2020.4 NO.130 にと VS  にと

 「二兎追うもの一兎も得ず」という諺がある。「虻蜂取らず」とも言う。恋愛の場合は「二股をかける」と言う方が多いか。二股は両方失うと相場が決まっていよう。

TVに引っ張りだこの長嶋一茂(『二人の武蔵』の作者故五味康祐が「一であれ三であれ数だから石田三成はカズシゲと読むべき」と主張していたと東大本郷和人教授が近著で紹介)さんは、独身の時、自室マンションで彼女2人が鉢合わせとなり、一人の彼女が包丁を持ち出し、「どっちか選んでよ!」と言ってフローリングに突き刺したという。一茂さんは土下座したが、その彼女?に頭を思いきりかかと落としされたと話していた(既婚男性の不倫発覚は、ヘタすると、妻と愛人の両方だけではなく仕事も失いかねない)

 これに対して、良い意味で同時に二つのことを成し遂げることを二刀流と呼ぶことが多い。本来、二刀流は剣豪宮本武蔵で有名な二刀剣法のことを言う。二刀流の剣士は少ない。1㎏もする真剣を片手で自由に操ることは難しい。

 スポーツ界においても二刀流は珍しい。「天は二物を与えず」(天も気まぐれなのか、東大医学部在籍中に2019年度ミス日本グランプリに輝いた度會亜衣子さんがいる)と言うが、2つとも超一流の才能と技術を発揮できるアスリートは少ない。

 スキー競技ノルディック複合は、ジャンプとクロスカントリーの両方で競う。日本ではジャンプが花形だが、船木和喜選手、葛西紀明選手、女子の高梨沙羅選手など北海道組が強い。ジャンプ単独では分が悪い本州の群馬(草津)の荻原健司選手、荻原次晴選手、現役の長野(白馬村)の渡部暁斗選手などはノルディック複合で活躍している。私が意味する二刀流と呼べないかもしれないが、王者として君臨した荻原健司氏はKing of Skiと称され、とくに北欧で尊敬を集めている。同じように陸上の10種競技も各々の種目単独では超一流とは言えないが、10種を2日間でやり切るのは心技体が整った、いわゆる超人でないとできない。勝者はKing of Athleteと賞賛されている。

 世界のトップアスリートが一堂に会するオリンピックの舞台で見事に二刀流を実現したのが、チェコのエステル・レデツカ選手。2018年の平昌五輪でスノーボード女子パラレル大回転とアルペンスキー女子スーパー大回転の2種目同時金メダルの快挙を達成した。

 レデツカ選手は、家族や周りに反対され、歴史も層も違うアルペンスキーの選手達からの冷ややかな目線にも耐え、二刀流をやり続け、大舞台で夢を実現させた。

昨年10月の世界陸上でオランダのシファン・ハッサン女子選手が、前代未聞となる体力的にきつい中距離1,500mと精神的に難しい長距離10,000mとの両方を制した。東京五輪でこの二冠を達成すればレデツカ選手に匹敵する偉業となろう。

 

日本においても、メジャーリークで大谷翔平選手がベーブルース以来の二刀流を実現したことにより二刀流が注目されている。冬季五輪スノーボード連続銀メダルの平野歩夢選手は夏季五輪スケートボードとの二刀流に挑み、何と昨年5月の日本選手権を制している。

ただ、二刀流は至難。よって、チャレンジすることすら「二足の草鞋(わらじ)を履く」のかと非難されやすい。『家政婦のミタ』で人気子役となった女優本田望結さんは、女優業とフギュアスケートの両立を公言しているが、それに対して、周りからフギュアでの期待がそれほど高くないからか揶揄されることもない。3歳年上の姉本田真凛選手は2016年世界ジュニアフィギュアスケート選手権優勝した若手ホープ。芸能事務所に所属しているとはいえ本人はタレントの両立など言及していないのに、成績が振るわないととやかく言われがちになる。ライバルの紀平梨花選手がストイックなまでに自己管理しスケート漬けの毎日を送りあっという間に世界のトップスケーターになったことで、なおさらに。ただ、最近は学業(大学)との両立で真凛選手はメディアからやや好意的に報じられつつあるようだ。

