2023.2 NO.185 ン VS フ
 昨年は年初よりウクライナ戦争が起こり年末恒例の一字は「戦」となったが、新年は昨年より平和な年になるのでは。小康状態でもそうなると私は信じたい。
 昨秋米国の中間選挙が終わった。民主党が上院での勝利が確定した後も共和党優位予想の中接戦の下院について中々全国紙は触れようとしなかった。11/15の『NHK米国中間選挙2022-NHK特設サイト』の15時01分時点で共和党が217議席となったのに、11/15中で「共和党217議席獲得 過半数まであと1議席」と報じたのは、地方紙などで、全国紙ではいち早く報じた日本経済新聞のみ。大手4紙は、『Yahoo!』で確認する限り、報じていないのでは。政府だけではなく、権力を監視するハズの大手メディアも米国に従属しているのかと唖然とした(翌16日米国メディアが「共和党が下院で過半数確実」と報じると一斉に報じ始めた)。
 ともあれ、予算の先議権を有する下院では辛勝ながら共和党が勝利した。新春早々下院議長選が共和党保守強硬派の造反により難航したが、これから共和党が下院にて主導権を発揮していく。
 10月時点でバイデン民主党政権は、ウクライナに総額182億ドル(約2兆7千億円)超に上る軍事支援を実施してきた。非軍事支援を含むと520億ユーロ(約7兆6,200億円、約7割)を超えるとドイツのキール世界経済研究所は見ている。
 これだけの支援をして得たものは、何があるのか。たしかに米軍産複合体は潤った。バイデン大統領が蛇蝎のごとく嫌うプーチン大統領を窮地に追い込んだ。しかし、経済制裁はルーブルの価値も下がらずロシアを弱体化させたとは言えない。代償の方がはるかに大きいのではないか。エネルギー価格や小麦価格等の高騰を招き、戦争を仕向けた米国だけではなく世界中の低所得者の生活を困窮させている。代理戦争させられたウクライナは国土が荒廃し多くの住民が犠牲となっている。西側が民主主義の敵とするロシア、北朝鮮、イランの結束を固めてしまった。
 さらに、第3次世界大戦に向かう、ひいては核戦争かとの危機感を世界中に覚えさせた。バイデン大統領はロシアを戦争に引きずり込ませる為に「(米国はロシアとの核戦争を避けるために)参戦しない」と言ってしまった。核の抑止力は、「敵が核兵器を使えば必ず核兵器で報復する」ということにあるのに。それで、非核保有国ウクライナと核保有軍事大国ロシアとのあり得ない戦争となった。バイデン政権の誤算は、予想するよりはるかにロシア軍が弱かったことではないか。NATOがウクライナに加担するとはいえ、ロシアが核兵器を使わなければ挽回が不可能になる事態は想像していなかったのではないか。西側支援のウクライナとロシアとが通常兵器でほぼ互角の戦いが続きウクライナを犠牲にしてロシアを疲弊・弱体化させることを想定していたのではないか。
 頼りの綱の習近平総書記も反対しているので、プーチン大統領は自重しているが、戦況がより悪化すればロシアの強硬右派の圧力に屈するかもしれない。ロシアが戦術核であれ使用すれば、米国が窮地に陥る(表向きはロシアの黒海艦隊への壊滅的報復などと脅しているが、水面下ではどうか分からない。ロシアは核を使わせないなら米国が手を引けと言い返しているかもしれない)。報復として米国・NATOが通常兵器でロシア軍を猛攻撃せざるを得ないが、そうするとロシアが戦略核戦争への構えを見せるかもしれない。
 囲碁で喩えれば、60年前のキューバ危機は、米国にとって足元のキューバは本コウ。ソ連にとっては花見コウ(元々敵方のもの。取られても痛くない)。それでソ連が回避した。今般のウクライナはプーチン大統領にとって本コウ。米国にとっては花見コウ。チキンレースから降りるのは米国の方。バイデン大統領はチキンとのそしりを受けても。
 逆にバイデン大統領に不退転の決意があったとしてもそれを許す環境ではなくなる。ウクライナ支援の2023年予算は民主党で確保したかもしれないが、思うように支出できるとは限らない。それもあって昨年末ゼレンスキー大統領を米国に呼び議会で支援継続要請の演説をさせたのであろう。

