教室内に終業のチャイムがなり響くと、一年A組の生徒達は、それぞれ仲の良いグループに別れて、雑談や、これからどこに寄るか等を話し合っている。
入学してから早くも月半ばまで過ぎたが、綵は未だにクラスに溶け込むことが出来ずにいた。
それもそのはず、綵はその性格から、人と話すのが苦手で、他人とどう接すれば良いのかわからないのだ。
入学式前に綵は、同じ高校に通う二つ上の姉である『空子』に悩みを打ち明けたことがあるが、「大丈夫だよ!笑顔で『おはよー!』って言えば、自然に打ち解けられるから!」と、なんとも姉らしい回答が返ってきた。綵には先ず、その段階が出来ないのでどうすれば良いか聞きたかったのだが。
もし話し掛けるとしても話題が無い、「趣味は何ですか?」なんてお見合いみたいな質問は、きっと場を白けさせてしまうし、「好きな食べ物は?」では、まるで自分が食いしん坊みたいに見られてしまう。
そうだ、一つあるではないか。
この学校をネットで検索した時にたまたま見つけた噂が…。
「桜って綺麗だよねー」
「でもさ、綺麗に咲く桜の下には、死体があるって言い伝え知ってるー?」
「何それ、怖すぎなんだけどー」
「うちの学校の校庭にある一本桜も、実はそうらしいよー?切り倒そうとすると、祟りが起きるらしいから、切れないんだってー」
「えー?キモいー、絶対近寄らないわー」
どうやらその話題は、先に使われてしまったようだ…。
入学式も終わり、私は晴れて高校生になった。
私は未だクラスに馴染むことが出来ず、徐々に出来始めたグループを眺めて過ごす日々が続いている。
四月も二周を過ぎると、桜の木も新芽が出始め、花びらは散っていくのに、私の学校の校庭にある『一本桜』と呼ばれている桜は、今も花を咲かせ、堂々と咲き誇っていた。
一本桜は曰く付きの桜…
たから、周りに一緒に咲いてくれる仲間もいない。独りぼっちの桜。
「私と同じだね…」
独り言を呟き、窓から桜を眺める。
私は、その桜が好きだ。
独りぼっち、まるで今の私じゃないか。
ーおいでよ…。
「えっ?」
一瞬、教室の誰かが私を呼んだのかと思い、周りを見渡してみたが、私を呼びそうな人物は見当たらない。
そら耳…だと、前の私なら思っただろう。
でも、私は、入学前に不思議な体験をしている。
『忘れられた公園』で、今は亡き友人との再会した私は、あれから『見えてしまう』のだ。
同じ体験をした姉は見えないらしい。
私だけに与えられた力…とか言ってしまうと厨二病みたいだが、あの事件以来、私には『幽霊』らしき者が見えてしまう。
そして、さっきのそら耳…。
間違いない、『幽霊』の声だ。
幽霊と人間が話す言葉は微妙に違う、いや、言葉の意味が違う。
それが彼らの個性であり、主張であり、存在である。
教室の窓を誰かの邪魔にならない程度に開けると、春独特の風が気持ち良く私に吹き抜ける。
そう、もう春なんだー…。
新しい生活に馴染めない私とは裏腹に、周りの環境は日々変化していく。時の流れに取り残された感覚に怯えながら、私は今を生きているんだ。
「ねぇ、寒いんだけど」
「あ、ごめん」
話し掛けられると思ってなかったから、私はきっと鳩が豆鉄砲を撃たれたような姿だっただろう。
彼女は『霞ヶ関 紗菜』さん。
駅みたいな名前と同じように、性格も賑やかな人だけど、友人以外には冷たく当たる。私が苦手なタイプ、ベスト三(スリー)に入る。
「あんたさ、何でぼっち気取ってんの?流行り?」
「別に、気取ってないし、流行りでもないよ。馴染めないだけ」
「ださ…」
あぁ、やっぱり苦手だ霞ヶ関さん。
でも、彼女の言っていることは、正しくもある。私は自分に甘えてるたけ、いつも待ってるだけ、ずっとそうだ。
変わらなくちゃ…だめだ。
ーおいでよ…。
うん、もう少し待ってて、授業終わったら会いに行くから。
