こんにちは、絶學無憂です。

 

スポーツで、練習では調子が良いけど、試合では全然だめだっていう経験ありませんか?今日はこのテーマについて書いてみます。

 

イギリスは芝のコートでテニスができる(しかもタダ同然)ので文字通りの草テニス(芝=草だから)でダブルスを楽しんでいます。

 

まだ実質数ヶ月の初心者なのですが、はじめてから比較的すぐにはっきりしてきたのは、練習だとかなりいいショットが打てるのに、試合中はへなちょこである、ということです。

 

自分でも別人のようだと感じますし、人からも試合中は違いますね(下手だね)、と言われます。最初はフォアハンドにすごくさを感じていました。練習だと思いっきり打てていたのが、試合だと30%くらいの感じになる。

 

その後、サーブが下手すぎるのをなんとかしようと猛練習を始めて、最近では練習では、それほど脅威的とは言えないまでも、まあまあな勢いのサーブが割と入ります。ところが、試合ではダブルフォルトの山を相変わらず築いています。

 

これはゴール設定の問題なんだろう、あるいは他のプレーヤーから受けるプレッシャーのせいなんだろう、いずれタッチフォーヘルスでゴール設定の調整をするかな、というように思っていたんですが、ちょっと違うのかも?という事件がありました。

 

 

現在、草テニスの試合では、ストロークはすっかり鳴りを潜めて一時はできていたようなトップスピンのフルスイングがほとんどできず、サーブはダブルフォルトの山を築き、という感じで、相当なへなちょこなのですが、ネット際で球をボレーする(ポーチ poach といいます)のだけはかなり成功していて、これでかなりポイントを取っています。相手からは嫌がられ、味方からは称賛されています。

 

ふと、コート上で、どうしてストロークやサーブはこれだけへぼいのに、ネット際のボレーだけはそこそこ成功するのだろう?と不思議に思いました。

 

その日は、印象的なプレーが一つありました。ネット際に張り付いていると、そこそこのスピードの球が私の頭の真上を通過しようとするのが見えました。そのとき、私は見上げて打点を確認することも無く、顔は正面を向いたままで、ボールを見ずに腕だけ上に伸ばしました。すると、見事にラケットがボールを捕まえて落とし、相手側のコートのネット際に「ボテ」と転がして、ポイントを取りました。いわゆるノールック・ショットですよ!!!

 

なんでこういうことができるんだろう、と思いました。(他のプレーヤーが「どうやってそんなのやるんだよ」と実際聞いてきたので)

 

実はネット際に立つときは、ボールが来るのを見てから打点まで時間が殆どないので、体の準備だけはしていますが、どうせ考えたって間に合わない、と一切の判断を諦めているんです。来たらなるようになるさ、というわけです。

 

ネット際のポーチが結構成功しているのは、実はこのマインドセット(心構え)が秘密ではないか、と思いました。

 

グラウンドストロークでは、ボールが来るのが見えて、一回バウンドしてからそれに合わせて打つので、かなり時間に余裕があります。このボールを待つ間にどうやら余計なことをしているのだなと。

 

サーブを打つ時も、トスを上げてから打つまでに一呼吸あります。この待つ間に余計なことをしているために体がグラグラになっているのだなと。

 

そのように思えてきました。

 

ハーバード大学卒のテニス・コーチ、ティモシー・ギャルウェイの書いた「インナーゲーム」という有名な本があります。

 

 

詳しくはWikipediaの記事を見て頂ければと思いますが、テニスをやる時に、頭の中には二人の「私」がいて、一人目(セルフ1)は常に命令口調で盛んに指示を出しては結果を批判しており、二人目(セルフ2)は黙々と実際の運動を実行しているのだ、という話です。実際のテニスの試合とは別に、頭の中でもうひとつセルフ1対セルフ2の戦いが繰り広げられているので「インナーゲーム(内なる試合)」というわけです。

 

ギャルウェイの言うのは、集中力によってセルフ1を沈静化することに成功すれば、セルフ2は自動的にもっともふさわしい動きを見つけ出して実現してくれる、という主張です。細かい、グリップがどうの、肘がどうの、というテニスコーチの指示は、セルフ1を強化してしまうので効果がなく、むしろ集中力を高めるようにさえすれば(例、飛んでくるボールの縫い目を見る)セルフ2が勝手に答えを見つけるのだと。

 

私はこれを10年も前に知って他の分野では多大な影響を受けてきたのですが、いざテニスを始めたときには、どうも「インナーゲーム」で言われているほど単純なものでもないな、と思ってしまいました。ストロークにしても、サーブにしても非常に細かいフォームの違いがパフォーマンスの違いを生みます。初期の頃にはとくに、基本的なアドバイスをYouTubeで見つけるたびに良くなっていくように感じたので「インナーゲーム」の主張とは合わないように感じて、あまりこれについて追求しなくなりました。

 

ところがです。

 

私がネット際で採用しているマインドセット、どうせ時間がないのだから、一切の判断をやめる、というのは、グリップだの、テイクバックだの、面の向きだの、ということを忘れるということであり、要はアホになって動いているだけです。それが成功率が高いわけです。

 

一方で、ストロークやサーブでは、テイクバックではここをこうして、その後はここをこうして、あそこをこうして、というようなものすごい数のコマンドが、ボールを待つ間に頭の中をよぎります。これが「頭の中の独り言」と呼べるほど、明瞭に言語化されていないのでセルフ1だ、というように感じていなかったのですが、こうやって無数の命令を頭ごなしに出しているというのはセルフ1の働きそのものです。

 

そこで。

 

試みとして、ストロークでボールが来るのが見えたら、心のなかで「ワーワーワー」と叫んで、「肘をこうして、膝をこうして」といった類のコマンドを考えることが出来ないように、思考を妨害(ジャミング)することにしました。

 

「ワーワーワー」と心の中で叫んで、いわばバカになってから、ボールを打つことにしたわけです。バカになっても、ちゃんと私の体(セルフ2)はボールを打ってくれるはずだ、という信頼が必要でした

 

すると、なんということでしょう。試合中では、勢いのない死んだ球に対して、それまでは失敗しないようにという意識が強くて(よく失敗するので)、かなり制限されたゆるーい打ち方しかできていなかったのですが、はるかに速い球をコート深く打ち返せるようになりました。

 

サーブについても同様に、それまではダブルフォルトの山を築いており、しかも非常にのろくさいサーブしか打てていなかったのですが、トスを上げてから心のなかで「ワーワーワー」と叫んで、「肩をこうして、肘をこうして、ラケット面がこうで」というコマンドを妨害したところ、そこそこの確率で2倍以上はるかに勢いのあるサーブが打てるようになりました。

 

どうやっても練習時のように打てない、と思っていたのが、「ワーワーワー」でできてしまいました。 

 

こうやって思考を妨害したら、ミスがゼロになったかというとそんなことはありません。ミスも起こすのですが、セルフ2への優れた情報提供が行われた、と思えば、それほど一喜一憂しなくてもよい、と思えました。

 

ずっと、サーブが打てない、ストロークが打てないのは、他人がいることによるプレッシャーなのだ、つまり他人のせいなのだ、と思っていたのですが、むしろ自分自身でボールを待つ間に呪いをかけて打てないようにしていたのだな、という気づきがありました。

 

これは所詮、一回の練習での体験なので、今後もこの通りかどうかはまだわかりませんが、ひょっとするとへなちょこプレーヤー脱出のための大きな転換点となる日だったかもしれません。

 

大げさかな。