『必殺仕置人』
1973年4月21日から10月13日まで、毎週土曜日 22:00 - 22:55に、
朝日放送と松竹(京都映画撮影所、現・松竹撮影所)の共同製作で、
TBSテレビ系で放送された時代劇。全26話。主演は山﨑努。
概要
必殺シリーズの第2作で、中村主水シリーズの第1作である。
本作は前作『必殺仕掛人』(及び原作の『仕掛人・藤枝梅安』)の設定を踏まえつつも原作を持たないオリジナルでシナリオ展開や登場人物の配置など、以後の必殺シリーズの原型となっている。同シリーズの顔となる中村主水が初登場した作品だが、本作品における中心人物は念仏の鉄で、主水が登場しない回がある。
本作は『必殺仕掛人』と異なり、元締は存在せず、自らを仕置人と称するメンバーの合議の上で依頼を受けた弱者の晴らせぬ恨みを晴らす。元来「仕置人」という裏稼業があった訳ではなく、主人公たちがある事件をきっかけに結成したもので、主人公たち以外の仕置人は登場しない。その為、プロの暗殺者という意識が薄く、第3話では奉行所に気取られ、鉄と錠が捕まってしまった。
「仕置」は他のシリーズとは異なり、殺害よりも悪人への制裁に重きが置かれており、必ずしも悪人を殺すとは限らなかった。殺すとしても単純に殺すのではなく、被害者の痛みや苦しみを味わわせる為、むごたらしく殺すということがあった。
シリーズの原型となった部分はベテラン俳優(主人公・山崎努/藤田まこと)、二枚目俳優(正義漢に溢れる青年役・沖雅也)、殺しには参加しないサポート役(姉御肌、勝気な性格の女性・野川由美子)などの人物配置の継承が挙げられる。本作の主演俳優たちはその後も必殺シリーズに関わることが多く、同名の役に限らず出演した。後にシリーズの名物となっていく殺しのシーンの映像における特殊演出効果を使用した先駆けであり、病院のレントゲン撮影を用いた念仏の鉄の「骨外し」は視聴者の話題を呼んだ。
本作の人気を受けて、主水は次作『助け人走る』のゲスト出演を経て、『暗闇仕留人』におきん、半次と共に再登場した。さらに鉄と主水を再登場させた第10作『新・必殺仕置人』を制作した。
レギュラー出演
山﨑努・沖雅也
野川由美子・津坂匡章
高松英郎・白木万理・菅井きん
藤田まこと
ナレーション - 芥川隆行
音楽 - 平尾昌晃 主題歌三井由美子「やがて愛の日が」
作詞:茜まさお、作曲:平尾昌晃、編曲:竜崎孝路
制作 - 山内久司、仲川利久(朝日放送)、櫻井洋三(松竹)
制作協力 - 京都映画撮影所(現・松竹撮影所)
制作 - 朝日放送、松竹株式会社
第1話の冒頭は大雨で、野上龍雄の脚本によれば、当初は「強風ーー黄塵が濛々と画面を覆う~」とあり、必殺シリーズの原点であるマカロニウエスタンの様な画面であったが、カメラマン石原興は勝新太郎 主演の映画『続悪名』(田中徳三監督)にヒントを得て、大雨に変更となった。
本作は脚本に佐々木守が参加する予定だったが未参加となった。
前作の『必殺仕掛人』に参加した深作欣二は本作の企画会議に参加しており、プロデューサーの山内久司が提案して反対意見が多かった藤田まことの起用に賛成した。その上で本作に演出参加の予定があったが映画『仁義なき戦い』の撮影と重なり、未参加となった。
日本映画史・時代劇研究家の春日太一は著書『時代劇ベスト100 』(光文社新書) で「これだけは押さえておきたい40本」として、本作を『必殺仕掛人』と共に入れた。
話数 | サブタイトル | 脚本 | 監督 | 撮影 | ゲスト | 星取表 |