授業が終わると、風は冷たくなり、肌を刺激する。マフラーを持って来てて良かった。赤いマフラーを首に巻き付けると、私は校庭に向かった。彼に会いに行くために。
一本桜は目の前で見ると、その姿に思わず息を飲み込む程に美しく咲き誇っている。見事…、これは芸術の域だ。と、思わず息を飲んだ。
一陣の風が吹くと、桜の花びらが空を舞い、夕暮れの時間だということも忘れるくらい華やか。
そして、彼は花吹雪の中から姿を現した。
ー待っていたよ…。
現れた少年は、私と同い年くらいで、幻想的な桜とは正反対の格好をしている。灰色のパーカーのフードを被り、青いジーンズ、黒のスニーカーを履き、ベルト通しから後ろポッケまで繋がっている銀の玉を連ねたウォレットチェーンを付けて、両手をジーンズのポケットに突っ込んでいた。
「アナタが私を呼んでたの?」
私はわかっている質問を、お約束の如くぶつけてみた。彼は俯いている顔を前に向けて私を見た。
ここで大体のホラー映画なら、骸骨丸出しの顔が現れて、観客を驚かせるのだろうが、目の前にいる彼は、顔立ちの整った綺麗な顔で、その眼は澄んでいる。
どちらかと言えばアイドルに居そうな顔…とでも言うのだろう。幽霊でなければ恋心すら抱いていたかもしれない。
ー君を呼んだのは僕だよ、綵…。
私はまだ彼に名乗っていないのに、彼は私の名前を呼んだ。いや、読み取ったのかもしれない。
「私に何か用?」
ー僕を自由にしてくれ…。
地縛霊、それは、この世に未練を残して、自らが命を絶った場所に留まる霊。いつまでも消える事のない苦しみから、悪霊になるケースが一般的だが、彼はまだ悪霊にはなっていないようだ。
「どうすればいいの?自由って事は、成仏したいってこと?」
彼は一瞬躊躇したような表情を見せたが、それを直ぐに隠した。
ー綵、僕は地縛霊じゃない…。
私の予想を見抜いた彼は、どこか寂しい表情を浮かべる。
ー桜、綺麗だろ…?
「うん。綺麗」
ー今年で見納めだよ、この桜は来月無くなる…。切り倒されるんだ、ここに新しい倉庫を建設するらしい…。綵、僕を自由にしてくれ。桜が切り倒されて、僕が消えてしまう前に…。
「アナタは誰なの?」
率直な質問をぶつけてみた。彼が地縛霊ではないなら、一体何者なのかわからない。浮遊霊でもなさそうだし、ましてや悪霊でもなさそうだ。
ー僕は…。
「いたいたー、こんな所で何してんの?」
現れたのは綵の姉、『空子』だった。私服姿なので、帰宅が遅い綵を心配して見に来たようだ。
空子に意識を取られていた瞬間、彼は姿を消して、そこには盛大な一本桜だけが、どこか寂しげに揺れている。
「帰ろ?」
「うん…」
この日、私は一日中落ち着かなくて、出された宿題も手付かずにボーっとしていた。たまに姉が部屋をノックする度に我に返る、それを何度繰り返しただろうか。
「あーたんどしたの?」
姉が心配そうに私を見た、その手には私のコップと、クッキーが握られている。どうやら差し入れを持ってきてくれたようだ、さり気ない優しさが、私は嬉しいかった。
「くぅ姉さん、校庭にある一本桜のこと、何か知ってる?」
姉は私より長くあの学校にいる、きっと、あの桜のことも知ってるはずだと、私は姉に質問してみた。
「もしかしてあーたん、あの桜が怖いの?ふふ、あの噂はデマだよ」
「えっ?嘘なの?」
「あの桜は初代校長先生が植えた桜で、それから今まで一度も、あの桜で亡くなった人は居ないし、ましてや、死体が埋まってることもないよ?切ろうとすると祟りがあるって言うのもデマ、全部嘘っぱちだよ」
じゃあ、私が見たあの人は、一体誰なんだろうか。彼は自分で「地縛霊しゃない」と言っていた、でも浮遊霊じゃないのも事実。だって、彼が「自由にしてくれ」と頼み込んでいたからだ。
何かに縛られている?
