枯渇した口内から発せられた俺の声は、掠れてしまった。
やっと聞いた俺に、キョーコは嬉しそうに内緒話をするように耳元に唇を寄せてくる。
耳に掛かる吐息に体が自然と熱くなり、ズクンと下半身に熱が灯りそうになった。
キョーコはあの時、どんな風に乱れるんだろう。
どんな表情で受け入れて。
どんな瞳で俺を見て。
どんな声で啼くんだろう。
誰に教えられたのか考えると腸が煮え繰り返る程の怒りを感じる。
同時に自然とキョーコの裸を想像してしまう。
「あのね…」
(マズイマズイマズイ)
「赤ちゃんってね」
(ああ…神様)
「キスするとできるんだって」
(教えた奴出てこい!殺)
俺は、ズルズルと椅子から滑り落ちるようにカーペットの上に落ちる。
「私も全然知らなくて…だから気にすることないよ蓮兄」
何とも言えない脱力感が俺を襲う。
崩れるように座り込んだ俺にキョーコも一緒に座り、勘違いしたまま慰めの言葉をくれる。
「そ う……なんだ…知らなかったな」
(そうなら、キスが挨拶の国は今頃大変なことになってるよキョーコ)
「教えてくれてありがとうキョーコ」
知らなかった事を落ち込んでいると思っているキョーコを安心させるように微笑むと
「どういたしまして」
えへへとはにかむようにキョーコの笑顔が返ってきた。
キョーコが本当の事を知らなかったことにほっとする。
相変わらずピュアで乙女なキョーコ。
けど、それ嘘だから。
そう思ったが、俺はまだ真実をキョーコに教える気はない。
キョーコはまだ知らなくていい。
物心つく幼い頃から、今までずっと大切にしてきたんだ。
キョーコが成長していく様をこれからも、俺が1番傍で見守る。
小さな頃から、料理はキョーコが作ってくれて、勉強は俺が教えていた。
教えるのは俺。
だから今更その関係を誰かに譲る気はない。
勿論男と女の関係も。
「明日、ショーちゃんにも教えてあげなくちゃ」
「キョーコ…?」
教えて満足したのかキョーコは俺から離れるように立ち上がろうとし、俺にとって物騒な言葉を発する。
思わず力いっぱいその腕を取った。
「誰に…教えるって…?」
「え?ショーちゃんだよお向かいの」
(前言撤回。今すぐ本当の意味を教えても良いですか?)
「本当か試してみようか?」
「蓮…にぃ?」
「・・・キス」
ごめんね、嘘だけど…俺はそれを利用する。