空想家族読本 -3ページ目

空想家族読本

小説書いてます。
 
不定期更新(笑)

図書館の裏手にある、少し離れた場所にその公園はある。公園というには粗末で、家一軒分程の面積しかない。遊具も存在せず、有るのはベンチ二つだけ。
 
 
 
公園という機能を果たしていないこの場所は、ただそこにあるだけの存在で、子供が遊びに来る事も、ましてや、野良猫すら寄り付かない場所だった。
 
 
 
その場所を囲う様に植えられた木々は、長年の雨風により内側に曲がり、公園を包み込むかの如くその姿を変えた。
 
 
 
誰も来ない、誰も寄り付かない、名前も無い、そんな場所にただ一人、いや、二人と言うべきか、その女の子は出会った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
目覚めた朝は、窓に丁度良く太陽の光が注ぎ、とても清々しい一日になると、教えてくれているみたい。
 
 
 
中学三年間を過ごし、四月には新しい学校生活が始まる。その準備期間に設けられているのが『春休み』だとしたら、一体どんな準備をすれば良いのか。
 
 
 
悩み事もたくさんある、新しい生活に馴染めるのか、勉強についていけるのか、友達は出来るだろうか、悩みの種を紐解いていくと、一気に気分が悪くなるので、綵はその紐を硬く絞めた。
 
 
 
せっかく太陽が良い一日になると教えてくれているのに、自らそれを否定するのは勿体ない。今は今日一日をどう楽しく過ごせるか、それだけ考えればいい、綵はそう心に決めた。
 
 
 
「あーちゃんおはよ!」
 
 
 
ベッドからモゾモゾと這い上がろうとした時、姉の空子(くうこ)が声を掛けてきた。
 
 
 
「あ、くぅ姉さんおはよー」
 
 
 
「あーたん、今日は珍しく早起きだね?デート?」
 
 
 
あからさまに顔が赤くなる綵を見て、空子は余計に囃し立てる。
 
 
 
「もうっ、彼氏なんていないの、くぅ姉さんが一番わかってるはずだよ?」
 
 
 
「だって、あーたん可愛いんだもん///」
 
 
 
「可愛いくないから」
 
 
 
照れるけど、「可愛い」と言われるのは嬉しい、空子は毎朝の様にこの言葉を言っては、綵の仕草を見てはしゃいでいる。
 
 
 
「でー、本当に彼氏とデートなの?」
 
 
 
「違うって!今日はお日様がポカポカだから、どこかに行こうかなって」
 
 
 
空子は「そっかー」と言いながら、綵の部屋を眺めた。
 
 
 
「綵、久しぶりにお姉ちゃんとデートしない?」
 
 
 
空子は出掛けることを常々「デート」と言う。以前カラオケに行く時も「カラオケとデートしてくる」と言っていた。
 
 
 
「いいよ、どこに行くの?」
 
 
 
「あーちゃんが大好きな場所だよ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
連れて来られたらのは、町が運営している図書館だった。町民なら誰でも本やCDが借りられる、しかも無料で。
 
 
 
綵はこの図書館が大好きだった、館内に流れる気品漂うクラシックに、本独特の香り、壁に掛けられた大時計は、一時間過ぎる度に「ゴーンッ」と響く。喉が渇いたら吸水所もあるので、丸一日過ごせる自信がある。
 
 
 
「あーたん、ここに来るのは久しぶりじゃない?」
 
 
小学生の頃は、よくこの場所に来て本を読んでいたが、中学になると勉強や部活で忙しくなり、図書館にも行けなかった。
 
 
 
「うん、久しぶり。全然変わってない…わけでもないね」
 
 
 
よく見ると、本を検索できるパソコンが用意されていた、小学生の頃には無かった品物だ。
 
 
 
「時代は日々進化していくねぇ~(笑)」
 
 
 
時代は日々進化する…かぁ。
 
 
 
時間の流れは、意識していないとあっと言う間に過ぎてしまう。ついこの前まで中学生だったのに、気づいたらもう直ぐ高校生だ。中学生だった頃が懐かしく感じてしまうのも、時の流れと言う大きな渦の中に身を置く者として当然なのだが、寂しさはまだまだ抜けそうにない。
 
