2025.9 NO.231 イラン VS ウラン
本日75歳になった。後期高齢者、正真正銘の老人になったと自覚する。が、発言は相変わらずガキっぽい。
トランプ政権(2.0)がスタートして半年が過ぎた。就任して数か月は期待していた状況とは異なり、トランプ大統領は苦しい立場に置かれていたと言えようか。
思い通りに行ったのは、大統領令に署名するだけの2回目の「パリ協定からの離脱」と恩赦ぐらいでは。とくに恩赦では、トランプ大統領が就任初日に2020年の大統領選に敗れた折翌2021年に連邦議会を襲撃した1,600人にも及ぶトランプ大統領支持者ら暴徒を解放した。
相手がある交渉は思い通りになっているとは言えない。とくに誤算と言えるのは停戦仲介が不調にて停戦の仲介によりノーベル平和賞を受賞するというトランプ大統領の目論みはご破算か。
トランプ大統領(1.0)に就任した時政治家出身ではなく言動も粗野で何するか分らないと恐れられていた。トランプ大統領が高圧的な言動をすれば相手は譲歩した。
トランプ大統領(2.0)は「ウクライナ戦争は就任後1日で解決できる」と豪語した。トランプ大統領なら1日では無理でも停戦を実現させウクライナに春が訪れることを期待した。
しかし、そうはならなかった。トランプ大統領の「停戦の仲介」は、バイデン前大統領の参戦しない発言と同様ロシアのプーチン大統領を安心させてしまった。
プーチン大統領が唯一恐れるのは米軍の参戦。「ある程度有利な条件で停戦させる。停戦に応じなければ、バイデン前大統領は参戦しないと言ったが、米軍を参戦させる」と迫るべきであった。
しかるに、「弱腰外交の推進者」と揶揄されたジミー・カーター大統領(2002年ノーベル平和賞)張りの平和外交と他国の戦争に関与しないとの「米国第一主義」を事前に唱えれば、プーチン大統領はトランプ大統領の言うことを聞かなくても済むと思ってしまう。これまで以上の経済制裁など高が知れていると思い、トランプ大統領をいい様にあしらった。
それに嫌気が差したトランプ大統領はウクライナ停戦に興味を失ったかと世界に思われた。
久しぶりに7/15にトランプ大統領が「ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアが50日以内に停戦に応じなければ、厳しい関税措置を」と言った。が、プーチン大統領に「50日間はウクライナを思い切り攻められる」と思わせただけかもしれない。ようやくそのことにトランプ大統領が気がついたようだが、打つ手は経済制裁でしかない。業を煮やしても参戦は無論のことウクライナへの長距離砲の提供もイラン攻撃でさえ反対したMAGA派の議員等が許さないだろう。
さらに、鳴り物入りの関税政策は発表するや米国債が暴落したことを受けて相互関税の90日間一時停止へとマッチポンプさせる(さらに関税政策の発動を7/9→8/1にさらに延期させている)。
対中国においては、米国が4/2相互関税を発表するや中国は4/4レアアース7種を輸出許可制にして対抗。実質米国が白旗を揚げることに。
脅せば相手が譲歩するとの強面のメッキが剥げ、脅しても自身が譲歩してしまうTACO(Trump Always Chickens Out)と市場関係者に揶揄されてしまう始末(昨年10/18米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは「トランプ氏、台湾有事なら『中国に最大200%の関税』軍事力は使用せず」と報じていた。しかし今年7/9には米CNNは「トランプ大統領が昨年の大統領選期間中、中国が台湾に侵攻すれば「北京を爆撃する」と発言していた」と報じた。トランプ大統領は発言がぶれるからフェイクニュースとは言わないが、今頃報じられるのはTACO呼ばわりを払拭する為としか思えない)。
イスラエルとハマスとの戦闘においても終わらせると言っていたが、ネタニヤフ首相はトランプ大統領の言うことを聞かない。トランプ大統領はイスラエルがイランを攻撃することも反対していたが、イスラエルが攻撃してしまった。
