放浪記

★★★★

1962年9月29日/モノクロシネスコ/123分/宝塚映画製作・東宝配給/

製作 藤本真澄、成瀬巳喜男、寺本忠弘 原作 林芙美子、菊田一夫の戯曲より

脚本 井手俊郎、田中澄江 監督 成瀬巳喜男

撮影 安本淳 音楽:古関裕而 美術:中古智

出演-高峰秀子・宝田明・草笛光子・加東大介・伊藤雄之助・仲谷昇・田中絹代・小林桂樹・織田政雄・文野朋子・多々良純・菅井きん・加藤武・中北千枝子・伊藤久哉

 

前作「女の座」から9ヶ月後に公開された成瀬の新作。

成瀬は林芙美子の絶筆『めし』(1951年・原節子)を皮切りに、『稲妻』(1952年・高峰秀子)、『妻』(1953年・高峰秀子)、『晩菊』(1954年・杉村春子)、『浮雲』(1955年・高峰秀子)と林原作物を撮り、最後がこの『放浪記』だった。

「放浪記」は本作公開の前年に森光子主演で芸術座での舞台公演が始まり大ヒット、森光子のでんぐり返りが有名だが、映画にはそのシーンはない。
この作品の製作が決まったのは、舞台の大成功がきっかけであったのは間違いないのではないだろうか。そしてプロデューサーに成瀬自身が担当している所から、かなり入れ込んで撮った作品だと思われる。

 

この映画の高峰秀子が素晴らしい。

「あらくれ」のキャラと少し似ているが、映画内で笑顔はほとんど見せない。眉尻の下がったメイクを施し、顔は常に少し傾き、猫背なその姿勢は、一癖も二癖もある女性像を見事に体現している。言いたい放題の放言のあと、舌をペロリと出す可愛さ。この演技プランは成瀬の指導なのか、高峰自身の考案なのか興味深い。

 

林芙美子は大作家だが、すでに没している所から自由に創作したもの思われる。

林のやぶれかぶれ人生は壮絶にして喜劇的でもある。

 

高峰が惚れるイケメン男たち。仲谷昇や宝田明の、文学に苦しみ、我が儘なその姿は母性を刺激するらしく、すぐに結婚してしまう面食い・高峰の浅はかさが目立つ。それがまた愛おしく応援したくなってしまう。

 

エピローグで再登場する、ずっと高峰を見守り続けた加東大介の優しさ。母である田中絹代に高価な羽織物を着させることが夢だった高峰との会話。2日間徹夜している売れっ子作家になった高峰に、そっと毛布をかけてやる小林桂樹。

机に突っ伏して眠る高峰の姿は、この後の林芙美子自身の「死」を予感させる、良いシークエンスだった。

 

そして大ラス、父・織田政雄と母・田中絹代と三人で、行商の旅を続けるラストカットには涙した。

 

以下Wikiより転載

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高峰秀子主演:成瀬巳喜男監督により、宝塚映画(現・宝塚映像)製作・東宝配給で、1962年9月29日に公開。東宝創立30周年記念映画として公開された。

小説と菊田一夫の戯曲『放浪記』を底本とする。物静かで職人肌の監督だった成瀬は、午前中の撮影では絶対に女優のアップを撮らなかったという。寝起きのむくみが残っているからで、女優に喜ばれた。さりげなく、気づかいをする感性が備わっていたからこそ、愛憎に揺れ動く女心の陰影をしっとりと描写して、女性映画の名匠と呼ばれた。

成瀬の演出は林芙美子との相性がよく、林の絶筆『めし』を皮切りに、『稲妻』『妻』『晩菊』『浮雲』と続けざまに撮り、最後が『放浪記』だった。

菊田一夫の戯曲を底本としているため、力んだ高峰の演技から、森光子への対抗心がありありと伝わる。

同時上映
『新・狐と狸』
原作:熊王徳平/脚本:菊島隆三/監督:松林宗恵/

主演:森繁久彌/宝塚映画作品