2019. 11 臨時号NO.123  TOHO VS TOMO (2)

 私は平成4年に蓄膿症(急性副鼻腔炎)の手術を全身麻酔(局部麻酔で十分ではと疑問を持てはいたが)で神戸大学の付属病院で受けた。全英女子オープンを制した渋野日向子選手もこの前急性副鼻腔炎で心配されたが大事に至らなかった。私も右上の歯が痛くなり歯医者に行くと副鼻腔炎だと大学病院を紹介された。手術が終わり麻酔が冷める頃、指導医師が若い医師に「患者がどんな状態か、どんな思いか。全身麻酔を経験しておくべきだ」との声が聞こえてきた(仔細は別の機会に「ますいVSまずい」で記す)

前述の天皇(現上皇)の前立腺全摘手術につき、宮内庁の職員は、手術までは無理としても全身麻酔を受け、眼が覚めたら全身管だらけの状態を数日間自身が体験した上で(天皇の)手術を選択したのであろうか(宮内庁職員にそこまで要求するのは酷というものか)

そうではなく、陛下を治療するとなると、日本の最高権威の病院になろうが、そこに丸投げしたのか。最高権威となれば東大医学部の外科となろう。前立腺がんの治療は欧米では放射線治療が主流であるが、日本では外科が本流で放射線科がまだ亜流の位置付けに置かれ続けているのでは。それで手術することになったのであろうか。

よく動く胃などの癌は外科手術が向いているが、前立腺がんは放射線治療が主流となるべきだと思う。東大医学部は陛下の手術とその後の経過についてどう総括しているのか(なお、美智子上皇后は本日85歳の誕生日を迎えられたが、そんなご高齢にも拘わらず、同じ東大病院医学部付属病院で先月乳がんの手術を受けられた9/8付けの共同通信によると、全摘ではないという。体に負担のある全身麻酔までして手術した病院側の了見は如何に)

週刊現代昨年9/1号の特集でも、『医療先進国ドイツとフランスで「やらない手術」』で「前立腺がんで摘出手術はNG。」と真っ先に挙げている。

 しかし、3か月前のこと。著名演出家で影響力のある宮本亜門氏が前立腺がんを公表し、手術を選択すること、手術が成功したことなどをマスコミに話していた。茶の間の視聴者者に手術が最善?との印象を与えないかと懸念した。TV健康番組の検査で前立腺がんが判明した関係で手術なのか。それとも宮本氏の自由意思ならなぜ手術を選択したのか。その後の副作用の状況と併せて、その番組に再度出演して話してもらえればと思うのだが。

 

前立腺を全摘手術しても20%の確率で癌が残ると言われる。くだんのA氏も該当してしまった。前立腺を全摘すればPSAはゼロなるハズだが、時間の経過とともに値が上がり0.2

を超える (放射線治療の場合は前立腺は残っているからPSAが最低値から2.0)と残っていると判断される。それから放射線治療をするのであれば最初から放射線治療を選択すればよかったということになる。前立腺が無くなっているのに、放射線治療するには、摘出後の結び目に向けて当てるしかない。ファントム相手では周りの正常細胞を傷つける公算も高い。担当医師は早く決着させたいとA氏に迫る。私は「そんなに慌てることはない。それに不味い蕎麦を食べ後次にラーメンなら蕎麦屋のラーメンではなくラーメン専門店に行くだろう。放射線治療を得意とする病院に替えるべきだ」と言った。が、またしても聞いてもらえなかった。彼は医師に言われたまま直に放射線治療を受けたが、結局PSAは下がらず、最後の手段とも言うべきホルモン療法も始めてしまっている(前立腺がんの餌となる男性ホルモンを止めてがんを眠らせるだけでいずれ目が覚める。それを再燃するという)

 前立腺がん予備軍の方の参考になればとA氏のケースを長々と書いたが、最後に関心が高いであろう男性機能への影響について触れる。A氏は手術に同意する際医師から「前立腺を摘出する際周りの神経も切断することが往々にして起こりうる」との説明を受けた。最後に医師は殺し文句を発する。「だけど、命の方が大事でしょ!?」と言われれば患者は皆黙ってしまう。手術後しばらく経ってA氏が医師に「叩いても何してもピクリともしない」と訴えると、医師は「だから言ったでしょ。神経が切れると」と言い返す。もうリスク100%の話にすり変わっている。

