2011.12 NO.6 わらわせる わらわれる
芸人はお客を笑わせても、お客から笑われてはいけないという。
芸人と芸能人との違いは何か。漢字で言えば芸人には能がない。しかし、実際は芸人に能が必要なのだ。芸能人はかわいいだけでもなることがありうる。お笑い芸人に能(芸)がなければお客を笑わすことはできない。
笑わすことは大変なことだ。白鳥と一緒で見えないところでネタづくり等に苦心する。
笑うのは長生きの秘訣といわれるが、笑わせるのは長生きできない。喜劇王と呼ばれる人たちはみな短命だ。落語家の初代林家三平師匠は54歳。コメディアンの三波伸介さん、東八郎さんはともに52歳。喜劇役者の藤山寛美さんは60歳でこの世からおさらばしている。渥美清さんは68歳まで生きたが、平均余命には遠く及ばない。
子供達に笑いや夢と感動を与える漫画家も短命だ。巨匠と呼ばれる手塚治虫氏、石の森章太郎氏はともに60歳。藤子・F・不二雄氏は62歳。皆命を削って喜ばせているのだ。
ヘキサゴンⅡというTV番組があった。出演者すべて地ではないと思うがこんなことも知らないのかと視聴者に笑われている。バカさかげん、無教養をさらけ出し、それをMCが小バカにし悦に入っている。テレビ離れを助長するだけだと思っていたら、紳助さんの引退とともに終了した。後ろ盾を失ったおバカキャラタレントもこれからが正念場だ。
お笑い芸人は顔が悪くても声がいいと売れるという。渥美清さん、坂上ニ郎さん、三波伸介さんなど皆声がよかった。顔が悪いというのは個性。声がいいとかは売り(特技、特性)になるのだろう。他人を笑わすことは私も嫌いではないが、顔も声も悪いので芸人にはなれない。
私自身も自慢するほどのものでもないが、個性+売り(特技、特性)=only oneで上手くいったことがある。
平成元年5月に「すみれの花咲く頃」の歌でおなじみの某歌劇団があるところの支店長になった。支店経験が少ない、直言居士の私に支店長が務まるか周りは心配していたが、とっちゃん坊やの風貌や支店経験が少ないことがかえって幸いして、取引先は勝手に私が本店から箔付けに支店に来たエリートと思い込んだ。美しい誤解はわざわざ解く必要がない。いろんな取引先から「支店長、預金してあげるわ」と声がかかる。住宅店舗(預金獲得をメインとする店)なので支店長は大喜びするのが普通なのだが、私は「預金など要りません。お金を借りてください」と言う。取引先は「面白いこと言う支店長やな。そやけど金要らんけどな。まぁええわ、借りたるわ」と応えてくれる。長期運転資金の名目で多くの取引先にお金を借りてもらった。
バブル末期の頃、お金には色がついていないので、中には愛人に廻ったかもしれない。だが、当時華やか街とはいえ田舎で、土地を捨てて逃げる人もいないので安心していた。貸付に強いというのを売りして、取引先にかわいがってもらった。業績は預金も貸金も順調に伸びた。
ただし、支店長の評価というものは「業績」と「検査結果」との2つある。いくら業績がよくても、検査結果が悪ければ落第。内部規定どおり運営されているか、権限を越えた行為はないか、債権保全に不備はないか自行検査部の臨店検査の結果も大事となる。
私は支店経験が少ないこともあり年上の役付に任せていた。わざと足をひっぱるとの意図はなかったと思うが、彼は不備のまま抱え込んで翌正月の臨店検査に臨んでしまった。当時私は傍若無人で(現在所属する団体のK専務理事なら今もそうだと言うかもしれないが)、上ばっかり見ている嫌な奴と思われていたのだろう。
検査結果は惨憺たるものであったが、新宿支店長への転勤が決まっていたこともあり、検査部長が上手くとりなしてくれた。逃げるようにして私は平成2年2月上京した。
しかし、人の口に戸は立てられない。僚店の支店長に笑われた。私のしょぼい職業人生の中でも一番しょっぱい思い出となった。