『にゃ、にゃ、にゃんでぇぇええ~』
牧野つくし22歳
英徳学園大学部の4年生。
朝、目が覚めたら・・・
猫になってました(滝汗)
ぽてぽてぽて。
あたしは、今ゆく宛もなく街の中を歩いている。
道明寺とは去年、道明寺財閥の経営難とか長すぎる遠距離とか色々が重なって別れた。
道明寺との別れの先に待っていたのは、寂しさとか感傷的なものではなく、就職活動という現実。
はっきり言って、4年生後半からの就活は無理がある!
今日も何社目かになる中小企業の面接があったあたし。
なのに、会社に入ることも出来ずに追い出された(だって、猫だから)
どうしよう
このまま元に戻らずに
ひとりぼっち
涙を堪え、絶望的な気持ちで歩いていると、いつの間にか大きなビルの前に立っていた。
花沢物産
虚ろな目で、立派な建物を見上げる痩せ細った猫なあたしをこの立派なビルの住人たちは、不振な目で避けていく。
暫く、ぼんやりしているとざわめきと共に入り口から秘書を伴った長身の男性が出てきた。
薄茶色のサラサラの綺麗な髪。ビー玉みたいな澄んだ瞳。
花沢 類・・・。
その姿を認めて、私は彼に駆け寄った。
『にゃ~にゃ~にゃにゃー!!』(花沢類ー!!)
そして、感動の再会。
ではなく、猫パンチ・・・ならぬ猫キックを繰り出したあたし。
軽々避ける花沢類。
『にゃにゃー!にゃにゃにゃにゃにゃ~』(何で!避けるのよ~!)
「久しぶり牧野」
変わらない天使の微笑みで、あたしを見つめる類。
猫なあたしをちゃんと牧野と認識する。
やっぱり、類はあたしの心の一部なのね・・・
『にゃにゃにゃにゃお~ん(怒)』(なんて思うかぁーーー!!)
「ぶっ!クックッ・・・あっはっはっはっ牧野が怒った」
やっぱり、やっぱり、お前か!!
昨日、アパートに花沢類から荷物が届いた。試験を応援する手紙と栄養ドリンク。
嬉しくって、明日頑張ろうって思って、飲んだら、急に眠たくなって・・・・・・起きたら・・・(泣)
『にゃにゃにゃにゃんにゃ~ん』(酷いよ類~!)
「あぁ、ほら泣かないで牧野」
「る、類様」
「何?田村」
類はあたしをひょいっと軽々抱き上げて、戸惑う秘書の田村さんに視線を向ける。
「類様。その猫・・・いえ、そちらは、牧野・・・様ですか?ま、まさか、あの薬をっ」
あの薬って何?!
あたしは、類と田村さんの顔を交互に見ることしかできない。
「くくっ、さぁ?どう思う?」
青ざめる田村さんと対称的に、類はあたしを抱いたまま、楽しそうに笑いながら、車に乗り込んだ。
「大丈夫だよ牧野。強すぎないように調節したから・・・効果は3日間ってとこかな♪」
『にゃにゃん!』(何で!)
