2019.5 臨時号 NO.114  いぞく VS  いぞく(2)

嫌われ者から英雄に評価が一変したと言えば、英首相チャーチルが挙げられる。昨年のアカデミー主演男優賞に輝き、日本人がメーキャップ部門でオスカーを手にした映画『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』で世界がまたチャーチルの偉業を再認識した。

 前首相のチェンバレンによるナチスドイツへの宥和政策が失政となり、保守党内で嫌われていたチャーチルが首相に就任することになった。ドイツのフランスへの侵略に対し英仏連合軍が劣勢となるも、チャーチルは断固ナチスと戦うことを決断する。フランス北東部ダンケルクから30万人の英兵士を引き上げるに際しドイツ軍を足止めさせるためにカレーに居た3千人の英兵士を犠牲にした(同じく事前通告なしで日本への原爆投下をトルーマンに迫ったという。その冷徹さと非情さは我ら凡人には決して真似できない。妻に頭が上がらないところは親近感もあるが)

ナチスとの和睦を主張する戦時内閣の中で孤立し思い悩むが、国王ジョージ6世がチャーチルを支持する(チャーチルの首相就任を危ぶんでいた国王が首相支持に変わるところは映画ではやや唐突)。国王と二人三脚で英国民に勇気を与えドイツ軍に勝利する。

 

一方フランスは、ユダヤ人歴史家マルク・ブロック(ナチスにより銃殺)が従軍日記を『奇妙な敗北』と表題したように、陸続きのナチスドイツとの近代戦に質、量共対応できなかった軍上層部の怠慢と結束力の無さにより、いとも簡単にナチスの軍門に下った(チャーチルも『第二次大戦回顧録 抄』〈毎日新聞社〉のP41に「フランスは一大攻勢に出て生命を賭けるようには見えなかった」と述懐している)。そして、ナチスの非人道的な政策に加担し拭い去れない心の傷を負った。フランスには国民が心を一つにする存在がいなかった。

 イギリスは、海峡が壁となり、海軍、空軍共ドイツと互角以上であったが、それだけではなく、避難せず戦火の中で国民を鼓舞し続けた国王がいたからドイツに徹底抗戦できたと私はそう思う。同じバイキング(海賊)の国ノルウェー国王もナチスへの降伏を拒否した(その様子は映画『ヒトラーに屈しなかった国王』で描かれている)

 自由・平等・基本的人権の理念に目を奪われてフランス革命を美化する人は革命の負の部分を見落としている。ロシア革命(とくに10月革命)、ドイツ革命(11月革命)も同じだが、革命により国王を倒した後は恐怖政治が待っている(文化大革命もそうだが、革命と聞くと血塗られたイメージが付き纏い嫌悪感を覚える。産業革命等経済用語としては良いのだが)

権威と権力を併せ持つ前近代の国王は、失政すると国民から攻撃された。だが、権威としての国王(日本は天皇)は宗教の違いを超えて国民の心を一つにするのに不可欠。片時も欠かさず国、国民、皇統の安寧を祈念しておられる存在なのだから。

EUからの離脱問題で英国民が二分し大混乱に陥っているが、収拾させるのは、最後はエリザベス女王のお言葉しかないだろう。日本においても、被災地の人々がこの上なく癒されるのは、天皇皇后両陛下のお見舞いなのだ。

 権威としての国王の存在を目の上のナントカと思う者は、共産主義者か独裁者を目指す権力者とその仲間らなのであろう。

 

 映画はドイツに勝利したところで終わるが、その直後の総選挙でチャーチルは首相の座を手放した。ナチスから国民を守った英雄であり国民から人気は高かったが、選挙のアヤで党が敗北した為という(私が若い頃平時に戻れば戦争を起こした首相はもう要らないとの見方であったと思うが)。しかし、6年後1950年に70歳で首相に返り咲いた。

 映画の本編が終わり、エンドロールの前に、正確には覚えていないが「成功しても、失敗しても、続けることが大事」という旨のチャーチルの言葉が綴られていた。

 以上、3人の継続力を見てきたが、信念があれば誰でもということではない。信念を支える高い才能とそれが発現された蓄積がなければ継続力を持つことはできない。

 そんな話を妻にすると、「チャーチルの性格に似ているところがあるだけではダメということね。アンタはいつまでも嫌われたままなのよ」と憎たらし気にぬかしおった。細君ならぬ太君が養豚場から屠殺場に連れて行かれるのを助けてもらった恩を忘れおって。「そんなことを口にするから妻にも嫌われるのよ!」と聞こえた気がした。ん? 天の声か?