競馬界においても、一昨年末二刀流が話題となった。大種牡馬サンデーサイレンスの後継馬として日本競馬界の至宝ディープインパクトの次に位置するステイゴールドの仔で障害レースで数々の記録を塗り替えたオジュウチョウサンに関してのことだ。

 日本競馬は芝レースが主流。そこで結果が出なければ、もう一つの平地レース・ダートレースに戦いの場所を替える。そこでもダメなら障害レースに転向することになる。陸上競技と違い障害レースが好きでない私は(偏見なのか)サラブレッドの墓場と思ってしまう。

 オジュウチョウサンは、流れ流れて障害レースに出た訳ではない。芝で2戦して1年休養した後若くして障害レースに移った。最初は結果が出なかったが、その後JRA障害G1競走最多勝利数(6) JRA障害重賞勝利数(11)等数多くのタイトルを得ている。

障害レース王としての地位を確立したオジュウチョウサンが人気の武豊騎手の手綱で平地()レースの最高峰の一つ有馬記念に一昨年末挑戦することになった。

賛否別れても、決まってしまえば、判官贔屓の競馬ファンは地方競馬出身ながら引退レースで同じ武豊騎手を背に予想を覆してオグリキャップが1990年の有馬記念を勝っ切った時のあの感動をもう一度と夢を見ない訳にはいかない。結果は9着で、二足の草鞋ならぬ蹄鉄の夢は叶ったとは言えないが。

スポーツ以外でも、元貴乃花親方の長男の靴職人とタレントとの二足の靴や立川志らくさんの落語の師匠と朝帯情報番組のMCとの二足の草履に、訝る声は少なくないか。

お笑い『ピース』の又吉直樹氏は、大ファンの太宰修が芥川龍之介の熱烈なファンで熱望するもついに受賞できなかったその芥川賞を小説『火花』で2015年に受賞した。作家とお笑い芸人の二足の草鞋かと思われたが、相方がニューヨーカーになった(渡米の真意は?) こともあり20173月よりコンビ活動は休止状態になってしまった。

 

 私自身、二刀流と言えるほどのものではないが、二足の草鞋を履き損ねたことが2度ある。1度目は、銀行員時代の昭和55年企画室調査担当と組合半専従の二足の草鞋。身は一つ。給料も変らない。私自身は0.5+0.51.0でよいだろうと軽く考えていた。しかし、各々の組織は私に1人前以上の仕事を期待する。次第に双方から不満の声が届くようになり、翌年私は組合専従に専念した。かのベーブルースも二刀流なのに報酬に加味されることがなかったため、投手を止め打者(野手)に専念したという。ちなみに、(昨季は手術明けで打者に専念の)大谷選手は、メジャー1年目は二刀流で、0.8(打者)+0.7(投手)1.5であったと評価できるだろう。二刀流としては申し分のない成績で、新人王にも選ばれた。

 2度目は、平成17年今で言う公益社団法人(以下公益社団)10年以上在籍しながら、一般社団法人(業界団体)にも所属する二足の草鞋。業界団体の事務局を公益社団の所に移して事務局長を兼務した。異業種交流の会を社団法人化した公益社団と業界団体とではルーチンワークの多寡が違う。公益社団を疎かにしているわけではないが、業界団体の日常業務に追われるのを公益社団のトップが見て気分がよい訳はないだろう。ギクシャクしだし、私自身も10年を経て煮詰まってきていたので潮時と考え、業界団体に専念することにした。

平成18年末公益社団を辞め業界団体の事務局とともに公益社団から退所した(袂を分かつことになったが、「トップの指導のお蔭で他の団体から招かれる、内容はともかくブログエッセイを連載できるほどに成長できた」との感謝の念は今も持ち続けている)

 二刀流は、高IQの人だけが参加できるクラブMensa(各国人口の上位2%の高いIQを有する者)のような明確な基準がないが、言わずもがな、ずば抜けた才能の持ち主だけの特権なのだ。