桜が無くなるまでに彼を自由にするには、まだまだ情報が少ない。明日、また彼に会えば何かわかるだろうか…。
「おーい、あーたーん?」
「あ、ごめんくぅ姉」
「何考えてるか大体想像出来るけど、危ないことはしちゃだめだよ?あの時は優ちゃんが助けてくれたけど、毎回誰かが助けてくれるとは限らないし、まして、あーたんは普通の女子高生なわんだからね?」
普通の女子高生…か。
確かに私はお祓いが出来るわけでもないし、ましてや無宗教だし、ただ『見えてしまう』だけの、普通の女子高生なんだ。
「大丈夫、心配しないで?」
「もし危ないことしたら、クッキーあげないからね?」
と、口をもぐもぐさせながら私に差し入れするはずだったであろう『ソレ』を、頬張っている。
「もう食べてるじゃん」
「綵、人生とは焼肉定食なのだよ?」
「うん、そうだね」
「いや、突っ込む所だよ?」
弱肉強食を「焼肉定食」という、何ともベターなボケをかました姉を、あえてスルーさせて貰った。
「宿題、頑張ってね」
机に差し入れの紅茶を置くと、姉は私の部屋から出て行った。
私が今やるべき事、それは、有り得ない程出された宿題と格闘すること。今日遭遇した超常現象は、明日また考えればいい…友達のことも。
翌日、授業を終えた私は、また桜に向かった。今度は姉が心配しないように、部活見学するから先に帰ってと伝えておいた。
ーまた来てくれたんだね、ありがとう…。
彼はまた桜吹雪の中から姿を現した。
「今日といい、昨日といい、登場の仕方が派手だね」
軽い冗談を言うと、彼は少し笑顔になったが、直ぐに真顔に戻った。
「アナタは誰?」
ー僕は…
言いかけて止めてしまった。
「私は綵、アナタの名前を教えて?」
しかし、彼は俯いたまま喋ろうとしない。まるで、何かを考えているかのように。
ー綵、いい名前だね…。
「アナタの名前は?」
ー分からないんだ、僕は誰で、何者なのか…。
「でも、自分が置かれている状況は分かるんだよね?」
でなければ、自分を地縛霊だとも、浮遊霊だともわからないはずだ。だとすると、彼の答えは『自分自身の名前が分からない』『生前の記憶が無い』事になる。しかし、『生前の記憶が無い』にしては、自分の置かれている状況を把握し過ぎている。記憶を無くしたら、誰でもパニックになるはずだが、それは幽霊には適用されない感情なのか?
ー綵はお喋りなんだね。
「えっ?私、何も言ってないよ?」
ー聞こえるんだ、綵の思っていることが…。
「人が思ってることが分かるの?」
ーうん、何故かは僕にも分からないけど…。
「じゃあ、今私が思ってることもわかるの?」
ーわかるよ。『プライバシーの侵害』だろ?ごめんね、自分でもどうやっているのか分からないんだ…。
彼は申し訳なさそうに笑うと、また俯いてしまった。
「どうすればアナタを自由に出来るの?」
ー分からない…。ただ、綵にしか出来ないと思ったんだ…。
「そっか」
深刻に考えるのは止めよう、きっと彼は寂しかったんだ。それはそうだ、周りに桜はなく、本当に『一本桜』なのだから。
「名前、覚えてないの?」
ーうん。綵の言う通り、自分が霊であることは僕も自覚してるし、自由になりたいのも嘘じゃない。綵、僕は誰なんだ…?
「分からない、だからもう少しアナタのことを調べてみる。きっと、その桜と関係してるんだと思うよ」
ー気づいたら此処に居たんだ、そして、此処から離れることも出来ない。誰も僕は見えないし、ずっと一人だった。綵の言う通り、寂しかったよ…。
私の思う「寂しい」と、彼の言う「寂しい」は、きっと具合が違う。彼が抱えていた孤独は、私には到底想像つかない。その孤独を抱えても、彼は悪霊にならなかった。それは、とても凄いことだと思う。
死んでしまった事実を受け入れ、記憶が無いまま、何年孤独に耐えていたのだろう。私だったら、きっと…。
ー綵、ありがとう…。
「えっ?」
ー何度も闇に飲み込まれそうになったよ?でも、僕は…そうか…、綵!僕は知っていた、君が僕を見つけることを、いや、違う、信じていたんだ、綵が必ず見つけてくれるって信じていたんだ!
「え?だって私、アナタを知らない…」
ー思い出せないのは僕じゃない!綵、君なんだよ!君が僕を思い出してくれれば、僕は自由になれるんだ!お願いだ、綵!僕を思い出してくれ!僕はずっと、君の傍に居たんだ!