 

「新しい本、見てみようよ♪」
 
 
 
空子は急かす様に入口に入って直ぐ右手にある新刊コーナーへ促した。
 
 
 
経済、児童文学、歴史、様々なジャンルの本が、バラバラに置かれている所が、なんとも図書館らしい。
 
 
 
「面白そうな本、ないね」
 
 
 
綵は新刊コーナーを抜け、奥にある小説コーナーへ向かった。
 
 
 
著者があいうえお順に並べられてあり、新刊コーナーとは違い、ちゃんと管理されていると思いきや、順番がバラバラだったりする。
 
 
 
こういうのを見ると、ついつい直してしまうのが綵の癖で、アーサー王物語を全五巻、きちんと並べていた。
 
 
 
適当に目についた本を手に取り、面白そうだと思ったらキープ、それを十回程繰り返し、手元に残ったのは二冊。
 
 
 
空子はというと、CDレンタル用の緑色をした10cm程のプラスチックの板を三枚、にやにやしながら持ってきた。
 
 
 
「くぅ姉さん、何借りたの?」
 
 
 
「秘密(笑)」
 
 
 
その含み笑いから察するに、聴きたいと言うよりも、面白半分で持ってきたに違いなかった。
 
 
 
「あーたんは、その二冊だけ?」
 
 
 
「うん、よくわかんないけど面白そうだから」
 
 
 
この『よくわかんないけど面白そうな本』は、どれくらい自分を楽しませてくれるのか、家に帰ったら早速読もう、綵は今日一日を読者して過ごすことに決めた。
 
 
 
図書館を出て、家に戻るかと思ったら、急に空子は足を止めた。
 
 
 
「どうしたの、くぅ姉さん?」
 
 
 
「久しぶりにさ、図書館に来たんだし、あそこにも行って見ようよ♪」
 
 
 
「あそこ?」
 
 
 
「ほら、図書館の裏手にある、ちょっと離れた場所にある公園だよ♪」
 
 
 
そういえばそんな場所があったっけ、小学生の頃はよくそこで遊んだ気がする。
 
 
 
「くぅ姉、行こっか」
 
 
 
二人は昔話に花を咲かせながら、その公園へ向かった。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
「わぁ~、代物変わってる…というか、無くなってる」
 
 
 
その公園には昔、木で出来た小屋(と言っても、屋根がある鳥カゴを大きくしただけみたいな粗末なもの)があったが、今はその小屋は取り壊されてしまった様で、跡形もなくなっていた。
 
 
 
唯一残されていたのは木で出来たベンチが二つ、こちらも木が朽ち始めていて、ネジが剥き出しになっていたりする。
 
 
 
「懐かしいね~、あの頃は広く感じたのに、今見ると狭く感じるね」
 
 
 
懐かしい…のか、綵は不思議だった。この公園で遊んだ記憶が無いのだ。確かに見覚えはあるが、その記憶さえ朧気で、綵はなんだか気持ち悪くなってきた。
 
 
 
「くぅ姉さん、ちょっと気分悪くなってきちゃった…」
 
 
 
「そうなの?じゃあ、ベンチに座って日向ぼっこしよっか!」
 
 
 
「うん…」
 
 
 
「帰りたい」とは言えなかった、空子は懐かしいのか、公園を行ったり来たりしている。
 
 
 
何で空子はこの公園が懐かしいのか、何で自分は気持ち悪くなるのか、まるでこの公園が自分を拒絶しているかのように感じる。
 
 
 
 
 
 
 
 
気がつくと、空は夕暮れの赤に染まっていた。綵はあれからベンチに寝転び眠ってしまったようだ。
 
 
 
少し肌寒い風が吹くと、綵は何かとてつもない不安に駆られた。
 
 
 
「くぅ姉さん?」
 
 
 
どこを見渡しても空子の姿は無い。
 
 
 