 トランプ元大統領の神通力が陰りを見せても、トランプイズムは残る。MAGA(Make America Great Again)の共和党下院議員たちがバイデン大統領を攻撃するのでは。バイデン大統領の次男ハンター・バイデン氏とウクライナや中国との疑惑に対する追及によって。
 何にせよ、バイデン大統領の思惑通りに事は進まないだろうから、共和党の圧力に屈したと言われる前にウクライナ戦争の休戦の方向に舵を切ることもありうるのでは。それでも、攻勢にあり戦闘を止める気のないゼレンスキー大統領が従うとも思えず、時間を要するだろう。今もロシアからの直接の砲弾だけではなく、砲弾によるインフラ破壊に基づく酷寒さがウクライナ住民の命を奪おうとしているのだが。


 我々一般住民は、ウクライナ戦争を見て、初めて「専守防衛とは何か」に気づいた。ウクライナと同じ自国が戦場になることを意味する。日本は島国であり、まずミサイル攻撃で日本の軍事基地や通信施設等が破壊される。その後に上陸される(陸路で避難できるウクライナ人のようには海に囲まれた日本の人々は容易には国を脱出できない)。その後はウクライナと同じ。たとえ戦争に勝っても、国土が焦土化し、経済が壊滅的になり、大勢の無辜な住民が犠牲となる。
 日本が攻撃されたら、平時住民を救援・救助する自衛隊の自衛官は戦時は本職の兵士となり、我々は護ってもらえず、IT技術者、医師等特別なスキル・資格を持たないなら人道回廊も墓場に続くだけかもしれない。日本を攻撃するとすれば民間人の生命を重んじる?西側先進国からではない訳だし。
 ウクライナの惨状を見ていながら、明日は我が身だと思わず、我々一般住民が、国民の生命と財産を守ることを後回しにしているような政府の軍事力増強に対し、尻馬に乗って世論として“加油”するのなら、歯ぎしりするほかはない。
 攻撃される最悪の事態を想定し、軍事力で対抗することを考えるのは、防衛省であり、国の軍事研究者たち。憲法第9条を擁し平和国家を標榜する国のトップは、それを指示する一方で、なんとしても戦争にならないよう外交努力に傾注しなければならない。病気は「治療」よりも「予防」なのだ。紛争は、「戦争」よりも「外交」なのだ(米中戦争となれば日本が戦場とされる)。

 それなのに、BS情報番組では、産経系に限らず、朝日系、毎日系までもが軍事研究者等を招いて連日ウクライナ戦争の戦況、使用兵器や自衛隊幹部OBのロシアへの攻め方の話ばかり。観続けて疑問が湧いた。BS情報番組は自衛隊員の為にあるのか。私達一般住民は何のために見せられ続けているのか。

 安倍政権下、暴走しがちな河野防衛大臣が突如イージスアショア配置の断念をぶち上げた。敵国からのミサイル攻撃による大きな被害から国民を護るために配置するのに、大事の前の小事でしかないブースーターが自衛隊内や海上に落とすことが確実でないからとして。それから自民党は突拍子もない敵基地攻撃に替えると言い出す。腑に落ちぬ(日米同盟における「米国は攻撃。日本は専守防衛」の役割分担の見直しを米国から要求され、憲法9条の制約の中での過渡期的な対応なのか(どう見ても“ふつうの国”に変わろうとしているのに、憲法第9条をどうするか政府は国民に問おうとしない)。

