2021.3 臨時号NO.149  さそう VS さそう
 昨年新型コロナで実施されなかった春の甲子園高校野球大会が来月19日から開催される。同様に夏の大会も実施されるか。15年前の夏の決勝戦ではハンカチ王子こと斎藤佑樹投手が、駒大苫小牧高校のエース田中将大投手に投げ勝ち、早実高校を優勝に導いた。そのすぐ後の国体においても優勝戦で斎藤投手が田中投手に投げ勝っている。しかし、社会人になると、ライバル二人の立場は大きく逆転する。それは周知で説明は不要だろう。
 野球は、対人の格闘技である柔道にある体重別階級がない。無差別級で争う競技。高校生という制限がある場合には活躍できても、無差別級のプロの世界になると活躍できない場合が起こり得る。
 人間だけではなく、サラブレットの世界でも同じことが言える。日本でクラッシック競走という3歳(人間換算で17歳。4歳は同20歳。4歳以上を古馬と呼ぶ)限定のG1レースがある。正式には、(昨年コントレイルが無敗の三冠馬となった)皐月賞、東京優駿(日本ダービー)、菊花賞の3冠と(牝馬限定の)桜花賞、優駿牝馬(オークス)を言う。
 日本タービーを勝って3歳チャンピオンになっても3歳限定がはずれ、古馬と一緒に走れば勝てなくなった馬がいる。2016年のダービー馬マカヒキは、凱旋門賞の前哨戦3歳限定のニエル賞で優勝したが、古馬と一緒の凱旋門賞に惨敗(肉体的、精神的ダメージは不明だが)した後日本に戻ってから一度も優勝していない。マカヒキより2年前にダービー馬になったワンアンドオンリーも菊花賞の前哨戦3歳限定の神戸新聞杯を勝ったのが最後。その後3歳のハンデをもらっても自ら古馬になってからも一度も勝っていない。2018年のダービー馬ワグネリアンも古馬になってから勝利していない。

 ゴルフも野球と同じで身長、体重に制限のない無差別級の競技。ボクシングは一対一で殴り合う。彼我の体格(パンチ力や耐久力)差はいやでも思い知らされる。下手すると命に関わる。一番強いのはヘビー級(200ポンド、90.72㎏超) チャンピオンに決まっている。それでは味気ないので、仮に体重差がなかった場合に最強と目されるチャンピオンに与えられる称号を設けている。パウンド・フォー・パウンド(Pound for pound)と呼ばれ、各階級のチャンピオンの中で各階級で最もずば抜けた存在は誰かとランク付けする。従って軽量級のバンタム級(118ポンド、53.52㎏以下)でありながら天才井上尚弥選手が現在2位であり、1位になる日も近いと見られている。
 ゴルフは、ゴルフボールの飛んだ距離を争う競技ではなく最小スコアで回った選手を優勝者とする。体力だけではなく、ドライバー、セカンドのアイアン、アプローチ、パター等の技術が物を言う。それでも飛距離が出る方が有利。圧倒的な飛距離でジャック・ニクラス選手やタイガー・ウッズ選手が時代を変えてきた。今の世界ランク1位のダスティン・ジョンソン選手は、飛んで曲がらないから鬼に金棒だ。
  同学年のライバル石川遼選手と松山英樹選手。最初は石川選手が2007年に15歳史上最年少で日本の男子プロツアーで優勝し一躍“ハニカミ王子”と脚光を浴びた。その陰に隠れていた松山選手はその後頭角を現し米ツアーでメジャー優勝争いができる活躍を見せている。
  石川選手には、本ブログ2014年4月号NO.34(「ウッズ と キッズ」) で、体格面から日本に居てジャンボ尾崎さんのように日本のスーパースターを目指し日本ツアーを盛り上げてほしいと書いた。だが、田中投手のような凱旋ではなく、米ツアーからの出戻りでは遼フィーバーは再燃しない(石川選手が日本男子ツアーを背負うべき義務や責任などないのではあるが)。

 日本の第5のメジャーとも言うべき昨年11月ダンロップフェニックスの優勝賞金は20百万円(例年でも40百万円)。その前に変則開催された海外メジャー・マスターズの優勝賞金は約2億円。大きく差がついてしまった。これでは海外の有力選手が新型コロナが無くても来日しようとは思わない。
 プロデビュー当時“3R”と呼ばれた石川選手は175cm、71㎏か。ロリー・マキロイ選手は175cm、73㎏。リッキー・ファウラー175cm、68㎏。マキロイ選手が4大メジャーの内3つ勝利しており、体格的に石川選手が自分もできると思っても不思議ではない。しかし、一緒に回れば飛距離が違う。マキロイ選手の筋力等基礎体力が違うこと認識しただろう(ど素人の私には技術面は言及できない)。
 今やドライバーは400ydを目指す時代。20歳の南アのウィルコ・ニエナベール選手は欧州ツアーで439ydを記録。米ツアーのブライソン・デシャンボー選手は、極論すれば、ドライバー、サンドウェッジ、パターの3本で難攻であるハズの全米オープンを昨年制してしまった。181cm、90㎏の松山選手なら別だが、平均的な日本人の体形では太刀打ちするのが難しい(飛ばないボールへの変更が議論されているようだが)。
 昨年のダンロップフェニックスでプロ初優勝した金谷拓実選手(172cm、75㎏) が2019年世界アマチュアランキング1位となり、2つ年下の中島啓太選手(178cm) が同じく2020年の1位となった。いずれ両名米ツアーに挑戦するのだろうが、怪力が集うプロの世界でどう戦えるか、体格の壁を越えるのか否か興味深い。