 手術でも、今はダビンチ手術と呼ばれる、外科医の操作による内視鏡・メス・鉗子を 動かして行う内視鏡手術が主流となっている(宮本氏の場合も多分そうだろう)。体への負担も少なくなり、勃起神経を切ることも避けられるケースが多くなっているという(いずれにしろ手術すれば前立腺はなくなるので、射精感があっても?精液は出なくなるハズ)

放射線による私の場合は、治療の副作用で、前立腺は残っているのに射精障害(前立腺というオアシスが砂漠化したイメージ)となってしまった。

60代の男は、「まだ男として現役でいたい」と「もう卒業でよい」との二手に分かれる(医師も客商売なのでどちらも否定はしないが)。私は当然前者(使い道があるかは別問題)だが、よりによってそうなってしまった。副作用は肛門痛、直腸出血等色々あるというのに。

勃起に関して言うと、私とA氏の場合との違いは、A氏は携帯で言えば電源が入っていない状態。私の場合は電源は入っているが電波が弱い状態と言えるか。手術のように神経が切れてはいないが、放射線にあたり神経が麻痺しているのだろうか。それでも7年経過した今(再発もなく)EDは大幅に改善されている。射精障害は直る見通しは立たないが。

 週刊誌等で放射線治療は副作用がないかのような記事を見ることがあるが、それは正しくない。放射線治療でも副作用はある。治療を施すということは、そういうことなのだ。QOL(生活の質)を下げる。個人差はあるにしろ。

ただ、私が結果オーライだったのは、初めてPSAを測った時4を超えていたが直に生検(肛門から針を撃って前立腺の細胞を採取)をしなかった。PSA10を超えたらするつもりだった。それで5年間もQOLの低下が猶予された。生検を受けたのはPSA10を超える前に尿道から出血したため。「雉も泣かずば撃たれまいものを」と思ったが、今は「何ぐずぐずしている。早く検査を!」と癌自身が成敗されるのを覚悟して忠告してくれたと思い直している。前立腺から癌が外に出るギリギリのとろで知らせてくれたと恩に着ている。

もっとも、生検は早ければ早いほどよいという訳でもない。PSAが一度4を超えた程度では、直に生検するのは考えもの(MRIは一度撮った方がよいが)。癌が見つからなければ何度も不快な生検をする羽目になる。癌が見つからなければ癌とは認定されないし、保険も適用されない。PSAの推移、MRIの画像などを見て生検時期を判断するがよいのでは。

 

私はX線のトモセラピーを選択した訳だが(A氏にも勧めた訳ではあるが)、それが最善と言うつもりはない。外照射法としては陽子線や重粒子線を活用した方法もある。また、前立腺に線源を埋め込み、内部から放射線を当てる組織内照射(密封小線源)という方法もある。手術しかしない医師は手術しか薦めないと同様放射治療治療においても、例えば組織内照射専門の医師はそれしか勧めないものだろう。がんの進行段階、保険の適用の有無、メリット・デメリット等を自分なりに勉強し、医師たちの意見も聞き、自身で何を選択するか決定してもらえればと思っている。くどいようだが、「前立腺がんは放射線治療ありき」に変わるべきと言っているだけで、手術を全面否定している訳ではない。放射線治療も検討の上、前立腺肥大が酷い人が(前立腺がんが前立腺外に浸潤していない段階であれば)後腐れなく手術で前立腺を全摘する決断をするのなら、エールを送っても否定することはない。

 

癌の治療自体は、たとえ医師でも自分自身で行うことはできない。他の医師に委ねるしかない。どの治療法を選ぶかは、医師でも、医師でなくとも、自分で決めることはできる。

治療法を、自分で決めても、医師任せにしても、我々凡人は結果が悪ければTOHO-HOと後悔してしまう。しかし、自分で決めたのであれば他人を恨むことはない。他人を恨んで人生の最後を迎えるのは悲惨だ。その死に顔は穏やかなものにはならないであろう。