1 | いのちを売ってさらし首 | 野上龍雄 | 貞永方久 | 石原興 | 今出川西紀 大滝秀治 菅貫太郎 |
★★★ ★★ |
寸評 | シリーズ第2作。棺桶屋の沖雅也がムチャかっこいい。剃毛した骨接の山崎努も、キャンキャン姉御の野川由美子、そして前作と同じ役どころの津坂匡章も適役。すでにムコ殿と尻に敷かれている同心役の藤田まことも含めて、役者それぞれに合わせたキャラを作り上げたプロデュサー山内久司の勝利。 | |||||
2 | 牢屋でのこす血のねがい | 國弘威雄 貞永方久 |
貞永方久 | 石原興 | 原良子 松下達夫 |
★★ ★ |
寸評 | 父を自殺に追い込み一家離散となった、原良子の連続殺人の動機が弱い。それでも山崎努との愛欲シーンやら、ムコ殿いじめの菅井きん・白木万理のコンビやら、藤田まことの家庭では波風立てない生き方も含めて面白い。 | |||||
3 | はみだし者に情なし | 安倍徹郎 | 松本明 | 石原興 | 入川保則 常田富士男 山本耕一 茶川一郎 |
★★ ★★ |
寸評 | 家老のローソクショーに加担する同心を殺る回。乞食の常田富士男、オカマの芥川一郎や医師の山本耕一など助演陣が充実している。ラストのふんどしの仮面姿での晒し者で終わるのは欲求不満がたまる。 | |||||
4 | 人間のクズやお払い | 野上龍雄 | 三隅研次 | 石原興 | 黒沢年男 林隆三 江幡高志 五味龍太郎 |
★★★ ★★ |
寸評 | 黒沢年男、林隆三という豪華ゲスト陣。黒沢の凄みある無法者演技が光る。林隆三が腕を切り落とされた顛末を聞いて怖気づく仕置人たちが?なのだが、ラストは山崎努に腕を真後ろに捻られ無様に死んでいく姿が良かった。 | |||||
5 | 仏の首にナワかけろ | 山田隆之 | 大熊邦也 | 中村富哉 | 山田吾一 藤田弓子 遠藤辰雄 正司照江 |
★★ ★★ |
寸評 | 今回も豪華なゲスト陣。善人山田吾一が実は犬畜生だったとのお話。藤田弓子は痩せて可愛く、正司敏江は色っぽい。ラスト近くの首吊りロープのルーレットは画面的には面白いが、それを仕掛ける意味がわからない。撮影中村富哉の、影絵的な照明が面白い。 | |||||
6 | 塀に書かれた恨み文字 | 國弘威雄 | 松野宏軌 | 中村富哉 | 中尾彬 佐々木功 鈴木瑞穂 |
★★ ★★ |
寸評 | 夜毎、刀の斬れ具合を確かめるために辻斬りをする変態藩主の中尾彬。義憤に駆られた仕置人たちが結束して痛めつける回。藤田まこと、沖雅也、山崎努等のそれぞれの役割が明確に描かれ面白い。 | |||||
7 | 閉じたまなこに深い渕 | 山田隆之 | 工藤栄一 | 石原興 | 神田隆 亀石征一郎 志乃原良子 |
★★ ★ |
寸評 | 東映の工藤栄一監督作だが今ひとつ。検校役の神田隆は適役で、鯉の鱗を目にいれるアイデアは面白いのだが、亀石征一郎との主従関係がよく分からなかった。ただ相変わらずの、藤田まことの嫁姑イジメが、一服の箸休めとなっていて安心して見られる。 | |||||
8 | 力をかわす露の草 | 猪又憲吾 | 松野宏軌 | 石原興 | 安田道代 柳生博 大前均 |
★★ ★ |
寸評 | 藩主の妻を演ずる安田道代の悪女ぶりがいい。用心棒である巨大男・大前均には、沖雅也も山崎努も全く手が出せない。その分、ラストの安田を仕留める沖や、大前を殺す山崎の姿は爽快感がある。ただ腰元を演ずる女優の区別がつかなかった。 | |||||