  女子プロの世界でもライバルがいる。黄金世代の畑岡奈紗選手(158 cm)がウサギなら渋野日向子選手(167cm)はカメ。遅れてきたカメがウサギを追い付き追い越そうとしている。実際海外メジャーでは追い越している(畑岡選手が抜き返すのは可能。海外メジャー勝利に対する意識過剰と焦りがネックにならなければ)。
 渋野選手は、一昨年の全英女子オープン優勝に加え、この前の全米女子オープンでは最終日をトップで迎え(勝てなかったが)実力が本物と海外の強豪選手らにも再認識させた。渋野選手が不調時称賛から様変わりに辛辣な批判を浴びた青木コーチをも救ったと言える。
  過去の世界最高峰全米女子オープンにおいて、1998年の朴セリ選手優勝を皮切りに、2005年~19年の15年間で、韓国女子選手8人(9回)が優勝(米国選手は4名のみ)しており、その内6人が初出場で勝利している。内訳は、05年バーディーキム、08年朴仁妃(13年も)、11年ユソヨン選手、15年チョンインジ選手、17年パクソンヒョン選手、19年イジョンウン6選手。2013年からは奇数年に韓国選手が優勝しており、偶数年の2020年は韓国選手以外が優勝する番。それが渋野選手ならよかったのだが、韓国ツアーでプレーしていた韓国キムイェリム選手が韓国7人目の初出場優勝を遂げた。これでは優勝と米ツアーで揉まれることとは関係しないと言っても過言ではない。
  米ゴルフチャンネル解説者が渋野選手を(飛距離が売りでないメジャーチャンピオン)コリン・モリカワ選手に似ていると言った(飛距離と高弾道を武器として世界一を夢とする笹生優花選手に対して渋野選手が難しい設定の海外メジャー全制覇を目標とするのは理に適っている。笹生選手がマキロイ選手を真似るなら、渋野選手が目指すべきはモリカワ選手か)。
  この前の全米女子オープンにおける天候が良かった予選ラウンドのドライバー平均飛距離(GDO調べ)では、全英女子オープンを勝った後女ダスティンかと呼ばれた渋野選手は246.6yd。元々こんなものなのか、それとも飛ばなくなったのか153cmの古江彩佳選手(246.5yd)と変わらない(笹生選手262.3yd、原英莉花選手261.1yd、畑岡選手251.9yd)。悪天候で気温が下がった決勝ラウンドではセカンドの番手が2番手ほど変わり思うようにクラブコントロールできなかったと渋野選手本人も認めている。岡本綾子さんが言うようにショット力に磨きをかけるのが優先課題か。
  世界最強の韓国選手のショット力とメンタルの強さを学ぶなら、日本に居て、海外メジャーだけ参戦すればいい。レキシートンプソン選手等米女子選手が手本にならないなら、なにも遠い米ツアーに行く必要などないのでは。層が厚く距離も近い韓国ツアーにスポット参戦すればよい。大いに歓迎されるだろう。 
 米ツアーを熱望する渋野選手が古江選手に昨秋世界ランクを一瞬抜かれた時「東京五輪よりも米ツアーへ」と言ったとされる。信じられないが本当に言ったとすれば、考え方もアメリカナイズされたということか。渋野選手に期待を寄せる張本勲さんが全米女子オープンの後「普通の一流選手で終わっちゃう」と苦言を呈していた。ファンは彼女の何を知っているのかと反発しようが、張本氏の気持ちが分かる気がする。高額スポンサーがつかない頃の原点に戻って欲しいと私は思っている。
 黄金世代の2つ年下のプラチナ世代の安田祐香選手と古江選手とは兵庫県の滝川第二高校の同級生でライバル。プロ転向直前は安田選手の方が活躍し、渋野選手からマスコミに「プロテストを免除してあげて」と言わしめるほどであった。しかし、実際に免除されたのはアマでプロトーナメントを優勝した古江選手の方だった。そして古江選手は昨年プロとして3勝を挙げたのに、安田選手は優勝どころか故障を抱える。アマと違いプロでは試合数が多く体力を消耗し無理すれば故障につながる(それにプロは賞金を稼がないとのプレッシャーが重くのしかかってくる)。

 1985年全米女子アマを制した服部道子東京五輪ゴルフ日本代表女子コーチも現役時代ビジュアルの変化には目を瞑り体重を増量していた。163cm、53㎏で線の細い安田選手に対してファンは増量を願ったが、1日5食摂ると安田選手が言ったという(3/4からの開幕戦では違いが見られるか)。
  プラチナ世代のフロントランナー古江選手に続く西村優菜選手(プロ1勝)は150cmしかない。二人ともすぐには米ツアーに挑戦しなさそうだが、まず同じタイプの元世界女王申ジエ選手(156cm)を日本ツアーにて凌駕することに専念してもらいたい。
 

 野球のMLBと同様男子プロゴルフの最高峰は米ツアー。米女子ツアーは世界一とはいえ韓国選手に席巻される。日本ツアーがそのマイナーツアーの地位に甘んじる必要はない。申ジエ選手や日本ツアーに転戦希望を表明しているキムヒョージュ選手等韓国強豪選手の方が日本ツアーの価値を理解している。協会はもっと日本選手に自国ツアーへの愛着、誇りを持たせるべきだ。飛ばし屋だけでは勝てない一大世界ツアーに日本ツアーを昇華させるべきなのに韓国の強豪選手を実質締め出す制度変更は明治維新政府が鎖国を言い出すのと同じではないか。