女の中にいる他人

★★★★

1966年1月25日公開/モノクロシネスコ/102分/東宝/

製作:藤本真澄、金子正且 原作:エドワード・アタイヤ 『細い線』

脚本:井手俊郎 監督:成瀬巳喜男 撮影:福沢康道 音楽:林光

出演-小林桂樹・新珠三千代・三橋達也・若林映子・長岡輝子・加東大介・黒沢年男・稲葉義男・十朱久雄・藤木悠・中北千枝子・伊藤久哉・一の宮あつ子・二瓶正也

 

前作「乱れる」からちょうど1年後に公開された成瀬監督作。

「女性映画の巨匠」として有名な成瀬巳喜男にしては珍しく、男性・小林桂樹を主役に据えた社会派作品。

小林は、当時森繁の「社長シリーズ」でコミカルな秘書役を演じていたのとはガラリと趣向を変えた殺人犯を演ずる。また同じ「社長シリーズ」で芸者やマダムを華麗に演じていた新珠三千代も、苦悩するその妻を演じ、ラストには殺人を犯すというシビアーな役どころとなっている。

 

小林は、友人である三橋達也の妻・若林映子を、いわゆる快楽殺人で殺してしまう。セックス中に首を絞め、窒息死寸前での快楽を求める「営み」は、この当時でもちゃんと存在していたのが驚きだ。そんな昔から首絞めセックスは一般的だったようだ。

 

Wikiによると「脳が酸素を奪われるとき、低酸素症と呼ばれる明確な半幻覚状態を引き起こす。それはオーガズムと結合されて、そのラッシュはコカインと同程度に強力であり、非常に強い習慣性がある。」と解説されている。

 

最古の記録は1791年に作曲家のフランツ・コツワラが窒息プレイによる事故で死亡したケースで、有名な「阿部定事件」(1936年)も、恋人である石田吉蔵を窒息プレイの末に絞殺し、彼の陰茎および睾丸を切除して数日間持ち歩いたとされる。

 

友人の人妻の乞いに抗えず、殺人犯となった小林は、自責の念に耐えられず、人妻の夫・三橋に全てを告白する。しかし三橋は、自分もその首絞めセックスを妻から強要されていたらしく、小林へは忘れるよう諭し、警察にも知らせない。

 

さらに妻・新珠にも告白するが、新珠には、子供二人を殺人犯の子にするつもりなの、もう忘れるのが一番なのよ、と言われてしまう。

 

ラストに小林は「もう耐えられない、明日の朝、自首する」と新珠に告げる。ずっと家族の幸せを願ってきた新珠の心のなかに「他人」が現出する。

・・・夫は他人で、子供は血縁・・・。

新珠は夫の寝酒のウイスキーの中に毒薬を混入するのだった・・・。

 

女性映画の巨匠として数々の女性を主人公にした映画を撮ってきた成瀬。一年前の「乱れる」からこの趣向が少し変わってきたように思える。

 

この後は「ひき逃げ」を監督している。

これは上流階級の司葉子が、下層の高峰秀子の子供を運転中に轢き殺してしまうのが発端。成瀬の映画にはそれまで「殺人」とか「事故死」とかほとんどなかったのだが、自身の死の直前に撮られた3本の映画には全て「死」が付きまとう。

やがて司は身代わりを立て罪を逃れる。高峰は運転していたのは司だったと見抜き、自らお手伝いとして司の家に乗り込んでいく・・・。

 

そして、翌年に公開された司葉子・加山雄三主演「乱れ雲」が、成瀬の遺作となる。

 

以下Wikiより転載

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『女の中にいる他人』は、1966年に公開された日本のサスペンス映画。製作、配給は東宝。モノクロ、東宝スコープ。

概要
レバノン系イギリス人作家、エドワード・アタイヤのミステリ小説『細い線』(The Thin Line)を井手俊郎が脚色し、成瀬巳喜男が監督した心理サスペンス映画。成瀬の遺作3部作のひとつ。なお、同小説は1971年にクロード・シャブロルも Juste avant la nuit の題で映画化している。
日本では1981年と2017年に本作をリメイクしたテレビドラマが放送されている。