2021.6 NO.153 イ・ビョンン VS イ・ビョン
 日本人の反感を買う韓国の政治家に対しては時に私も「反韓感情」をもたげるが、韓流映画・ドラマ並びに俳優には好感を抱いている。今第4次韓流ブームが到来しているらしいが、私的には第3次マイ韓流ブームと言える。
  第1次のキッカケは、ドラマ『冬のソナタ』が話題沸騰したことによる。日本ではNHKが2003年(平成15年)BSで放送して大反響を呼び、それを受けて翌年の総合テレビでの再放送版を観た。それを機にヒロインのチェ・ジウさんのファンになり、2004年10月から日本で放映された『天国の階段』も観ていた。悪女役で出演していたキム・テヒさんが私好みの美人だと思ったが、ソウル大出の才媛であることはずっと後から知った。
 2005年10月8日よりNHK総合で毎週土曜日午後11時10分から放映された『宮廷女官チャングムの誓い』は評判を呼び、ヒロインの「韓国の吉永小百合」と呼ばれたイ・ヨンエさんが人気になっていた。妻は毎週観ていたようだが、私は観なかった。私の第1次マイ韓流ブームはその程度であった。
 映画では、2005年公開された映画『私の頭の中の消しゴム』(日本のTVドラマ『Pure Soul〜君が僕を忘れても〜』のリメイク)を妻と観た。彼女が若年性認知症に罹る切ない話とヒロインのソン・イェジンさんと夫役の俳優が素敵でその映画は今でも心に残るものなったが、しばらくして第1次のマイ韓流ブームは去っていった。
 第2次マイ韓流ブームは10年後の2015年8月から。65歳の誕生日の前日をもって当時勤めていた業界団体を離職した。朝・昼TV観られる時間ができたので、韓流ドラマを観る機会ができた。とくに、日本と違い今も韓国では人気が高い時代劇・李王朝時代のドラマをよく観ていた。巨匠イ・ビョンフン監督が手掛けたTVドラマ『トンイ』(李氏朝鮮21代国王・英祖の母親の波乱の半生を描く)や同じく『イ・サン』(英祖の孫でありながら22代国王となる正祖の波乱万丈の人生を題材とする)。今も国民から敬愛される4代国王『大王世宗』など(この李王朝を日本は朝鮮併合という直接支配により廃した。その恨みが反日の源泉の一つにも。第二次世界大戦連合国の代表米国は間接支配により天皇制を存続させた。日本は日本人の精神的支柱を失わずに済んだ)。
  その頃本ブログ2016年4月号NO.58(「キムテヒVSキムソヒ」)にて23歳で『トンイ』に主演して以降国民的清純派女優として“千万女優”とも呼ばれるハン・ヒョジュさんを取り上げ注目していたのだったが、5年後の今年3月に邦画『太陽は動かない』(藤原竜也さん主演)を映画館で観た時、気がつかなかった。日本語を話す妖艶なアジア人女スパイは誰かと後で調べたらハン・ヒョジュさんと判り驚いた(26歳で主演の映画『監視者たち』で「韓国のアカデミー賞」と呼ばれる青龍映画賞で2013年の主演女優賞受賞の時はあれほど清純派だったのに)。これでは私はとても韓流ファンとは言えない。
 第3次マイ韓流ブームは、昨年秋あたりから新型コロナで悲観論的な感染学者を“偏用”するTV情報番組を嫌い(我々庶民はできることが決まっているし限られている)ドラマやWOWOWの映画を観る機会(とくに梅や桜が咲いている頃に)が増えたことによる。

