「浮草」
★★★★
1959年11月17日公開/カラースタンダード/119分/大映東京/
製作 永田雅一 脚本 野田高梧・小津安二郎 監督 小津安二郎
撮影 宮川一夫 音楽 斎藤高順 美術 下河原友雄
出演-中村雁治郎・京マチ子・若尾文子・杉村春子・川口浩・三井弘次・田中春男・潮万太郎・野添ひとみ・笠智衆・高橋とよ・浦辺粂子・桜むつ子・賀原夏子・島津雅彦
前作「お早う」から半年後に公開された小津作品。
「彼岸花」で大映から山本富士子を借り受けたので、そのお返しとして大映へと出向いて撮った作品で、1934年の自身のサイレント映画「浮草物語」をリメイクしている。
1年間で2本の新作を撮ったのは小津としては珍しい。サイレント映画時代後期の1936年「大学よいとこ」「一人息子」以来だが、リメイクなので結果、そうなったのだろう。
この映画は中村雁治郎の名演に尽きる。題名の如く、浮き草の人生を生きる、旅芝居の一座の座長役を、実に魅力的な人間として演じている。
杉村春子との再会のシーン。12年振りに会った昔の愛人とのやり取り。成瀬巳喜男の「鰯雲」で既に二人は元夫婦役で共演しているが、それ以上に情感のこもったシーンとなっている。ぬくもりのある場所で寛ぐ鴈治郎がまた素晴らしい。
そして子供の川口浩とのやり取り。二人並んで釣りをする際の、真っ赤な団扇と麦わら帽子。まるで子どものようにはしゃぐ鴈治郎が微笑ましい。
三井弘次・田中春男・潮万太郎の三人組の会話のおかしさ。それに絡む桜むつ子と賀原夏子。そして床屋の高橋とよのカミソリ削ぎと、後日の田中春男の絆創膏の可笑しさ。
撮影カメラマンは宮川一夫。
ファーストカットの灯台とビール瓶の対比のカットからして印象的。
一番の名カットは、鴈治郎と京マチ子が罵り合う、雨降りのシーンだろう。
小津映画では元々雨のシーンはほとんど見たことがない。「晩春」「麦秋」「東京物語」でも、最近の「彼岸花」「お早う」でも天候はいつも晴れだ。また「早春」「東京暮色」などの暗い内容でも、小津映画では雨が振らない。
今回はやはり宮川一夫が担当し、美術セットでは一番レベルが高いと言われた大映だから、あえてあの土砂降りの雨のシーンを設定したのではないだろうか。
とにかく小津映画の中でも名シーンのひとつになった。
そして映画のクライマックス。鴈治郎と杉村、川口と若尾文子の、それぞれの演技でのぶつかり合い。一人ひとりの感情が、願いが痛いほど伝わってくるシーン。
杉村の「・・お父さんかい」のセリフが忘れられない。
そして大ラス。駅舎での京マチ子との再会。それを認めたときの、鴈治郎の煙草をヒョイと掴む仕草のおかしさ。「もう一度、最初からやり直しや」と呟いて、仲睦まじく座席で酒を酌み交わす二人・・・。
ただ一点、三井弘次が金を盗んでトンズラしたってのは、あまりにも無理があった。
以下Wikiより転載
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『浮草』は、1959年の大映製作の日本映画。
概要
1934年に松竹蒲田撮影所で製作した『浮草物語』を監督自らがリメイクした作品。宮川一夫撮影によるアグファのカラー映像が、しがない旅役者の世界の情緒を際立たせる作品である。本作は、小津が第二の故郷である地元三重県でロケーション撮影した唯一の映画でもある。三重県志摩郡浜島町、大王町、阿児町、東京都あきる野市の武蔵五日市駅、神奈川県茅ヶ崎市の茅ヶ崎海岸などで撮影された。
『浮草物語』では「信吉」役(今作における清に相当する役)で三井秀男(後の三井弘次)が出演していた。2作ともに出演したのは三井だけである。なお、笠智衆も『浮草物語』に芝居小屋の客(「高嶋屋!」と声をかける男)として出演しているが、ノンクレジットである。
本作は1958年に『大根役者』として松竹で撮影するはずで、主要キャストは進藤英太郎・淡島千景・有馬稲子・山田五十鈴が予定されていた。佐渡や新潟でロケハンまで済ませたが、この年の雪が少なく、撮影を断念した。翌1959年、前年の『彼岸花』(1958年)の制作で大映の女優山本富士子を借りた見返りに、大映で撮影することになった。