「サイコ」(Psycho

★★★★

1960年6月16日米国公開/モノクロビスタ/109分/パラマウント/

製作    アルフレッド・ヒッチコック 原作    ロバート・ブロック

脚本    ジョセフ・ステファノ 監督    アルフレッド・ヒッチコック

撮影    ジョン・L・ラッセル 音楽    バーナード・ハーマン

編集    ジョージ・トマシーニ タイトル ソウル・バス

出演-アンソニー・パーキンス、ジャネット・リー、ジョン・ギャヴィン、マーティン・バルサム、、ヴェラ・マイルズ、ジョン・マッキンタイア

 

前作「北北西に進路を取れ」から10ヶ月後に公開されたヒッチコック監督作。

スリラー映画の傑作と言われ、1992年に「文化的、歴史的、美学的に重要な作品」としてアメリカ国立フィルム登録簿に登録された。

この時期のヒッチコックは監督として最高潮の時代。

「めまい」(1958)、「北北西に進路を取れ」(1959)、「サイコ」(1960)、「鳥」(1963)と、映画史に残る傑作を次々と発表している。

 

前作に続いてのソウル・バスのタイトルが素晴らしい。そして同じコンビの、バーナード・ハーマンの音楽も、前作以上に強烈に印象を残す。すべてはアンソニー・パーキンスが振り下ろす、鋭利なナイフのイメージに結びついている。

 

もう何回も見ているので先の展開は読めてしまうが、初見で見た場合のジャネット・リー惨殺シーンは、驚愕だろう。このシーンをカラーで撮らなかったヒッチコックの上品さが良い。それは母親の邸宅の、豪華な室内装飾と同じで、気位高い雰囲気を映画に醸し出している。

 

探偵のマーティン・バルサムが、邸宅の二階へゆっくり登っていくカット。そしてナイフが振り下ろされ、階下へ落ちていくカットの撮影技法。さらに、母親をなだめて、地下室と運び出す、見事なクレーンカット。この映画の階段を撮るシーンの撮影技法の見事さは、忘れがたい。

 

ただ犯人が分かった後の、精神分析医のシーン。謎解きは必要だがあまりにも長い。ここのシーンのしたり顔で説明を続ける役者の演技が、個人的にとても不快だった。もう少しあやふやな、精神科医でもよく分からない戸惑いなどもあってよかったのではと思う。

 

ヒッチコックの次作「鳥」は、この手の説明が一切ない。もしかしたら、ヒッチコック自身もこの長台詞のラストは失敗だったと考えたのかもしれない。

 

そしてラスト。毛布をかぶって座るアンソニー・パーキンスの印象的なカット。ラストカットの、沼から引き上げられる車にOLする寸前、アンソニーの顔と、母親の骸骨の顔が、一瞬ダブる。最後の最後に、それを発見してしまった観客は、背筋が凍っただろう。

 

以下Wiliより転載

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『サイコ』(Psycho)は、1960年のアメリカ合衆国のサイコスリラー映画。監督はアルフレッド・ヒッチコック、出演はアンソニー・パーキンスとジャネット・リーなど。全編モノクローム映像。音楽はバーナード・ハーマン。

概要
ヒッチコック監督の前作『北北西に進路を取れ』に引き続き、タイトルデザインをソール・バスが担当。脚本はジョセフ・ステファノ、作家ロバート・ブロックがエド・ゲインの犯罪にヒントを得て執筆した小説『サイコ』が原作。撮影はユニバーサル映画のスタジオ。配給はパラマウント映画。
1992年に「文化的、歴史的、美学的に重要な作品」としてアメリカ国立フィルム登録簿に登録された。

受賞歴
第18回ゴールデングローブ賞 助演女優賞:ジャネット・リー
エドガー賞 映画脚本部門 1961年最優秀賞:ジョセフ・ステファノ
 

ノミネート
第33回アカデミー賞(1960年) 4部門
監督賞:アルフレッド・ヒッチコック
助演女優賞:ジャネット・リー
撮影賞(白黒部門):ジョン・L・ラッセル
美術賞(白黒部門):ジョセフ・ハーレイ、ロバート・クラットワーシー、ジョージ・ミロ