自分を残して帰るような姉ではないし、いつも自分を気遣ってくれる姉だ、しかし、空子をいくら呼んでも返事はなかった。
 
 
 
「えっ…?」
 
 
 
瞬き一つした瞬間、自分の目の前に少女が立っていた。
 
 
 
「えっと…アナタは誰?ここら辺の子かな?お母さんは?」
 
 
 
ただじっと綵の目を見つめて、何も答えない少女に、綵は不気味さを感じた。
 
 
 
「ねぇ…」
 
 
 
綵が声をかけた時、小さな声だったが、はっきりと聞こえた。
 
 
 
 
 
 
 
 
「オカエリナサイ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「お~い、起きろ~」
 
 
 
目を開いた時に、目の前にいたのは空子だった。太陽はまだ頭上にあり、暖かい日差しを注いでいる。
 
 
 
「くぅ姉さん、私…寝てた?」
 
 
 
「うん、気分悪いってベンチに横になった瞬間にぐ~って(笑)」
 
 
 
あれは夢だったのか、今思い返すだけでも気色悪い夢だった。
 
 
 
あの少女は何者なんだろう?
 
 
 
「おかえりなさい」の意味は?
 
 
 
思い出す度にあの子の瞳を思い出す。白目が無く、真っ黒の瞳。少しボサボサな髪、黒いシャツに、血の様な真っ赤なスカート。
 
 
 
見たことのない子供だった…と思う。
 
 
 
この場所に来てから、綵の記憶はグラグラ歪んでいる。まるで、この記憶が自分のものではなく、誰か他人の記憶の様な、そんな記憶。
 
 
 
「何ぼーっとしてるの?綵?」
 
 
 
「あ、ごめん」
 
 
 
「そろそろ帰ろっか?お腹空いたし♪」
 
 
 
手を繋いで帰る私達の後ろで、あの子がじっと見ている気がした。
 
 

頭の中で、あの子の高い様で低い声が響く。
 
 
 
ーオカエリナサイ…。
 

 
 
 
 
 

 
 
良い一日になるはずが、とんでもない日になってしまった。
 
 
 
頭の中から、あの少女が離れない。
 
 
 
ただの夢、そう、あれはただの夢。
 
 
 
私は、悪い夢を見たんだ。
 
 
 
「ねぇ、あーたん」
 
 
 
「何?」
 
 
 
「優ちゃん、覚えてる?」
 
 
 
「えっ?誰?」
 
 
 
「昔よく、あの公園で一緒に遊んだじゃん」
 
 
 
知らない!知らないよ!記憶にない!私の記憶に、その名前の子は知らない!
 
 

「明日も行ってみよっか?あの公…」
 
 
 
「行かないっ!!」
 
 
 
綵は自分の部屋から空子を追い出した。
 
 
 
「誰?優ちゃんって…誰?」
 
 
 
ーオカエリナサイ…。
 
 
 
頭の中に思い浮かぶのは、あの少女。もしかしたら、あの子が優ちゃんなの?
 
 
 
もしそうだとしたら、何で私の記憶に優ちゃんはいないの?何であの公園で遊んだ記憶が無いの?
 
 
 
あぁ、それよりもくぅ姉さんに悪いことしちゃったな…。
 
 

綵は部屋の扉を開けると、半泣きになってる空子がいた。
 
 
 
「あぁぁたあぁぁん!ごべんねぇぇ!!」
 
 
 
姉なのに、こういう所はまるで妹みたいで可愛いかった。
 

 
「私こそ…ごめんね」
 
 
 
抱きしめながら、姉の頭を撫でる姿は、端から見たら不思議な光景だろう。
 
 
 
「くぅ姉さん、明日、もう一度あの公園に行こ?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
次の日は、雲が太陽を隠し、風も強かった。
 
 
 
「あーたん、今日はやめよっか?」
 
 
 
「うぅん、行きたいの」
 
 
 
「…わかった、行こ!」
 
 
 
風は思っていた以上に強かった、道行く家の窓はガタガタ鳴り、家の隙間を縫う様に吹き抜けた風は、「ヒューッ」とその声を上げる。どこからか歩いてきた青いバケツは、踊りながら道を横切って行った。
 