「何で?って顔してるね・・・ねぇ・・・司と別れてからあんたさ俺のこと避けてたよね?」
『にゃにゃにゃんにゃんにゃにゃんにゃにゃ』(そ、そんなことないよ花沢類の気のせいだよ)
「図星?・・・あんた猫になっても動揺するとよくしゃべるんだね」
ギクリ。
「電話無視されたり、忙しいから、会えないってずっと避けられて、俺がどんな気持ちだったかあんたにわかる?」
シュン。
うなだれて、緊張でピンと伸びていたあたしの尻尾は類の膝の上に垂れた。
「る、類様・・後5分程で○○社に到着します」
「わかった」
田村さんに返事をした後、類は、あたしに内緒話をするように猫耳に唇を寄せ、甘く低いテノールで囁いた。
「牧野。直ぐに仕事終わらせて来るね・・・会えなかった分、いっぱい鳴かせてあげるからいい子にしてて?」
しなやかな動きで颯爽と車を降りる類を見て、本当は、類の方が猫なんじゃないか。
回らない思考回路のなか、本気でそんなことを思っていた。
2月22日(猫の日)記念に書いてみました~。
また今年も桜の季節が訪れた。
車窓から夜の街並みをぼんやりと眺める。
あの日、目が覚めて牧野がいなかったことに、がっかりした反面、どこかほっとしていた。
目が覚めて、牧野の姿を認識してしまったら、あの時の俺は、自分を抑えることなんて出来なかったと思う。
ベッドに引きずり込んで、組み敷いて、思うがままに牧野に触れていただろう。
牧野がNYに行って2年になる。
入社式で、少しの緊張と希望を胸に顔を輝かせた新入社員たちが、2年前の牧野と重なったからか、この時期だからか、今日は牧野のことをよく思い出す。
牧野によく似た後ろ姿の新入社員を見かけて、目で追ってしまうくらい、季節が流れた今でも、俺は牧野を忘れられずにいた。
牧野は元気にしているだろうか。
司の元で幸せに暮らしているだろうか。
もうすぐ、結婚・・・するんだろうか。
ヴヴヴ ヴヴヴ ヴヴヴ
マナーモードの振動音で、我に返る。ディスプレイには、司の文字。
たった今まで考えていた人の恋人の名に溜め息が出た。結婚の報告か?動揺を押し殺して、息を整え、携帯を通話状態にする。
「もしもし」
「おう!類か?久しぶりだな」
「うん、久しぶりだね司」
「今、仕事中か?」
「いや、帰りの車の中だよ今日は入社式があったから早めに終わったんだ」
腕時計は、午後8時前を示している。
「そっか、じゃあ、話してても問題ねーな」
「大丈夫・・けどそっちは朝なんじゃないの?」
「まだ、出社に早ぇから大丈夫だ!」
それから、仕事のこと日常のこと総二郎たちのこと他愛のない話をする。だけど、不思議と牧野の名前が出ない。勿論俺からも聞くことが出来ない。
「そういやぁ、類!彼女出来たか?」
「は?何?突然」
「良いから、いんのか?いねーのか?」
「いない・・・そんな時間・・・・ない」
「そーかそーか類は独りかぁ・・・じゃあ、今度NY来た時にでも合コンでもしようぜ?」
「何・・・言ってんだよ司!」
「嘘だよ。今日はエイプリルフールだぜ?」
「そういう冗談好きじゃない」
「ははっ怒るなって あ、そうそう類誕生日おめでとう!」
牧野がいるくせに他に女とか。嘘でも聞きたくなかった。ムカついて通話を切ってやろうかと思った時、司からの思いも寄らぬ言葉に動きを止めた。
「誕生日ってもう過ぎてるけど?」
「あ?いいじゃねーかちょっとくらい!・・・・・・・・・だいたい当日なんてムカついて言えるかってのっ」
「え?何?司?よく聞こえない」
「あぁ?!何でもねぇ」
ぼそぼそと何か言った後の大声に、顔をしかめて、携帯を耳から離した。
「類お前マンションかわってねぇよな?」
「かわってないけど」
「んじゃいい。そこに誕生日プレゼント贈っといたから」
「え?!司が?」
「失礼な奴だなっお前だってワインくれただろうが!!・・・もう届いてっかもな」
「そうなんだ・・・ありがと」
「お?今日はエイプリルフールだぜ?とんでもねぇもんかもしれねーぞ?」
「は?何それ??じゃあ、いらない」
「へぇ、そんな簡単に。いらねぇなら俺としちゃ返品してくれてもかまわねぇけどな」
「何?!何なのさっきから?」
司のニヤニヤとした笑いと回りくどい物言いに、苛々してきた頃、車がマンションへとさしかかる。
「司、もうすぐマンション着く。荷物確認するから切るよ」