全米監督協会賞:アルフレッド・ヒッチコック


製作エピソード
ヒッチコックは、原作の映画化権をわずか9,000ドルで匿名で買い取った。また事前に内容が知られるのを防ぐため、スタッフは市場に出回っていた原作を可能な限り買い占めた。もっともロバート・ブロックの原作は既に広く読まれていて、当時すでに日本語訳も出ていた。ヒッチコックが原作に惹かれた個所は、「シャワー中の美女がナイフで斬殺される唐突さ」の1点のみであった。
ベイツ・モーテルのデザインモデルは、カリフォルニア・ゴシック様式で建てられた個人住宅で、21世紀の現在でも現存している。ヒッチコックは画家のエドワード・ホッパーが描いた『線路脇の家』を観て、題材となった住宅を特定して、モデルに使用した。
ベイツ・モーテルは、アンソニー・パーキンスが大きく見えるよう、一般的な大きさより少し小さめに作った。
シャワー・シーンで流れたのは、赤くないチョコレートソースだった。
寝室のジャネット・リーを覗くアンソニー・パーキンスの目の大写しでは、眼の検診で使用する医学用ライトが用いられた。
殺された人間が頭から階段を転がり落ちるカットでは、俳優と階段を別に撮影し合成した。
ヒッチコックは、マリオンが事務所に出勤した際、事務所の外でウェスタンハットをかぶっている通行人としてカメオ出演した。


評価
映画の前半では、マリオンの犯した横領をめぐる心理的葛藤を描くクライム・サスペンスの様相を呈し、「車を購入する際の不自然な挙動」や「それを不審に思う警官」など、不安定な心理状態と緊迫感が丁寧に演出される。ところが、彼女は何の前ぶれもなく刺殺される。モノクロでも凄惨な映像と音楽は、後に多くの他の映画作品において模倣やパロディーが繰り返された。細かなカットについて、タイトル・シーケンスも手がけたソール・バスは、「自分が絵コンテを描いた」と主張している。

後半では、マリオンの妹と探偵らによるマリオン探しが主眼になり、謎とサスペンスは次第にベイツ・モーテルへと集中していく。探偵殺害シーンでは“カメラが人物の背後からはるか頭上へ1カットで急速に移動する”など、多くの映像テクニックが駆使されている。最後にマザーコンプレックスのノーマンがかばう母親の正体が明らかになり、物語は「この世にいないはずの人物によるモノローグ」という大胆かつ実験的な終結を迎える。

本作は同時期に公開された映画『血を吸うカメラ』と、異常殺人というモチーフの重なりや、その主題へのアプローチの差異などで比較されることもある。

公開当時のキネマ旬報ベスト10では35位だった。

備考
ヒッチコック自身が本編の部分は使わず、舞台を案内する予告編があった。DVDなどの付録になっていることがあるが、北島明弘『クラシック名画のトリビア的楽しみ方』(近代映画社)には「前代未聞の驚くべき予告編」という項目によれば、「ヒッチコックがカーテンを開けると叫ぶ女性は、リーがいなかったのでライラを演じたヴェラ・マイルズが代演している」という。


公開当時、ヒッチコックの「途中入場の禁止」「ストーリーの口外禁止」を観客に訴える録音メッセージが劇場で流された。途中入場を禁止したのは、途中入場した観客が「主役(ジャネット・リー)が出演していない」と騒ぐ可能性があったためである。
声ばかりが聞こえ、最後に少しだけ顔を見せる「母親」の名前はノーマ。ライラに襲い掛かる場面で「私がノーマ・ベイツ」と名乗っているが日本版ビデオでは字幕が出ないため判りにくい。声はヴァージニア・グレッグ、ポール・ジャスミン、ジャネット・ノーランという3人の女優が担当した。
続編の劇場映画2本(『サイコ2』『サイコ3/怨霊の囁き』)とテレビ映画1本(『サイコ4』)、および同タイトルのリメイク作品が製作されている。なお、小説にも続編があるが、映画とは全く別の物語である。
脚本のジョセフ・ステファノは、その後テレビシリーズ『アウター・リミッツ』の脚本家・プロデューサーとなった。
映画の中でトイレが出てくる(しかも水まで流している)のはこの映画が初である。
マリオンの同僚キャロライン役を演じている女性はパトリシア・ヒッチコック(ヒッチコック監督の娘)で、父親から直々にキャスティングされた。
有名なシャワーシーンの撮影にはジャネット・リーの全撮影日数3週間のうちの3分の1を占める7日間を要した。また、ヌードシーンではヌードモデルのマルリ・レンフロが起用されている。また、ナイフが刺さる音はメロンにナイフを突き刺す音を使用している。


登場する自動車はすべてフォード・モーター製である。これは同社がTVシリーズ『ヒッチコック劇場』の主要スポンサーであったためである。
モーテル内の剥製や壁掛けの絵など「鳥」が象徴的に登場するが、実は町(フェニックス)や登場人物(マリオン・クレインのクレイン=鶴)の名前にも鳥が隠されている。ヒッチコック作品の中では「鳥」が登場するシーンはいつも大きな変化の予兆として描かれている。
劇中でノーマンは5歳の時に父親を亡くしたという設定だが、ノーマン役を演じたアンソニー・パーキンスも実際に5歳の時に父親を亡くしている。