またか…。また私は大切な『誰か』を記憶の中に封じ込めているんだ。彼を縛っているのは桜じゃない、私なんだ…。
ー綵、桜が無くなるまで時間はまだある。それまでに思い出してくれればいいから…。
「ごめんね、もう少し待ってて…」
ー待ってるよ…。
彼はそう言い残して姿を消した。
私はどれだけの人を記憶の檻に封じ込めているんだろう。優ちゃんといい、彼といい、もしかしたら、まだたくさんの人々を、記憶の檻に封じ込めて、忘れているのだろうか…。
私は、これ以上誰かを忘れたくない。大切な人を、もう忘れたくない…。
帰 宅した私は、直ぐに卒業アルバムを開いた。優ちゃんの時は小学生の頃のアルバムで思い出したので、今度は中学生の頃のアルバムも引っ張り出した。
「駄目だ、全く思い出せない…」
必死に思い出そうと端から端まで読んだ結果、私は、将来ケーキ屋さんになりたいことが判明しただけで、他になんの手掛かりも掴めなかった。
「集合写真、私、目瞑ってるし…」
頭の中がもやもやし過ぎて、ベッドにダイブすると、私がいつも抱きしめて眠る、熊のぬいぐるみが落下した。
「あ、ごめんね…」
落下したぬいぐるみを拾おうと、ベッドから身を乗り出したら、見事、自分も落下してしまった。部屋に『ドサッ』と音が響く。
「うぅ、痛い…」
実際はそこまで痛くなかったが、人間というのは不思議なもので、痛くなくても『痛いたろう』と想像するだけで「痛い」と呟いてしまうものだ。
「あーたん?どしたのー?」
扉越しから聞こえる姉の声、私達の部屋は隣同士なので、一枚壁があるにしても、電話で話す声は、丸聞こえだったりする。どちらかと言えば、姉の方が独り言が激しいので、宿題の問題に愚痴を零す声を、よく耳にしたり…。
「何でもないよ、ベッドから落ちただけだから」
「入るよー?」
既に入ってる…とは、あえて突っ込まない私。
「あーたん見て見て!!ジャーン!!」
「くぅ姉さん!!それ、私が昔描いたイラスト集じゃん!!くぅ姉が持ってたの!?」
「これを学校で配られたくなければ、冷蔵庫にあるプリンを渡しなさい!」
姉ながら人質?を取るなんて…。
「わかったから返してよ」
「フフフッ、あーたんも大人になったねー?」
「くぅ姉さんが大人気ないんだよ」
「ぐはっ、会心の一撃…ばたり」
大袈裟に私の部屋で横たわる犯人を無視して、私は、中学一年生の頃に描いたイラスト集に目を通した。どれもバランスが悪く、決して上手いとは言えないイラストの数々…どうしよう、亡きものにしたい。
「あのー、あーたん?無視とか寂しいから構おうよ…」
「くぅ姉さん、犯人が死んだら警察は誰を取り調べすればいいの?」
「さすが妹、ただでは転ばないのね…」
「くぅ姉さんが倒れてる内に、プリンは私が食べちゃう作戦を決行します」
「何をー!!姉はゾンビとなりふっかーつ!!プリンは渡さないぞー!!」
我先にと部屋から飛び出し、姉は去って行った。
「ありがと、くぅ姉さん」
これも、私を元気付けようと必死にやったことだと私にはわかったから、お礼にプリンくらいあげるよ。
再びイラスト集に目を通すが、あまりの下手さに一瞬気絶しそうになった。
「あー、これ、くぅ姉さんに見られたんだよなー。口封じ、どうしよう…」
椅子に座って、イラスト集をどう処分しようか考えようとしたら、一枚の紙がイラスト集から落ちた。その紙を見た瞬間、私は全て思い出した。
「そっか、だからあの人は私を知っていたんだ…」
今日で彼は呪縛から解かれる。それは、彼が成仏することであり、自由になること。そして、消えてしまうということ。
ー綵、思い出してくれたんだね?
「うん、思い出したよ…夜くん」
ーそう、僕の名前は夜空、綵が描いた絵だ…。
「でもわからないの、どうして夜くんはここに『存在』しているの?」
ー僕は、綵の寂しさが生み出した存在。そして、この桜は仲間がいない一本桜、そして、今、綵はひとりぼっち…だよね?