「あ、待て類っ!最後に言っとく・・・プレゼント大事にしてくれよ?俺が凄く凄く大切にしてた・・・もんだったんだ」
司の何かを慈しむような優しい声色と同時にエントランスの前に立つ、人影が目に入る。
昼間どこかで見たスーツに身を包んだ人が心許なそうに俯きがちに立っている。
俺は、その人影に向かって歩き出す。向こうも俺に気付いて顔を上げた。
「類」
2年前よりも綺麗になった君が、2年前と同じ声で俺の名を呼ぶ。
誕生日2日後に言われた司からのおめでとうは、嘘をついてもOKな日で。何が本当でどこまでが嘘かもうよく分からなかったけど。もうそんなことは後でじっくり聞いてやるから・・
あの日、君を想って流した涙と目の前にある牧野というリアルを。これだけは本当なのだと確かめるために。
俺は、そっと愛しい人を抱きしめた。
車窓から夜の街並みをぼんやりと眺める。
あの日、目が覚めて牧野がいなかったことに、がっかりした反面、どこかほっとしていた。
目が覚めて、牧野の姿を認識してしまったら、あの時の俺は、自分を抑えることなんて出来なかったと思う。
ベッドに引きずり込んで、組み敷いて、思うがままに牧野に触れていただろう。
牧野がNYに行って2年になる。
入社式で、少しの緊張と希望を胸に顔を輝かせた新入社員たちが、2年前の牧野と重なったからか、この時期だからか、今日は牧野のことをよく思い出す。
牧野によく似た後ろ姿の新入社員を見かけて、目で追ってしまうくらい、季節が流れた今でも、俺は牧野を忘れられずにいた。
牧野は元気にしているだろうか。
司の元で幸せに暮らしているだろうか。
もうすぐ、結婚・・・するんだろうか。
ヴヴヴ ヴヴヴ ヴヴヴ
マナーモードの振動音で、我に返る。ディスプレイには、司の文字。
たった今まで考えていた人の恋人の名に溜め息が出た。結婚の報告か?動揺を押し殺して、息を整え、携帯を通話状態にする。
「もしもし」
「おう!類か?久しぶりだな」
「うん、久しぶりだね司」
「今、仕事中か?」
「いや、帰りの車の中だよ今日は入社式があったから早めに終わったんだ」
腕時計は、午後8時前を示している。
「そっか、じゃあ、話してても問題ねーな」
「大丈夫・・けどそっちは朝なんじゃないの?」
「まだ、出社に早ぇから大丈夫だ!」
それから、仕事のこと日常のこと総二郎たちのこと他愛のない話をする。だけど、不思議と牧野の名前が出ない。勿論俺からも聞くことが出来ない。
「そういやぁ、類!彼女出来たか?」
「は?何?突然」
「良いから、いんのか?いねーのか?」
「いない・・・そんな時間・・・・ない」
「そーかそーか類は独りかぁ・・・じゃあ、今度NY来た時にでも合コンでもしようぜ?」
「何・・・言ってんだよ司!」
「嘘だよ。今日はエイプリルフールだぜ?」
「そういう冗談好きじゃない」
「ははっ怒るなって あ、そうそう類誕生日おめでとう!」
牧野がいるくせに他に女とか。嘘でも聞きたくなかった。ムカついて通話を切ってやろうかと思った時、司からの思いも寄らぬ言葉に動きを止めた。
「誕生日ってもう過ぎてるけど?」
「あ?いいじゃねーかちょっとくらい!・・・・・・・・・だいたい当日なんてムカついて言えるかってのっ」
「え?何?司?よく聞こえない」
「あぁ?!何でもねぇ」
ぼそぼそと何か言った後の大声に、顔をしかめて、携帯を耳から離した。
「類お前マンションかわってねぇよな?」
「かわってないけど」
「んじゃいい。そこに誕生日プレゼント贈っといたから」
「え?!司が?」
「失礼な奴だなっお前だってワインくれただろうが!!・・・もう届いてっかもな」
「そうなんだ・・・ありがと」
「お?今日はエイプリルフールだぜ?とんでもねぇもんかもしれねーぞ?」
「は?何それ??じゃあ、いらない」
「へぇ、そんな簡単に。いらねぇなら俺としちゃ返品してくれてもかまわねぇけどな」
「何?!何なのさっきから?」
司のニヤニヤとした笑いと回りくどい物言いに、苛々してきた頃、車がマンションへとさしかかる。
「司、もうすぐマンション着く。荷物確認するから切るよ」
「あ、待て類っ!最後に言っとく・・・プレゼント大事にしてくれよ?俺が凄く凄く大切にしてた・・・もんだったんだ」
司の何かを慈しむような優しい声色と同時にエントランスの前に立つ、人影が目に入る。