 そして住民を護る代替措置が検討されず放置されていると言っても過言ではない。戦争のゲーム「将棋」でもまず守りを固めてから攻めに転ずる。サッカーWCで決勝トーナメントに進出した森保ジャパンも前半守りを固め後半から攻める。
 米国で最もファンが多い「アメフト」でもヘッドコーチ(首相)の下に「オフェンス・コーディネーター」と「ディフェンス・コーディネーター」がいる。日本には今ディフェンス・コーディネーターがいないのではと不安視するのは私だけであろうか。そんな中宏池会政権に代わり見直しを期待した。しかし、評判の悪い「敵基地攻撃能力」を「反撃力」と文言を変えただけで、安倍政権での方針を追従しているだけではないか。
 今や中国が筆頭仮想敵国であり、国土が日本の25倍ありかつ核大国の中国に対して年間国防費が中国の1/7?の日本が敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有したからといって抑止力につながると本当にそう思っているのか。抑止力はあくまで日米同盟と米軍の日本駐留であろう。極論ではあるが、米国が日米同盟を破棄することを心配するなら、(ウクライナのように)攻撃されないようにするには、知の巨人・トッド氏が再三日本に提言する核武装は政治的にも物理的にもできないので、米国が嫌がる中国と同盟し人民解放軍に駐留してもらうほかはない。
 万が一の為と言うなら、反撃力を強化しても、すべてのミサイルや砲弾の着弾を防ぐことは出来ない。世界一強の米国と同盟し米軍が駐留する日本に攻撃を仕掛ける他国はないと高を括ってなおざりにしてきた硝煙弾雨に対する国民の保護措置を最優先課題とすべきだ。
 軍事力の基盤となる経済力が低迷したままなのに、米国・NATOに「防衛予算をDGPの(5年後)2%に」を勝手に約束し、国会議員が身を切ることもせず、「歳出改革」の一言では本気度も怪しい中で、1兆円で済みそうにない増税により国民に負担させるのか(政府にとって主権者は米国。国民には、安全保障での大転換の説明も相談もなく、その為の防衛費増枠の手段についてのみ政府と自民党との国債か増税かの議論を通じて知らしめる。そして増税を押し付ける)。

 矜持を失ったのかメディアも、防衛費の財源論議をとり上げるが、根本の安全保障の大転換の問題を大きく報道しようとはしない。この国は極めて不健全になりつつある。

 日本国民も軍事力増強で生活が犠牲にされている北朝鮮の人民を哀れんでいる場合ではないが、その北朝鮮の脅威をタカ派はことさら強調する。しかし、トランプ前大統領と同じく、ICBM発射時に娘をお披露目した金正恩総書記も娘思いでは。政治的意味合いがあるにせよそんな愛娘を堂々と表に出す独裁者は、核兵器を盾にする(核実験は何回しても実験に過ぎない)、あるいは他国に売るだけで、戦争などするとは思えない。金総書記の目的は、何よりも金王朝の存続であり、他国への侵略などにはないだろう。

 そんな北朝鮮の軍事的示威行動としての度重なるミサイル発射(吠えるだけの黒毛犬を前の金毛犬のように構うのならまだしも目の前で金毛犬が吠えたら黒毛犬がよけいに吠えるのは当たり前)を理由に先制攻撃と非難されかねない自民党の敵基地攻撃路線を容認する(平和の党としての看板が古ぼけてきた)公明党山口体制をいつまで創価学会は許すのか。旧統一教会問題の火の粉が降りかかりそれどころではないにしても。
 国家財政が厳しくかつ少子化で国が縮んでいく中で平和国家を標榜する日本の反撃力の主力は、米国から購入する大型高額の軍事兵器ではなく、直接人を殺傷せず核攻撃等攻撃システムを狂わせる、事前に阻止する積極的サイバー防衛(アクティブ・サイバー・ディフェンス)になるべきハズだ(サイバー防衛に金も人も投入せず、中国、ロシア、北朝鮮等からも大幅に遅れている。その改善が焦眉の急なのに兵器増強による敵基地攻撃能力の強化はどうなのか。しかも厳密に必要な物を積み上げていくのではなく、防衛予算を拡大したからと利権として予算を奪い合うのであれば)。
 そんなオフェンス・コーディネーターは宏池会所属の小野寺五典議員(自民党安全保障調査会会長)が担っているように見える。その小野寺議員は、11月初め北朝鮮のミサイルが日本上空を過ぎ去った後にJアラートが鳴ったことに関し、他人事のように「恥ずかしい」と言い捨てた。大臣とか政府の重職についていないとは言え、「(3度の)防衛大臣の職にあった者の一人として責任を感じる」と陳謝すべきなのでは。

