河野彩
まずもって現代音楽・コンテンポラリーは好んで聴かないが、お仕事なので送られて来るタイトルはとにかく聴く。コンテンポラリーと言っても定義は曖昧で色々な種類がありすぎて一概に言えないのだけれども、ジョン・アダムスのような環境音楽的な方向に振ってくれるのとそれはそれでわかりやすいが、正直なところ理解不能的なものもかなり多い。12音階技法とかセリーなどはプライベートではまず手に取らない。それでもオリビエ・メシアンのオルガン曲とかシェーンベルグぐらいはいいなと思ってたまに聴くことはある。ジョンケージは聴かない。
そういえば坂本龍一氏も雑誌の記事でもう調性、平均律の音楽には飽きたと言っていて『Acync』はまさにそれを反映したアルバムだった。長いスパンでの音楽の流れというのはそういう方向にあるのかもしれない。
このアルバムでヴァイオリニストの河野彩さんが主に取り上げているアンドレ・ジョリヴェ(1905-1974)は様々な手法を試した人で師事したのがヴァーレーズということもあり随分と前衛的な作品も書いたが、後には調性を守る方向に回帰していったように思える。シェーンベルグも調整音楽から無調へ、そして調整音楽へと戻ったのに似ている。
一曲目の『無伴奏ヴァイオリンのための狂詩的組曲』は古典的な形式であると説明されている。形式はそうなのかもしれないが私も含め一般人的には現代音楽。ここでのヴァイオリンの響きがとても美しかったので河野さんのご経歴を見てみると世界最古のひとつ名門のパリ国立高等同音楽院第三課程現代音楽科及び室内楽科修士課程を修了した方だそうで、コンクールでは一位ばかりだというのがすごいところ。情熱的なところと静寂、微妙に変化させるその音色の素晴らしさにもなるほどと納得いくところがあった。『呪文~無伴奏ヴァイオリン』は3分の小品だがG線だけで弾く曲でこれが技術以上にその制約によって醸し出される空気感をコントロールするのが非常に難しいらしい。他にはジョリヴェが研究対象にしていたバルトーク、また対比のコンセプトが似ているという三善晃の『鏡』を取り上げており、ジョリビエの曲との関係が分かるとなかなか面白いアルバムだと思う。
河野さんが師事したのは著名なヴァイオリニストのドヴィ・エルリーで、書かれてはいないが奥さんがクリスティーヌ・ジョリヴェというので調べてみるとアンドレ・ジョリヴェの娘さんだった。なるほど、こういう繋がりなんだとアルバムが企画された背景もハッキリしてとてもスッキリした。
2022-864