2021.8 臨時号 NO.157 テンピンルー VS テンピンルー(2)
  私は、学生時代に麻雀を覚え、大学生活の大半を麻雀に明け暮れた。その頃から賭けないで麻雀することはほとんどなかった。なぜ賭けるのか。仲間内からお金を巻き上げることが目的ではない。賭けないと、役満とか大きな役ばかり狙ったり、危ない牌を平気で捨てる。真剣勝負にならないからだ。同じ通常4人で回るゴルフも同じ。池越え2オンしないのに何発も池に入れて同伴者をしらけさす。期待に反して調子がでないと投げやりなプレーをする(当時の私のことか)、それをさせない為にニギる(賭ける)。
 50年前大学の近くに本業でない他業態が雀荘を併業し始めた。変だなと思ったが便利なのでよく利用していた。ある日突然部屋のドアが開けられ、「そのまま! そのまま!」と言ってフラッシュを炊かれた。そんなとき我々はどんな行動をとるか。思わず4人とも麻雀台の下に首を突っ込んだ。無様で恥ずかしい。他の雀荘がたれ込み国税が乗り込んできたのに遭遇したらしい。その時は我々も常習賭博で摘発されるのかと一瞬ながら不安を覚えた。
  故阿佐田哲也の小説を映画化した『麻雀放浪記』で、鹿賀丈史さん扮するバイニン・ドサ健が、麻雀の為に大竹しのぶさんが演ずる彼女まゆみの家の権利書を取り上げ、彼女を女郎屋に売り飛ばそうとした。現実の世界では、高校の某同級生が大学を卒業後ゼミの先生の家で賭け麻雀をした。

 ところが、その同級生が最初の東の2局目で親のダブル役満四暗刻九筒単騎待ちを放銃してしまった。同級生は不貞腐れてふて寝してしまい奥さんとなる彼女が代打ちした。ところが、彼が目を覚ました時彼女はすっかり負けを取り戻していたという。
  戦後まもなくの時代と違い今は反社が麻雀で堅気から金を巻き上げることはできない。なにしろ一緒に同席すること自体がご法度な世の中なのだから。
 麻雀は原則4人で囲む。パチンコは一人で遊ぶことができ、今のは勝負も速い。「常習性」「依存性」からすると、パチンコの方がより問題なのに、パチンコは合法で、賭け麻雀は違法。同じく公営団体が胴元のギャンブル(競馬、競輪、競艇)は合法で、庶民が娯楽で遊ぶ賭け麻雀は違法。さらに「ギャンブル依存症」の代名詞のような、より問題のあるカジノが合法になる時代に、賭け麻雀が違法のままというのは時代錯誤に映る。
 2016年末福岡県飯塚市の市長と副市長が平日昼に市庁舎を抜けて、賭け麻雀を繰り返していたことが判明したとき、その2人は当初「道義的責任はある」と言い、賭博罪に触れるという認識はなかった。批判が相次ぎ翌1月に入ってから辞任したが。
  昨年官邸が用意した梯子で2階に上がったら梯子を外され飛び降りた。命には別条なかったが、黒川東京高検検事長は検察官としての人生の幕を下ろした。黒川氏はエリートでずいぶん前から賭け麻雀をしていたのであろうし、周りもよく知っていたハズだ。まさか天下の検事総長になるハズが罪人同然の奈落の底に落ちるとは黒川氏も夢にも思わなかったであろう。脇が甘いと言われればそれまでだが。
  賭け麻雀を賭博罪で検挙するか否か曖昧なままにしているのは、別件逮捕として利用する為もあるのか。アンチABEの急先鋒元経産官僚古賀茂明氏やジャーナリスト青木理氏なら、仮に麻雀を好きだとしても、万が一のことを考え、決して賭け麻雀はしないだろう。
 しかし、黒川検事長が「ミイラ取りがミイラ」となった。それも賭博罪を適用しなかった(その後検察審査会で「起訴相当」となり略式起訴することにはなったが)ので、もう別件逮捕では使えないだろう。
 黒川氏の問題の本質は、検察と「権力」を監視すべきメディアがズブズブな関係にあること。賭け麻雀をことさら強調するのは問題を矮小化させるためではないか。
  男の遊びは飲む(酒)、打つ(賭博)、買う(女がらみ)が相場(ひと昔3つともやる男と3つともしない男はダメ男と烙印を押された)。たまたま黒川氏は麻雀が好きだっただけで、お酒が好きな検事なら飲み会をメディアはセットするに過ぎないのではないか。
 以上のことを勘案すれば、賭け麻雀は合法にすべき。いきなりそこまではと言うなら、点ピン(1,000点100円)ルールを作るべき。点ピン以下の賭け麻雀は免罪にするよう明文化すべきだと思う。私は某業界団体に居た頃役員と会員の有志による麻雀コンペの幹事をしていた。飲食費を含め参加費を取り賞金を設けていた。厳密にいえば、これも賭博罪の対象になる(時効の3年は過ぎているが)。麻雀コンペも一定範囲なら免罪とすべきであろう。賭けゴルフも同様に。

 10年前の2011年10月、長男が台湾女性と結婚することになり台湾で婚約式(結婚式は日本で翌年の2月に)を挙げるため台湾に赴いた。台湾側の親戚も集まっていたが、初対面であり、なにしろ言葉が通じない。双方所在なく気まずい感じすらあった。が、麻雀をすることになり、卓を囲むと、一遍に和気あいあいとなるのであった。
  台湾の麻雀は、ルールも日本より簡単で、子供から大人までトランプで遊ぶ感覚に似ている。牌も少し大きく、常に多牌している感覚に囚われた。
 私は、国境がないのは、空気と音楽と思っていたが、麻雀も国境がないと理解した。
 最近では、認知症予防に効果があると高齢者の間で認知され、賭けない、酒を飲まない、タバコを吸わない「健康麻雀」が盛んになっている。若い女性の愛好家(歴女ならぬ雀女と呼ばれるか)も増加しており、元乃木坂46アイドルからプロ雀士なった中田花奈さんは女性が出入りしやすい(雀荘とカフェの機能を併せ持つ)麻雀カフェを赤坂に開店させている。プロ世界でも女子プロが増えており、麻雀に対するイメージも変わりつつある。
 そうした中で、健全で安全な麻雀の推進を目的として2018年年末に「スポーツ麻雀議連」(「自民党 頭脳スポーツとしての健全で安全な麻雀を推進する議員連盟」)が発足した。
  だが、発起人の一人秋元司議員がIR関連汚職容疑で逮捕された。上述の同級生のごとくいきなりダブル役満を放銃したごとく出鼻をくじかれたが、本来麻雀の賭博罪からの除外等は議連が率先して取り組む課題である。さらに、麻雀を知らない昨今の子供や若者に関心を持ってもらうために、次の二点を検討されてはどうか。将棋の駒づくりで有名な天童市で毎年『人間将棋』が開催されている。8月1日は私の誕生日だが、世の中は麻雀の日。その直近の日曜日に屋内で『人間麻雀』を開催しては、新型コロナ禍が落ち着けば。一対戦者の前に立つ黒Tシャツ・黒ズボンの黒子13人が花札を何倍も大きくした牌板を胸の前に掲げる。14人目の黒子が牌板を引き、対戦者の指示で不要な牌板を持つ黒子と入れ替わるというやり方で。
 人間麻雀が極めてアナログに対して、大学生を対象には「e-麻雀 全日本大学選手権」を開催しては。箱根駅伝のように運営は学生主動で。自民党が懇意にする広告代理店ならすぐ企画してくれるのではないか。