9 | 利用する奴される奴 | 安倍徹郎 | 松本明 | 中村富哉 | 津川雅彦 磯野洋子 日高澄子 |
★★ ★★ |
寸評 | 津川雅彦が女郎のブローカー役を好演。目鼻整った顔と流し目で騙し続け、不要となった年増女郎を首吊りで殺したり、地下牢へ突き落とす残忍性故に仕置されるが、惚れた女は山崎努を津川と勘違いして死んでいく。 | |||||
10 | ぬの地ぬす人ぬれば色 | 國弘威雄 | 松野宏軌 | 石原興 | 鮎川いづみ 北林早苗 上野山功一 正司歌江 |
★★ ★★ |
寸評 | 野川由美子が大奥に潜入して側室の横暴を暴いていく。側室・北林早苗の鬼女ぶりが凄まじい。最後には仕置されて溜飲が下がった。 | |||||
11 | 流刑のかげに仕掛あり | 浅間虹児 | 國原俊明 | 石原興 | 今井健二 穂積隆信 時美沙 |
★★ ★ |
寸評 | ストーリーがどうも明確でなく分かりづらいが、今井健二の凄みのある悪役ぶりはさすが。クライマックス、女湯での山崎努と沖雅也の仕置き振りもケレン味たっぷりで見応えがある。 | |||||
12 | 女ひとりの地獄旅 | 松田司 | 工藤栄一 | 小辻昭三 | 佐野厚子 前田吟 五味龍太郎 |
★★ ★★ |
寸評 | 脚本・松田司はプロデューサー山内久司のペンネーム。難破して助けられた中国の焼き物職人の一家を皆殺しにした大名・前田吟。生き延びて夜鷹になった佐野厚子と津坂匡章の恋情を絡め、参勤交代中に仕置することとなる。ラストの、刃を持つ佐野に前田を強引に押し付ける所が素晴らしい。この番組のテーマ、弱者の代わりに強者を仕置してやる、を見事に体現している。 | |||||
13 | 悪いやつほどよく見える | 浅間虹児 | 松野宏軌 | 中村富哉 | 林ゆたか 高樹蓉子 渥美国泰 笠原玲子 |
★★ ★★ |
寸評 | 藩主・渥美国泰の暴挙に反旗を翻し、娘を誘拐する林ゆたかが好演。それに感情移入する沖雅也も良い。瓦版屋の津坂匡章の設定が生きている。 | |||||
14 | 賭けた命のかわら版 | 三芳加也 | 工藤栄一 | 小辻昭三 | 石山律 神鳥ひろ子 汐路章 |
★★ ★ |
寸評 | 当時の「新聞」である瓦版に、現代の「ジャーナリズム」的な発想を持ってきた内容。久し振りの汐路章が良かった。 | |||||
15 | 夜がキバむく一つ宿 | 浅間虹児 | 蔵原惟繕 | 石原興 | 殿山泰司 堺左千夫 伊佐山ひろ子 牧冬吉 |
★★ ★ |
寸評 | 「南極物語」「キタキツネ物語」などの蔵原惟繕監督作。豪雨の夜、雨宿りする人物達の一晩の物語という意欲的な構成だが、伊佐山ひろ子の安易な女殺し屋とか説得力に欠ける内容。牧冬吉とか出ているが余り生かされてはいない。毒を盛った殿山泰司を罵倒する沖雅也がかっこよかった。 | |||||
16 | 大悪党のニセ涙 | 國弘威雄 | 工藤栄一 | 小辻昭三 | 森次浩司 津坂浩史 京春上 |
★★ ★ |
寸評 | 牢屋に火災が迫った時に一時的に囚人を開放する「切り放ち」を題材としている。それ自体はとても面白いのだが、牢名主である高松英郎が俺の面子を潰したと仕置を依頼、森次晃嗣が遅れたにせよ戻って来たのに殺してしまう顛末がいただけない。もう少し説得力ある理由にしないと白けてしまう。 | |||||
17 | 恋情すてて死の願い | 桜井康裕 | 長谷和夫 | 石原興 | 長谷川澄子 中田喜子 高峰圭二 |
★★ ★ |