 
 
「ちょっと寒いね、あーたん、大丈夫?」
 
 
 
「うん、平気」
 
 
 
寒さはそれほど気にならなかった、綵が気になっているのはあの公園と、きっと「優ちゃん」であろう少女のことだった。
 
 
 
公園に近づくに連れ、頭がガンガンと痛み出す。
 
 
 
体が行くことを拒絶しているみたいだ。
 
 

それでも綵は、その痛みを訴えることなく進む。横目でみる空子は、心配してるようだった。
 
 
 
公園に着いた。
 
 
 
公園を囲む様に植えられた木々は、風でザワザワと揺れる。
 
 
 
「あーたん、着いたけど…」
 
 
 
「くぅ姉さんありがと。私、ちょっとベンチに座ってるから、もし暇だったら図書館で本読んでてもいいよ?」
 
 
 
しかし、空子は首を横に振った。
 
 
 
「一緒にいるよ、なんかあーたん、昨日から様子がおかしいんだもん…」
 
 
 
「そっか」
 
 
 
正直な所、空子が隣に居るのは心強かった。
 
 
 
しかし、空子がいるせいで、あの女の子に会えない気もしている。
 
 
 
それでも綵は、昨日と同じ様に目を閉じた。
 
 
 
 
 
 



気がついて目を開けると、やはりそこは昨日と同じく、真っ赤な空が浮かぶ公園だった。
 
 
 
「くぅ姉さん?」
 
 
 
さっきまで隣にいたはずの空子は、また姿を消している。
 
 
 
今度は、ちゃんと確かめなきゃ。
 
 
 
綵はベンチから立ち上がると、公園を歩き始めた。
 
 
 
風は止んでいる。
 
 
 
むしろ、物音一つ聞こえない静寂が包み込んでいる。
 
 
 
あの子はどこにいるんだろう?
 
 
 
「オカエリナサイ」
 
 
 
後ろを振り返ると、そこに少女はいた。
 
 
 
「アナタが優ちゃん…なの?」
 
 
 
「オカエリナサイ」
 
 
 
「アナタは誰なの!答えて!」
 
 
 
「オカエリナサイ」
 
 
 
少女はあの黒い瞳で綵を見つめている、その表情は無表情で、「オカエリナサイ」と言うような、温かいものではなかった。
 
 
 
「私に、何を伝えたいの…!」
 
 
 
「オ カ エ リ ナ サ イ !」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「綵っ!!綵ぁ!!」
 
 
 
「……また、だ」
 
 
 
「何?どうしたの!?」
 
 
 
昨日と全く同じ、気がつくと空子がいて、私がしっている景色になっている。
 
 
 
「ねぇ、くぅ姉さん…」
 
 
 
「もう帰ろ、あーたん。この場所にはもう来ない方がいいよ…」
 
 
 
「優ちゃんって、どんな子?」
 

 
 
 
 
 
 
 
家に帰った綵は、小学生の頃の卒業アルバムを探した。
 
 
 
綵が見たのは、間違いなく『優ちゃん』だった。
 
 
 
空子の言っている優ちゃんの姿が、綵が見た少女と一致したのだ。
 
 
 
「…優ちゃん、見つけた」
 
 
 
確かに、同じクラスに同じ姿の少女がいた。
 
 
 
どうして記憶に無いのだろう、遠足やクラブ活動の写真には、常に隣にこの少女が写っていた。
 
 

「あーたん、小学生の頃の卒業アルバムなんて引っ張り出してどうしたの?」
 


「優ちゃんが見たくて」
 
 
 
「そっか、仲良しだったもんね…本当に残念だったよね…」

 
 
「残念だった…?」
 
 
 
「あたし達と遊んでる時、事故にあって…本当に覚えてないの?」
 
 
 
「あ…あぁっ…あぁ!!」
 
 
 
記憶がまるでモノクロ映画の様に、頭の中で映し出される。
 
 
 
仲良しだった優ちゃん、可愛いかった優ちゃん、大好きだった優ちゃん、思い出すのは優ちゃんの優しさ溢れる笑顔。
 
 
 