 さらにドラマ『愛の不時着』及び主役二人のロマンスが話題になったことも影響している。このドラマ自体は観ていない(あらすじは把握した)が、人気俳優ヒョンビンさんとソン・イェジンさんが初共演した映画『ザ・ネゴシエーション』をWOWOWで観た。役柄とはいえ感情移入し熱愛に発展してもおかしくないと感じた。また、映画のラストで車で去ろうとする黒幕の権力者に対して逮捕を通告する警部補役のイェジンさんが凄く凛々しく惚れ惚れした。
 そう言えばと、映画『私の頭の中の消しゴム』でイェジンさんと共演した主演俳優はどうしているかと思い出した。名前も忘れ、15年前当時背が高くややワイルドなとおぼろげながらそんな印象を持っていたが、WOWOWで観た映画『無垢なる証人』でさわやかで誠実な弁護士を好演(2019年青龍賞主演男優賞受賞)したチョン・ウソンさんが彼と分かり、健在ぶりが確認でき、安堵した。
 韓国のホームドラマ等現代劇は、30話以上完結(日本は10話前後)も珍しくなく、ありえない設定で、あり得ないことが次々起こり(ありえないほど簡単に解決もするが)、妻の小言でも大きなストレスを感じる弱った老体の私には耐えられない。私が観るのは2周遅れの時期なので、既にファンが各話のあらすじをネット上に掲載している。あらかじめネタバレした上で観るようにしている。
  第3次のマイ韓流ブームの今回、名前は未だ覚えにくいが、顔を覚えた韓国俳優が格段に増えたと思う。熱心な韓流ファンからは青葉マークの初心者扱いされるだろうが。
 WOWOW『魔女たちの楽園~二度なき人生~』でゴルフ教習所コーチ役のオ・ジホさんが同時期BS日テレ『ガンバレ! プンサン』では髪を短くしてギャンブル狂の役を演じていた。イケメンながら演技派なオ・ジホさんはさしずめ“韓国の西島秀俊”と言ったところか。また、プロゴルファー役のソン・ウォンソクさんがBSテレ東『たった一人の私の味方』でヒロインに恋慕の情を抱くパン屋のアルバイト店員に扮しているのを見つけた。
  訳ありの人を長期宿泊させる楽園荘の女主人役のユン・ヨジョンさんが韓国映画ではなく米映画の『ミナリ』の祖母役(韓国人初のアカデミー賞俳優賞、2021年度助演女優賞受賞)を演じたが顔を観ただけですぐにヨジョンさんと判った。

 韓国の二大映画賞、青龍映画賞の主演女優賞、助演女優賞、大鐘賞の助演女優賞を受賞しているヨジョンさんは、過去の出演作品から“韓国の岸田今日子”かと思ったが、アカデミー賞に詳しい某映画評論家は若い頃からお婆ちゃん役が多かったからとして“樹木希林”と評していた。
  毎週金曜の19時からWOWOWに放映された、『シュリ』『8月のクリスマス』等を代表作とする名優ハン・ソッキュさん主演の『浪漫ドクター キム・サブ2』では、新型コロナで競うかのように立場を履き違えたかのような発言を繰り返す日本医師会会長と東京都医師会会長を見て、医師への尊敬の念を薄れさせてしまう。が、このドラマの医師・看護師たちの使命感や良心に感銘を受け、医師に対する敬仰する気持ちを蘇がえらせていた。
  全16話見たので、出演者の顔を覚えることができ、前病院長役のキム・ホンパさんがBS朝日『ブラックドッグ』の校長役など多数出演している。主任看護師役のチン・ギョンさんが上述のBSテレ東『たった一人の私の味方』で“韓流時代劇王”と呼ばれるチェ・スジョンさん扮する主人公の新妻役を演じていたことが判るようになった。
  時代劇では、遅ればせながら、『オクニョ 運命の女(ひと)』(これも巨匠イ・ビョンフン監督作)の全51話の後半をBS-TBSで観た。日本女優瀧本美織さん似の目が印象的なチン・セヨンさんを知った。同時期“チン・セヨン祭り”のごとく、これまた彼女がヒロインのBSテレ東『不滅の恋人』、前後してテレ東『カンテク~運命の愛~』が放送されていた。ストーリーがごちゃ混ぜになり少し頭が混乱した。
 