イランはイスラエルを国家として認めず「イスラエル破壊」を国是とする。それに対して、イスラエルは「タコと戦う場合、足だけでなく、頭部を攻撃するべきだ」との『オクトパスドクトリン』を主張している。今回ハマスやヒズボラ、いわゆる「タコの足」を切り取り、タコの頭であるイランを叩く好機として捉えた。イランの核武装間近を大義名分として(タコの頭の後はタコの足であるシリアへの攻撃も)。
ネタニヤフ首相を抑えられず、またチキンやTACOと呼ばれることを最も忌み嫌うトランプ大統領は、イスラエルのイラン攻撃が上手くいったことに乗じて、なりふり構わず急変(「豹変」は良い意味の時に使う)し米軍にイランの核施設を攻撃させた。
トランプ大統領はネタニヤフ首相とバーター取引をしたのではないかと思う。イスラエルにないバンカーバスターを所有する米国がイランの核施設を攻撃する代わりにイスラエルはハマスとの戦闘を停戦させると(停戦の障壁となりうる収賄、詐欺、背任の罪が問われているネタニヤフ首相の裁判について、トランプ大統領は恩赦をと内政干渉)。それを裏付けるかの如くガザ停戦交渉にイスラエルも前向きとの報道が出た(ハマスとの合意は得られなかったようだが)。
今回の米国のイラン攻撃をボクシングに擬えれば、いわばMEW(Middle East West)ミドル級チャンピオンのイスラエル選手がMEE(Middle East East)ミドル級チャンピオンのイラン選手からそのタイトルを奪うべく闘い、イスラエル選手の攻勢の中現役の世界ヘビー級チャンピオンなのにその米選手が審判となり審判自身がイラン選手をボコボコしにした。試合を早く終わらせるためにと。そして正式な試合として試合終了を宣言してしまった。
そんな理不尽な扱いでも我慢するしかないイラン選手は内心では復讐の炎を燃え滾らせていることだろう。
米軍の攻撃はイランの核兵器製造を半年遅らせたに過ぎない、濃縮ウランも確保しているとの見方もある。
そうでないにしろイランは絶対核武装を諦めないだろう。NPT(核拡散防止条約)から離脱するか、そうでなく核協議に応じても面従腹背して。戦後まだ見ぬ核兵器の実践使用は、ロシアより(核兵器を持つと言われる)世界からの批判などどこ吹く風のイスラエルの方がよほど危険であろうし。
トランプ大統領はイスラエルとイランの戦争を自身が停戦させたと胸を張ろうとも、そんな停戦が、平和の使者と言えるものではない(過去疑問符がつくケースも散見されるノーベル平和賞ならNATOに加盟するノルウェーがNATOにつなぎ留める為トランプ大統領に授与することもなしとしないが)。
米国のイラン攻撃に対して、議会の承認を経ずイランを攻撃したと民主党だけではなく共和党からも批判されている。トランプ大統領を熱烈に支持するMAGA派までも反対した。
なおさら、多極化に向かう中グローバルサウスやアジアはロシアへに対する対応とイスラエルに対する対応のダブル・スタンダードを批判し、米国と追随する欧州とから離れていくのを加速させるだろう(今回のイスラエルと米国がイランの核施設を攻撃したことには欧州は批判しようともしない。ロシアがウクライナの原子力発電所への攻撃をしないかとかくうんぬんするのに)。
日本の石破首相はイスラエルのイラン攻撃に対して7/13「イラン核問題の平和的解決に向けた外交努力が継続している中、イスラエルにより軍事的な手段が用いられたことは到底許容できるものではない。極めて遺憾で、今回の行動を強く非難する」と発言した。
しかるに2日後の7/15からのG7サミットでは、掌返しのごとく他のメンバーと同じくしれっとイスラエルを容認してしまったのか。マッチポンプなら発言しなかった方がよほどましだ(週刊新潮7/10号の連載コラムにて佐藤優氏が石破首相を擁護している。佐藤氏を“知の巨人”として私は敬仰しているが、イスラエルがらみの話に限ってはいつも賛同しがたい)。
アジアやグローバルサウスから信頼を勝ち取るチャンスでもあったのに。石破首相はプロの政治家ではないのか。トランプ大統領もざる碁だが、プロの囲碁棋士は少なくとも数手先を読んでから打つ。
