早川隆景の二人が、しっかりと輝元を支え、戦国時代を生き残ることが出来た。

元就の教えを守った結果でしょうか。

また、関東を支配した北条氏では、代々、長男が嫡男として代々、当主を務めましたが、次男、三男が、それに不満を持ち、反乱を起こすということは無かったよう。

戦国乱世という中にありながら、良好な関係を保っていたようです。

 

戦国時代、兄弟で、激しく、家督を争ったという話では、越後国、長尾家の場合が有名でしょう。

越後国守護代の家柄だった長尾家。

長尾為景は、乱世の中で戦い続け、それでも、越後国を統一するということは出来なかった訳ですが、為景の死後、嫡男の晴景が、家督を継ぐことになる。

しかし、晴景の弟、景虎を支持する人たちも多く、両者は対立し、最終的に、晴景は景虎に降伏。

長尾景虎が、長尾家の家督を継ぐことになる。

後の上杉謙信です。

また、上杉謙信には、血の繋がった息子は無く、上杉景勝、景虎の二人の養子が居ました。

上杉謙信が急死をした後、この景勝、景虎が、また、越後国を二つに分けて、また、争うことになる。

そして、景勝が景虎を倒し、越後国を再び、統一。

上杉家では、二代、続けて、兄弟が激しい家督争いをした訳ですが、幸いにも、家は滅びなかった。

 

やはり、武家にとって「家」を守るということは、最優先事項。

なかなか、身内で対立をしても、滅亡するということろまでは、行かないのではないでしょう。

 

さて、映画「乱」で、一文字家滅亡の元凶となったのは、「楓の方」ですよね。

 

これは、そもそもは、楓の方の一族が、秀虎に滅ぼされたことへの恨み。

この「悪女が国を滅ぼす」というのは、よく聞く話ですが、日本の歴史では、なかなか、見ないことだと思います。

僕自身には、記憶にない。

これは、日本の権力者が「絶対的」な権力を持っている訳ではないということなのでしょうかね。

つまり、権力者を女性が籠絡しても、その権力者の思い通りの政治を行うことは出来

ない制度になっている。

または、そもそも、女性が権力者を籠絡することが出来ない制度になっている、とか。

 

もっとも、「淀の方」が、豊臣家を滅ぼしてしまったとは言えるのかも知れない。

しかし、淀の方は、夫を籠絡して権力を握った訳ではない。

豊臣秀頼の母親として権力を持った訳で、これは、また、楓の方とは、立場が違う。

幼い権力者の代わりに、その母親が権力を振るうというのもまた、よくある話で、また、これは、他に権力者となる男子が居ない場合、武家として当たり前のことでもあった。

 

また、次郎は、鉄たち重臣に、操られたような格好でもありますよね。

鉄たちにそそのかされ、一文字家の頭領の立場になってしまった。

そもそも、三の城で太郎を殺害したのは、鉄の独断だったよう。

あまり優秀ではない主君を、優秀な重臣が支える。

これもまた、よくあるとこでしょう。

 

そして、主君に都合の悪い事を、敢えて、忠告をする。

これも、なかなか、難しいことですよね。

権力者に都合の悪いことを直言すると、三郎や平山丹後のように、排除されたり、処分をされたりしてしまう。

しかし、本当の「忠臣」は、敢えて、耳に痛いことも忠告をしてくれる家臣。

権力者に都合の良いことばかり言って、気に入られよう、出世をしようという人は、簡単に、都合が悪くなれば、主君を裏切ることになる。

 

これらは、日本だけではなく、世界に共通をすることなのでしょう。

だから、海外でも、評価が高いのでしょうね。