  映画では、WOWOWで観たが、2019年制作のヒット映画『エクストリーム・ジョブ』で紅一点の刑事役を演じたイ・ハニさんが同年制作の『権力に告ぐ』で映画のラスト主人公の検事を裏切る国際弁護士役で出演していた。最初似ているが、美人過ぎる。別人かと思った。2006年のミスコリアなので美しいのは当たり前なのだが。ソウル大卒の才媛でもある。
  『KCIA 南山の部長たち』(2020年青龍映画賞の作品賞受賞)は印象深い。朴大統領暗殺事件が題材で、しかもWOWOWで観た『王になった男』で李王朝の王様とその影武者の二役を好演し、それ以来私がファンになったイ・ビョンホンさん(この映画で2012年、青龍映画賞と並んで「韓国のアカデミー賞」と称される大鐘賞の主演男優賞を受賞)が主演ということで映画館に足を運んだ。
 映画を観た時は、本ブログ2021年3月号NO.148「えんざいVSめんざい(1)(2)」を掲載し、亡くなった近財の職員赤木の妻による文書改竄に関する提訴は、近財のスケープゴートが本省のスケープゴート佐川元理財局長を訴える皮肉なものと記した、その直後であった。
  映画を見て、『葉隠』で有名な山本常朝の「二者択一は、死に近い方を選べ」は現代に通用するやはり明訓だという思いを一層強くした。故赤木と朴大統領を暗殺したKCIA部長故金載圭は似ていると思う。仏になった人に何度ムチ打てば気が済むのかと叱られるが、(残された妻のやりきれない思いは理解するも)その死を美化するようなことではなく、我々は尊い教訓とすべきなのだ。

 赤木は改竄指示を拒否し抗議の意味で自殺した訳ではない。そうであれば“国民全体の奉仕者・公僕の鑑”として永らく祀られよう。苦渋の選択とはいえ指示に従い改竄に手を染めた。組織が守ってくれるどころか自分一人とり残された。罪悪感と恐怖心から精神が壊れた末自殺して不正の告発と恨みを晴らそうとした。私にはそう思える。
  KCIAの金は権力とともに傲慢不遜になった朴大統領から外されそうになっていた。映画によれば、朴政権の腐敗を世に告発する前KCIA部長を消したいと思う大統領は消せ!とは言わない。「いつも私は君のそばにいる」としか言わない。尊敬していた大統領とはもう違うと思っているのに誤った選択をした。金は部下に前部長を消さすが、大統領から褒められるどころか大統領側近の前で「こいつは前部長を殺すような奴だ」とののしられる。そして進退窮まる。赤木との違いは、恨みを晴らした後死んだこと。ただ、暴力装置・軍部へ根回しがなく、(世直し)クーデターとして理解が得られず、個人的な恨みによる犯行として処刑される。新たな軍事政権樹立に利用されて終わる。
  佐川元理財局長も同じ。夫妻が関係していたらとの後戻りできない首相発言を受けて善後策を協議する会議で菅官房長官が直接改竄を指示したとは考えられない。無理筋の案件で保身の為か近財は公文書に余計な?事を記した。それを知った官邸は弓を引くのかと激怒したとしてもおかしくない。佐川局長は自身の着任前の問題であり甘く考えたのかもしれない(結果は、未だに裁判の被告であり、世間からは人殺し呼ばわりされる。生活はできても、家族にも肩身が狭い思いをさせる)。

 佐川局長が、積極的にしろ苦し紛れにしろ、改竄という間違ったことを近財に指示してしまえば、本省で自らだけが窮地に追い込まれるだけ。何も言えなくなる。今「さざ波」発言で波風を立てた財務省OBからかつて貶められるような言い方をされても反論すらできない。矮小化された問題の責任を一人背負わされてしまう(赤木ファイルはそれを裏付けるに過ぎないのか。佐川局長より上の者は触れられていない、でなければ黒塗りするから、ファイルの存在を国は認めるのか)。
 宮仕えの現役各位、日本のトップ層は私が若かりし頃より官民問わず劣化している。明日は我が身と心得よ。常朝の明訓(「二者択一の際は死に近い方を選べ」)を肝に銘じるべきだ。
  韓国では1979年の朴大統領暗殺事件の真相を約40年経ってから映画化した。日本においても、ロッキード事件や森本学園問題の真相に迫った映画が放映される日は来るのだろうか。