New Mozart | チーフ・エディターのブログ

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音楽配信の仕事上年間クラシック中心に毎年1,200枚ハイレゾの新譜を聴く中で気になったものを1日1枚。

Reinhard Goebel, Conductor;  Mozarteum Orchestra;  (Sony Classical) FLAC 96KHz/24bit

 

何がNewなのだろうかという疑問がわくタイトル。

 

一つは、ヴァイオリン協奏曲第6番。これは、長らくモーツアルトの作だとされてきたのだが、最近の研究では、モーツアルトがわずかに残した草稿を元にした、別の人物(ヨハン・フリードリッヒ・エック)の作だということになっており、今ではケッヘル番号も外されている。敢えて、これを収録したのは、Goebel自身は、この贋作の中にモーツアルトの息吹を感じているからか、でもこれは特に新しいものではない。

 

もう一つは、『セレナード第10番』。7楽章もあり演奏時間は50分を超えるので『グラン・パルティータ』と呼ばれ、好きな人も多い名曲だ。その管弦楽版。

 

もともと、この曲は12の管楽器とコントラバスという13の楽器だけの合奏曲なのだが、後年、フランツ・グライスナー(1761-1818)がそこに弦楽器をいれて管弦楽に編曲したものがある。彼はモーツアルトの死後、未亡人のコンスタンツェを助けてモーツアルトの写本カタログを制作したことのほうが知られているかもしれない。

 

Goebelは更に弦楽器を大幅に増やすことによって『オーケストラ版』にしたという大胆なもの。原曲とは違うダイナミックな協奏交響曲に仕上がっており、確かに今までにない新しいものだ。また聴いていてもいい感じである。

 

「私の大好きな小ぶりで気品を漂わせる菅楽曲をこんな大きく派手なものにしてしまって許せない」というこの曲を愛する方の声もあると思うが、これは、ひとつの名曲への現代の新しいアプローチとして楽しんだほうがいいだろう。

 

基本的に他人による編曲版が原曲を越えることはない。Goebelはそんな事は百も承知だろう。当然、原曲を大切にしつつその再発見を試みている。そこにはモーツァルトへの愛と楽曲への敬意を感じ取ることができる。

 

だからこそ、この『新モーツァルト』を楽しんで味わうことができている。