流れる

★★★★

1956年11月20日公開/モノクロスタンダード/117分/東宝/

製作    藤本真澄 原作 幸田文 脚本    田中澄江、井手俊郎

監督    成瀬巳喜男 撮影    玉井正夫 音楽    斎藤一郎 美術 中古智

出演-田中絹代・山田五十鈴・高峰秀子・岡田茉莉子・杉村春子・中北千枝子・栗原すみ子・賀原夏子・宮口精二・仲谷昇・加東大介

 

前作「妻の心」から半年後に公開された成瀬監督作。

この年、1956年は1月「驟雨」、5月「妻の心」、11月「流れる」と、3本もの映画が公開されている。その3本ともが、それぞれ味わい深い傑作となっている。

 

撮影所の熟練スタッフと共に、原節子・香川京子・高峰秀子・田中絹代・山田五十鈴・岡田茉莉子・杉村春子と華々しい女優陣、佐野周二・小林桂樹・千秋実・加東大介・宮口精二と個性あふれる男優の、層の厚い演技者が多く映画界にいたからこそ成立できた理由だろう。

 

映画は、川沿いの芸者置屋の没落、凋落していく姿を静かに描いている。

お手伝いとして働き出す田中絹代を軸にして、女将の山田五十鈴、売れっ子芸者の岡田茉莉子、10歳年下の男を支えるため弁当箱持参で通う杉村春子。そして家を継ぐ気のない高峰秀子の、それぞれの日常が描かれていく。

 

そこには溝口健二ばりの叫ぶ女もおらず、黒澤明風のケレン味もヒューマニズムもない。題名の如く、ただ時間とともに「流れて」いく姿を、静かに見つめている。この視点は成瀬独自の物であり、また観客も「成瀬調」として認識していたであろう、幸せな時代だった。

 

往年の大女優、栗原すみ子の存在感が素晴らしい。

撮影現場でも監督を「ミキちゃん」と呼んでいたようだが、芸者協会の会長役として貫禄の演技を披露している。

 

以下Wikiより転載

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『流れる』は、1956年に公開された日本映画。製作、配給は東宝。モノクロ、スタンダード。 

企画・制作
ストーリーはほぼ原作のまま受け継がれている。
この時期の成瀬は、前年に公開された『浮雲』でキャリアの頂点を極めていた。他の作品でも見られる、女性を中心に人物を情感豊かにリアルに描く手腕は、本作でも遺憾なく発揮された。特に本作では、大勢の登場人物それぞれに明確な個性を色付けしており、キャスト連の迫真の演技と相まって肉厚で豪華な作品となっている。

キャストには田中絹代、山田五十鈴、高峰秀子という日本映画界を代表する名女優を三枚看板に擁し、岡田茉莉子、杉村春子、中北千枝子、賀原夏子らが脇を固めた。さらに日本映画史上初のスター女優で、当時既に一線を退いていた栗島すみ子が特別出演を果たし、強烈な存在感を見せる重厚な演技で往時のファンを歓喜させた。花柳界という舞台設定と合わせて正に「女性オールスター映画」とも呼ぶべき絢爛豪華な顔ぶれとなっている。男優では宮口精二、加東大介、仲谷昇、佐田豊らが出演している。スタッフにおいても「成瀬組」の名スタッフが結集し、成瀬映画の真髄を究めた作品となっている。

エピソード
成瀬からのたっての願いで、19年ぶりに映画に登場した栗島すみ子は、撮影の合間にも大女優の貫禄を見せつけ、成瀬のことを「ミキちゃん」と呼んでいた。栗島が「あたしはミキちゃんを信用して来てんだから。」と、セリフを一切覚えず現場入りした事は語り草になっている。なお映画界へのデビューは成瀬(の監督デビュー)が1930年、栗島が1921年で、年齢も栗島が3歳上。