昼間どこかで見たスーツに身を包んだ人が心許なそうに俯きがちに立っている。
俺は、その人影に向かって歩き出す。向こうも俺に気付いて顔を上げた。
「類」
2年前よりも綺麗になった君が、2年前と同じ声で俺の名を呼ぶ。
誕生日2日後に言われた司からのおめでとうは、嘘をついてもOKな日で。何が本当でどこまでが嘘かもうよく分からなかったけど。もうそんなことは後でじっくり聞いてやるから・・
あの日、君を想って流した涙と目の前にある牧野というリアルを。これだけは本当なのだと確かめるために。
俺は、そっと愛しい人を抱きしめた。
昔、4月に書いた話でした。
次から次へと流れ出ては、頬を伝って服にシミを作っていく。
涙なんて記憶の限り、殆ど流したことのなかった俺は、涙の止め方なんて分からず更に動揺する。
拭うことも忘れて、ただただ目の前にいるボヤケた牧野を見つめ続けていた。
「類どうしたの?泣かないで類」
俺の代わりに牧野が持っていたハンカチで、頬に伝う涙を拭ってくれる。されるがままになりながらも涙は止まる所か優しい牧野の声に、益々量を増やしたみたいだ。
「何か嫌なことあった?悲しいことあった?」
いやなこと? そんなの そんなの
「まき・・・」
ヒク。
喉がヒクついて、声が上手く出ない。
「うん」
「ま・・き・・・のっ」
「うん」
「まきの まきの まきの まきの まきのッ」
「うん」
壊れたロボットのように、何度も牧野の名前を呼ぶ。その度に牧野は返事を返してくれる。
ポン ポン ポン ポン ポン ポン・・・
返事と一緒に一定のリズムで背中を叩かれ、動揺と緊張、色々な感情で固まっていた体が段々と緩んでいくのがわかった。
牧野、好きだよ。NYに行かないで。俺のそばにずっといて。
行かないで。置いていかないで、牧野。
この気持ちを今すぐに牧野に告げたら。
牧野は、呆れるだろうか。困惑するだろうか。いっそ、本音をぶちまけて、嫌われてしまうのも良いかもしれない。
友人ですらいられなくなっても、親友の隣から俺に笑いかけるあんたを見なくて済むのなら。
苦しい苦しいよ牧野。
こんな気持ち捨ててしまいたい。
だけど
それでも好きなんだ!
もう ずっと 前から。
「・・・る・・・・・・い」
遠くで牧野が俺の名を呼ぶ声がする。
その声と温かな温もりに包まれながら、俺は意識を手放した。
目が覚めた時、俺のそばに牧野の姿はなく。
それから顔をまともに会わさないまま、暫くして、牧野はNYへと旅立って行った。
涙なんて記憶の限り、殆ど流したことのなかった俺は、涙の止め方なんて分からず更に動揺する。
拭うことも忘れて、ただただ目の前にいるボヤケた牧野を見つめ続けていた。
「類どうしたの?泣かないで類」
俺の代わりに牧野が持っていたハンカチで、頬に伝う涙を拭ってくれる。されるがままになりながらも涙は止まる所か優しい牧野の声に、益々量を増やしたみたいだ。
「何か嫌なことあった?悲しいことあった?」
いやなこと? そんなの そんなの
「まき・・・」
ヒク。
喉がヒクついて、声が上手く出ない。
「うん」
「ま・・き・・・のっ」
「うん」
「まきの まきの まきの まきの まきのッ」
「うん」
壊れたロボットのように、何度も牧野の名前を呼ぶ。その度に牧野は返事を返してくれる。
ポン ポン ポン ポン ポン ポン・・・
返事と一緒に一定のリズムで背中を叩かれ、動揺と緊張、色々な感情で固まっていた体が段々と緩んでいくのがわかった。
牧野、好きだよ。NYに行かないで。俺のそばにずっといて。
行かないで。置いていかないで、牧野。
この気持ちを今すぐに牧野に告げたら。
牧野は、呆れるだろうか。困惑するだろうか。いっそ、本音をぶちまけて、嫌われてしまうのも良いかもしれない。
友人ですらいられなくなっても、親友の隣から俺に笑いかけるあんたを見なくて済むのなら。
苦しい苦しいよ牧野。
こんな気持ち捨ててしまいたい。
だけど
それでも好きなんだ!
もう ずっと 前から。
「・・・る・・・・・・い」
遠くで牧野が俺の名を呼ぶ声がする。
その声と温かな温もりに包まれながら、俺は意識を手放した。
目が覚めた時、俺のそばに牧野の姿はなく。
それから顔をまともに会わさないまま、暫くして、牧野はNYへと旅立って行った。