 TV番組で観る限り元海将の香田洋二氏の方が政治家よりよほど日本国、日本国民を守るべくバランスの取れた発言していると思う(海自「特定秘密」漏洩問題において、敵国側に渡った訳でもないのに海自幹部が懲戒免職されたのに対し法的に問題はないしろ元海将の名前が公表されないのはバランスを欠く。それは「防衛費増額は身の丈を超えている」と警鐘を鳴らし政権の方針に盾突く形の香田氏がその元海将ではないということも意味するか)。

 専守防衛から逸脱すると敵基地攻撃能力に異議を唱え見識あると期待した岩屋毅元防衛大臣は、匙を投げたのか、四面楚歌なのか、大分県知事選に出馬意向を表明(結局出馬辞退に)。
 

 小野寺議員が宏池会に所属することがおかしいのか、首相も首相だから宏池会自体が変節したのか(古賀誠宏池会前会長は、奥歯に物が挟まった言い方ではなく、叱責してもらいたいのだが)。宏池会であれば、日米同盟があるとはいえ日本の独自の国益も考えて隣国中国、ロシアと「外交」すると期待した。が、米国の代弁しかしていないように映る。
 11/18鈴木宗男参院議員のパーティで共に北方領土返還に向け尽力してきた森元首相が挨拶に立ちウクライナの(自身の保身の為に国民を戦争に巻き込んだ)ゼレンスキー大統領を「多くのウクライナの人たちを苦しめている」と批判した(江川紹子さん程の人でも揶揄するが、いつものような失言ではない。政治的背景を踏まえた一つの見識。日本人はいい加減プーチン「悪」、ゼレンスキー「善」とのステレオタイプ化した見方から卒業しては。私にすれば両大統領及び米大統領も皆が「悪」)。
 その返す刀で、ロシアに厳しい姿勢の岸田首相も「米国一辺倒になってしまった」と森元首相に言われてしまった。対米追随の清和会に言われて、どうする(対ロシアに関しては必ずしも一辺倒でもないが、岸田政権は中国寄りと疑う米国に認めてもらおうと躍起になるあまり、北方領土の返還を積年の悲願とする北海道住民の気持ちに思いを馳せることができないのか。防衛費に復興特別所得税を転用と言われた東日本大震災の被災者の気持ちに対しても同じだろう)。
 本来味方でなくとも敵ではないハズの作家保阪正康氏に「宏池会の系譜に学ばぬ首相に失望した」と言われる。叱咤激励とは言えない。

 2000年世界2位にあった一人当たり名目GDP(39,172ドル)を2021年27位(39,301ドル)にまで押し下げ近い将来台湾、韓国に抜かれるとされ、バブル崩壊後失われた10年を30年にし、さらに貧富の格差を拡大させてしまった清和会政権からようやく宏池会政権に代わり、私は大いに期待した。決断力ないとの批判に岸田首相は独断専行すると悉く裏目に出て首相としての資質を疑われても、それでも支持する気持ちは変わらなかった。

 しかし、金額ありきの「国防費5年で43兆円」を土産に岸田首相は1/13?から訪米する(朝鮮李王朝流に言うと、岸田チョナーがバイデン・ペーハーに朝貢に行く)のを聞くに及び、支持率が下がる一方の岸田宏池会政権を庇う気持ちが急速に萎んでしまった。

(次号186号は2/1予定)