Arctic Dreams; John Luther Adams | チーフ・エディターのブログ

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音楽配信の仕事上年間クラシック中心に毎年1,200枚ハイレゾの新譜を聴く中で気になったものを1日1枚。

 Synergy Vocals (Cold Blue Music) 48KHz/24bit 

 

自然界と音楽の接点を見出す独創的な音楽家でピューリッツア賞とグラミー賞を受賞しているジョン・ルーサー・アダムス。

 

 

前回は『Become Desert』で砂漠を渡る風がテーマだったが、今回は長年住んでいたアラスカの大自然をテーマにした作品。

 

アラスカの森の中に自分で家を建てて住んでいたそうだ。

 

この曲は、そのアラスカのツンドラでエオリアン・ハープを聴いた経験から生まれたという。これはウインドハープとも呼ばれ、通常は木製の筐体と弦だけでできており、吹く風がその弦を震わせて音を出す琴のこと。

 

弦を張り、風が吹いていさえすれば勝手に音が奏でられるれっきとした楽器で、風の強弱にもよるが結構しっかりとした音がでる。

 

因みに、ショパンにはエチュード25-1Aeolian Harpという有名な曲がある。

 

 

 

このアルバムでは、ゆったりとした声と弦楽器の響きで大自然、植物、鳥、天気、季節を表現している。また、全体的にエオリアンハープの音色を意識した表現が出てくる。

 

明確なメロディを持たないため、アンビエント音楽に近いが、弦楽器をシンフォニックに鳴らしているところが独特だろう。また、短い旋律の繰り返しが多いため、ミニマルミュージックに近いともいえる。あるいはジョン・ケージか。

 

仕事で試聴する際には聴くに堪えない(と言っては失礼なのだが)現代音楽も時折あるのだが、それとはまったく違う創造音楽。同じようなものは聴いたことがない。だからこそ、アワードをとるのだろうが。映像などではシアトルシンフォニーのホールが満席になるくらいでその人気が窺える。

 

 

彼のつくる「音楽」というか「音の連鎖」はとても不思議な感覚で、この音の波動が創り出す音響の中に身を任せていると不思議なことに本当に風の音、鳥の声が聴こえてくる。

 

前作の『become desert』は砂漠にいるような、その前の『become ocean』では海の中に一体化しているような気分になる。

 

これは、長年アラスカの森の中で暮らして自然のエネルギーを感じ続けてきたアダムスだからこそなしえる表現でとても説得性がある。

 

そこには自然へのあふれる愛と同時に畏怖をも感じとることができる。

 

或いは破壊が進む自然の嘆き声だろうか。

 

ナチュラリストでもあるアダムスは、そんなメッセージもさりげなく入れ込んでいるような気がした。

2021-407

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

via Classic Music Diary
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