安倍首相の時代自民党総裁を3期9年に変更するとき党内野党的立場の石破氏は反対したが、結局「それはそれとして」と言い容認した。それは自民党村の中での話。
しかし、首相にはそれは許されない。国民だけではなく世界が観ている。G7後「私の思いは理解されたが、全体の流れを変えることは出来なかった」ぐらいのことは言えないのか(トランプ大統領のように平気で嘘をつけとは言わないが、政治家は保身ではなく国益を損ねかねない場合政治的発言をするものではないのか)。
嫌われることを厭う必要はない。しかし、かつて大敗した安倍首相や麻生首相に辞任を迫ったという石破首相は参院選も大敗しておきながら自ら続投と口にするとは。筋を通さない(発言に責任を持たない)者は、嫌われるだけではなく、信頼もされない。
せっかく起死回生したのに、国民が期待する自身の信念を発揮することもせず、妥協に妥協を重ね、その姿に国民は失望し審判を下した。それなのに、潔く辞任せず、続投に必死に足掻く。「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もある」の場をはき違えてる。政治家としての「志」は首相になることだったかと皆に思われてしまう。石橋湛山は空の上から「その程度の者が私の名を引き合いに出すとは、笑止千万!」と怒っているか。
性加害疑惑の大物芸能人たちが記者会見せず、長期独裁のテレビ局のトップが社の存亡の危機に雲隠れするそんな風潮の中で誇り高き日本人の矜持はこうあるべきと首相が国民に範を示す時なのに(皮肉にもトップの責任を果たさない首相を一部の国民が擁護している)。
来る総裁選には国民から人気の高い議員達の中から看板を替えるだけでは自民党は復活しない。自民党議員はそれをよく心得て総裁選に臨んでもらいたい。
石破首相はNATOの会議に出席しなかったことも批判された。それは批判するに当たらない。日本が今後重視すべきは、日いずるグローバルサウスやアジア。日没する欧州と与する必要はない。欧州は、ユダヤ人に負い目があり、中東諸国には恨まれている。日本はどちらも関係ない。欧州が天敵とするロシアとは「対決」ではなく「対話」が日本にとって必要。
NATO諸国がNATOに不可欠ながら離れていくのを必死で留めようとする相手国米国とは日本は強固な日米同盟関係にある。NATOからすれば日本は必要かも知れないが、日本はそうではない。与すれば、米国をつなぎ留めるための無理な「軍事費GDPの5%」を日本も背負わされるかもしれない。
NATOを主導する、マクロン仏大統領は口先だけだし、イランを攻撃したイスラエルを「汚れ仕事をしてくれた」と言うメルツ独首相は口の悪い私からすればイカれている。
第二次世界大戦での失敗は、米国と戦争したことよりも、その前の米国の策略に遭い日英同盟を破棄し、ドイツと同盟を結んだこと。極論すれば、極端から極端へ走るドイツと与してはならないというのが歴史的教訓。NATOの首脳が劣化している中で、連携してもよいのは“腐っても鯛”の英国ぐらいではないか。
日米同盟堅持を前提とするなら、地政学的に日本が重視すべきなのは、米・英・豪の軍事同盟AUKUS(オーカス)と日・米・豪・印の非軍事的連携 QUAD(クアッド)とであると思うのだが。
トランプ氏の誤算と言えば、天才イーロン・マスク氏との早すぎる決別もある。マスク氏とトランプ氏はともにリバタリアンで気が合うが、マスク氏は政府を不要、少なくとも大きな政府を批判する立場。公人としてのトランプ氏は合衆国を米国として一つにまとめる連邦政府の長。いずれ二人は反目する時期が来ると見ていた(マスク氏が共和党に乗り換えたのも、民主党がテック企業等の規制に乗り出した為)。
トランプ大統領及び熱心な支持者は、ディープステート(闇の政府)の存在を信じていようが、本当にあるか分らないものの、下品で教養がないトランプ氏を大統領として認めない官僚が多いのは確かであろう。その官僚達の排除をマスク氏にしてもらうと考えたのではないか。日産の生え抜き役員が自ら手を汚さずゴーン会長に人員削減と経営合理化をしてもらったごとく。