寸評 | 油屋が利益を独り占めのために同心と結託、自殺に追い込まれた父親の仇を打とうとする姉妹の物語。沖雅也の活躍が眩しい。 | |||||
18 | 備えはできたいざ仕置 | 勝目貴久 | 松野宏軌 | 中村富哉 | 田口計 中井啓輔 安倍玉絵 |
★★ |
寸評 | 勘定奉行の悪行を暴く話。鬼面の奉行に傷つけられるシーンが凡庸で面白くない。 | |||||
19 | 罪も憎んで人憎む | 國弘威雄 | 蔵原惟繕 | 石原興 | 川口恒 伊丹十三 加藤武 今村京子 |
★★ |
寸評 | 佐渡金山の採掘からの新金貨絡みのお話。老中・伊丹十三と金座商人・加藤武というキャスティングだが活かしきれておらずつまらない。上半身裸の沖雅也の肉体が眩しい。 | |||||
20 | 狙う女を暗が裂く | 鈴木安 | 田中徳三 | 中村富哉 | 夏八木勲 真屋順子 沢村宗之助 |
★★ ★★ |
寸評 | 大映のベテラン田中徳三監督作。ゲストの夏八木勲、真屋順子ともに丁寧に演出されていて、物語もわかりやすく面白い。野川由美子がキレイだった。 | |||||
21 | 生木をさかれ生地獄 | 鴨井達比古 | 長谷和夫 | 石原興 | 柴田侊彦 西山恵子 浜田寅彦 西沢利明 |
★★ ★★ |
寸評 | 佐渡の金山坑内での一仕事。悪役二人が好演。白木万理が佐渡まで同行するのが意味不明。藤田まことの、入り婿姑話を強調する意図があったのだろうが。 | |||||
22 | 楽あれば苦あり親はなし | 猪又憲吾 | 松本明 | 石原興 | 伊藤雄之助 朝丘雪路 |
★★★ ★★ |
寸評 | 傑作。盗賊・伊藤雄之助から逃れてきた子持ちの朝丘雪路。あなたの子供よ、と迫らる藤田まことと自分にも心当たりのある山崎努。子供好きだが逆上して殺した前科の有る伊藤のキャラが冴える。ラストの実は山崎の子供だったとのオチも含めて非常に面白かった。石原興の撮影も良いが照明にもっと陰影があれば素晴らしかった。 | |||||
23 | 無理を通して殺された | 松田司 | 松野宏軌 | 中村富哉 | 村井国夫 野口ふみえ 有馬昌彦 |
★★ ★★ |
寸評 | 八丁堀の利権を、牢名主・高松英郎を殺して村井國夫が手に入れようとする話。うだつの上がらない藤田まことの設定が生かされて面白い。ラストの葬式帰りの白木万理とのやり取りも小気味よい。 | |||||
24 | 疑う愛に迫る魔手 | 松川誠 | 長谷和夫 | 石原興 | 美川陽一郎 瞳順子 加藤和夫 |
★ |
寸評 | 昔の盗賊とその娘の話。娘役・瞳順子の一人芝居自己陶酔演技が古臭くて耐えられなかった。立て籠もり的イデオロギー臭も臭かった。 | |||||
25 | 能なしカラス爪をトグ | 鴨井達比古 | 工藤栄一 | 小辻昭三 | 島かおり 入江正徳 浅茅しのぶ |
★★ |
寸評 | ラスト2本は工藤栄一監督作。難関の塾に入った姉弟の悲劇。途中まで手慣れた演出と筋運びでとても面白いのだが、悪漢母と息子への仕置が殺さないの生ぬるくて溜飲が下がらなかった。 | |||||
26 | お江戸華町未練なし | 梅林喜久生 | 工藤栄一 | 小辻昭三 | 山本麟一 原田あけみ 長谷川弘 |
★★ ★★ |
寸評 | 疫病蔓延に乗じて金儲けする奉行と仕置人たちとの戦いを描く最終話。藤田まことの切腹工作による仕置が面白く、最後の雨の中での首はね現場での仕置と救出も良い。ラスト、それぞれに別れていく仕置人たちの描写も印象的。 |