「私の寂しさが、桜と繋がって、それが夜くんを生み出したってこと?」
ーだから綵は、このひとりぼっちの桜に、感情移入したんだろう。綵、見てごらん?この桜はね、もう花なんて咲いてないんだよ…。
「そんなっ…!?」
あの壮大だった桜は何処に行ったんだろう、私の目の前にある桜は、その寿命を全うしたかのように、枯れてしまっていた。
ーもう、この桜は花を咲かせることが出来ないんだよ。僕にもわからないけど、どうやら病気らしい。昨日、校長先生がいらしてね、色々教えてくれた。もちろん、校長先生が語り掛けたのは僕ではなく、この桜なんだけどね。
「校長先生は何て言ってたの?」
『君を枯らせてしまって、本当に申し訳なく思う。本当は、ずっと、この学校を見守って欲しかったが、私の力不足だ、許して欲しい。最近、君と話をしている子がいるね?新入生の子だろう、きっとまだ友達が出来なくて、寂しい思いをしているのだろうね。君を切り倒さないといけないのは、本当に申し訳ないが、少しでもいい、話し合い手になっては貰えないだろうか?ずっとこの学校を見守ってきた君だから出来ることだ、身勝手なことだと自分でも思うが、君の最後のお役目だと思い、取り組んで欲しい。宜しく頼むよ?』
ー良い校長先生だね、本当に生徒のことを思っていなければ、出てこない言葉だ…。
「そうだね。私、この学校に入学して良かったって、やっと思えた気がする。この桜にも会えたし、夜くんにも会えたし、校長先生の優しさにも嬉しかった…」
ー綵、僕は決めたよ…。僕はこの桜に与えられた使命を、引き継ぐことにした。
いつの間にか夜空は、桜から離れて、私の目の前に立っていた。
向かい立つ彼の眼は、まるで生きているかのように輝き、澄んでいる。
「どういうこと…?自由になりたかったんじゃないの…?」
ー自由さ、僕はもうこの地縛から解放されたからね。これからはずっと一緒だよ、綵。
「ニコッと」笑い、照れくさそうにする彼は、本当に生きているかに思える…いや、私の中では、生きている、存在しているんだ。『夜空』という名前の少年が、今、ここに居る。
「おかえり、夜くん」
ーただいま、綵…。
自然に両手が夜空に伸びた、夜空もそうだったと思う。
私達は抱き合った、お互いを確かめるように。
「で、このイラストの子があーたんの守護霊になったわけかー。お姉ちゃん、なんか嫉妬ー」
まさか、幽霊に嫉妬するとは…、さすが姉。
「夜空かー、じゃあ、夜には『夕』って漢字が使われてるから、ユウくんで!!宜しくねー」
そう言うと、姉は私の肩をバシバシと叩いた。少しばかり力が入ってるのは勘違いだろうか…。
ー楽しいお姉さんだね。僕からも宜しく伝えて?
「夜くんが、『宜しく』だって」
「いやー、目に見えないけど弟が出来て、お姉ちゃん嬉しいよー」
こうして、私達姉妹+幽霊の、よくわからない生活が始まった。
「夜くん、お風呂覗かないでね?覗いたらお祓いするからね?」
ーし、しないよっ!!
この日のことを 、絶対に忘れない、忘れたりしない…。
次の日、私は教室の前で立ち止まっていた。今日こそ、友達を作らなきゃ!そう意気込んで家を出たのに、いざ教室を目の前にすると足が竦んでしまう。
ー綵、大丈夫…?
「大丈夫…じゃ、ないかな」
だけど、今の私には夜空がいる。
私は勇気を振り絞り、教室の扉に手を掛けた。そして…
「扉を開く呪文なんてないけど?開けるなら手で直ぐに開くよ?」
後ろから声を掛けてきたのは霞ヶ関さんだった。
「何よ?なんかあたしの顔に付いてる?」
「……」
やっぱり苦手だ、この人。
「入らないなら…」
でも、負けない!!
「まつ毛…」
「何?」
「左右違うよ…?」
言ってしまった…、これで私は霞ヶ関さんと敵同士になってしまった。友達を作るはずが、早くも敵を作ってしまうとは、さすが私。
「嘘ぉ!?」
霞ヶ関さんは鏡を取り出した。
「うわぁ、マジだぁ!!さんきゅ、これで笑い者にならずにすんだわぁ!!トイレ行かなきゃ!!…えっと、名前何だっけ?」
「綵…」
「綵ね!!覚えた!!あたしは紗菜、宜しくっ!この前はごめんね、あんた面白いわっ!!」
そう言うと沙菜は、走ってトイレに向かって行った。
ー友達出来たね。
「うぅん、これからだよ。でも、あの子と仲良くなれそうな気がする。どこか…」
ーくぅ姉さんみたい?
「フフッ、そうかも」
私の学校生活はこれからなんだ、まだ始まったばかり。だから、あの桜が心配しないように、私は学校生活を過ごすんだ。
おしまい