そして。
 
 
 
真っ赤に染まった優ちゃん。
 
 
 
私は、思い出すのが辛いから、ずっと記憶を閉じ込めていたんだ。
 
 
 
それでも「おかえりなさい」と言ってくれた優ちゃん、そんな優ちゃんに、私は「アナタは誰?」なんて酷いことを言ってしまった。
 
 
 
卒業アルバムの写真の上に、綵の瞳から落ちた涙が、そのページを濡らす。
 
 
 
「あーたん!?どうしたの!?」
 


「優ちゃんごめんね!私…忘れてた!違う!優ちゃんのいない世界が辛くて、悲しくて!記憶を閉じ込めてた!くぅ姉さん、明日、また一緒にあの公園に行こう!私、謝らないと!優ちゃんに謝らないと!」
 
 
 
「な、何だかよくわかんないけど、わかった、わかったから泣かないで?」
 
 
 
「こめん、ごめんなさい優ちゃん…」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
次の日、あの公園には人集りが出来ていた。公園の横にはパトカーが止まっている。
 
 
 
「何だろう…」
 
 
 
綵と空子は野次馬を掻き分けて、人集りの一番前に出た。
 
 
 
目の前に広がっている光景は、よく刑事ドラマで見られる、人型に沿ったロープと、鑑識官が数人、人型に沿ったロープは、赤い血だまりに触れ、赤く染まっていた。
 
 
 
「殺し…ですか」
 
 
 
「通り魔的な犯行だろう、包丁で後ろから一突き、更に、前に三つの刺し傷だ。現金が抜かれてるから、強盗殺人の疑いもあるな」
 
 
 
何でこんな場所で殺人事件が?
 
 
 
「警部!林の中から犯人と思われる者が生活している跡がありました!」
 
 

「何っ!?ってことは、犯人はずっとここで生活してるホームレスってことかっ!?」
 
 
 
綵と空子は呆然としていた。
 
 

そう、二人があの公園に遊びに来ていた頃、犯人はもしかしたら一緒に居たのかも知れない。
 
 

「あーたん…大丈夫?帰ろ?」
 
 
 
「うん…あっ」
 
 
 
そうだ、そうだったんだ!!
 
 
 
優ちゃんが言っていたのは、帰って来たことを喜ぶ「おかえりなさい」ではなく、早く帰りなさいという意味の「お帰りなさい」、つまり警告だったんだ!!
 
 
 
「くぅ姉さん、優ちゃんって、やっぱり優しいね…」
 
 
 
「急にどうしたの?」
 
 
 
「何でもない!!」
 
 
 
私は、優ちゃんのお墓に行くことにした。
 
 
 
言わなきゃ、「ごめんね」じゃなくて、「守ってくれてありがとう」って!
 
 
 
 
 
 
 
 
「そうだったんだ…」
 
 
 
お墓に向かう途中の道で、綵は最近自分に何が起きていたのかを説明した。
 
 
 
「何でもっと早く話してくれなかったの?」
 
 

「信じてくれないと思ったから」
 
 

「信じるよ、あたしはいつでもあーたんを信じてる!」
 
 
 
「ありがと、くぅ姉さん」
 
 
 
 

 
 
 
 
お墓に着い二人は、お花を添え、お線香に火を灯した。お線香の香りが辺り一面に広がっていく。
 
 
 
(優ちゃん、あの時、アナタは誰なんてことを言ってごめん。優ちゃんはずっと警告してくれていたんだよね?ありがとう、優ちゃん。もう絶対忘れないから…また来るね?)
 
 
 
「そろそろ行こっか、あーたん」
 
 
 
優ちゃんのお墓を背に、綵は歩き出した。
 
 
 
その時、後ろから聞こえた気がした。
 
 
 
優しい声で、二人を包み込むよえな美しい声で。
 
 
 
 
 
 
 
 
ーおかえりなさい、綵ちゃん…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
風が一瞬、二人の間をすり抜け、空へ舞い上がって行った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
おしまい。