マスク氏はDOGE(政府効率化省)を率い大ナタを振るい大幅な人員削減や海外援助の一時停止を行ったが、行政の混乱を招くだけではなく、国民からの反発を招き、大幅なテスラ車の不買・株式の下落を招いた。
マスク氏はトランプ政権の閣僚達とも軋轢を起こし、連邦政府の長としてのトランプ大統領はマスク氏を事実上排除せざるを得なかった。
マスク氏は、多大な犠牲を払い財政の立て直しに寄与したと思うも、希望するNASA長官人事も採用されず、あげくトランプ大統領が大幅減税政策をぶち上げたことで堪忍袋の緒が切れトランプ大統領を罵った。
道半ばのたった4カ月余りで米国大統領とテック企業の雄との見苦しい確執を生んだことは、トランプ政権に暗い影を落すとともに米国の威信をも傷つけた。
2.20付けの日経新聞よれば、「トランプ米大統領は2/19自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、自らを指し「王様万歳」と書き込んだ。さらにホワイトハウスの公式アカウントもXで王冠をかぶるトランプ氏のイラストを投稿したという。
今はイランを叩き、肝いりの大型減税案が通り、インフレもまだ昂進していないので、トランプ大統領は王様気分に浸っているのでは。しかし、王様は王様でも、静かに“裸の王様”に近づきつつある言える。意に沿わぬ忠言する側近を排除する、知らないことへの理解力が極度に低いのであれば。
来年の後半にでもになれば、裸の王様と呼ばれるか。支持者は忖度閣僚とキリスト教福音派だけになってもおかしくない(その前に大スキャンダル故エプスタイン事件の成り行き如何では“裸で地に落ちた王様”になるやも)。
TACOと呼ばれても内弁慶ぶりを発揮して反対する共和党議員をどやしつけてなんとか成立させた「大きくて美しい法案」とトランプ大統領が呼ぶ大型減税法案は富裕層向け所得減税の延長に加え、州・地方税(SALT)や相続税の控除上限引き上げが成される一方、メディケイドや補助的栄養支援プログラム(SNAP)等の低所得層向け支出が歳出削減されるという(10年で1,200万人が健康保険を失うとか)。
また、本減税案が成立した場合、連邦政府債務は10年間で3.1兆ドル拡大し、財政赤字額はGDP比で7.6%に達するのではとの見立てもある。
「美しい国へ」と言った安倍元首相の世紀の実験的失敗と言うべきアベノミクス(未曾有に財政を悪化させたが、円安と富裕層を利しただけ)を彷彿させる。
それに加えて、関税政策(物価高)、移民抑制策(賃金上昇の価格転嫁)、トランプ大統領によるFRB議長への利下げ圧力(ドル安による輸入物価高)などからインフレが昂進していく可能性が高い。
関税は、それを減税(累進的で富裕層をより利する)の原資にするだろうが、最終的に負担する米国民にとっては増税と同じ。そして消費税と同じく累進的ではなく逆進的で、低所得者の生活を苦しめる。
来年11月の中間選挙では、2024年大統領選でトランプ氏に投票した低所得者層はトランプ大統領に厳しい評価を下すであろう。マスク氏が息まいた「大型減税案に賛成した共和党下院議員を落選させる」ことがあろうとなかろうと、下院は民主党が主導権を奪回し、トランプ大統領の完全独裁体制は終わるのでは(もともと下院はとくに大統領への信任投票の側面が強く1950年以降の中間選挙を振り返ると下院で与党が議席を増やしたのは2回しかないという)。
トランプ大統領はレームダック化を避けるべく3選を目指すと吹聴するかもしれないが、もはや誰も現実化するとは思わないだろう。
トランプ大統領が再選に執念を燃やした一つには、刑事裁判における被告人としての自身に対する恩赦を得ることではないか。
恩赦は自身で自身を恩赦できない。トランプ大統領はバンス副大統領に対して禅定と恩赦とのバーター取引を持ち掛けるのか。ただ、バンス副大統領にとっては禅譲されても民主党大統領候補に負けては意味がない。MAGAの代表としてイラン攻撃には反対なるも大統領に忖度する姿勢を貫いているが、果たしてトランプ大統領と決別する日が来るのだろうか。
(次回232号は8/20アップ予定)