「驟雨」

★★★★★

1956年1月14日/モノクロスタンダード/91分/東宝/

製作    藤本真澄、掛下慶吉 原作    岸田国士 脚本    水木洋子
監督    成瀬巳喜男 撮影    玉井正夫 音楽    斎藤一郎 美術 中古 智
出演-原節子・佐野周二・小林桂樹・根岸明美・香川京子・加東大介・長岡輝子・中北千枝子・伊豆肇・塩沢 登代路

 

ちょうど一年前に成瀬はキネ旬一位となった「浮雲」を監督後、9月に三話構成のオムニバス「くちづけ」を監督。そしてその4ヶ月後に本作を監督している。

原節子主演の主婦物は1951年「めし」、1954年「山の音」以来。個人的にはこの「驟雨」が一番好きな映画だ。

 

原作は劇作家・岸田国士。文学座の創設者の一人で、次女が岸田今日子、甥に岸田森がいる。いくつかの戯曲を一つにまとめて一本の話にしたらしく、脚本家・水木洋子の手腕が光る。

 

東京の梅ヶ丘で暮らす、結婚4年目の佐野周二と原節子の夫婦。そろそろ相手の嫌な所が目障りになってきている。隣に小林桂樹と根岸明美が引っ越してくるが、別段ストーリーは転がっていかない。何か起こりそうで何も起こらない。原は外に働きに出たいが佐野が許さない。

 

この映画は細部が抜群だ。原が餌をやっている野良犬をどうすべきか、町内集会が開かれる。住民たちが好き勝手に不満を言い合う姿が面白い。個性的なドンピシャの俳優たちの丁々発止。将来、市議会に立候補するらしい、左翼おばさん・長岡輝子の演技が抜群。

 

一方自宅内では、佐野の仕事仲間、加東大介たちが、野良犬が殺してしまった幼稚園の鶏で、鶏鍋を囲む。噛み切れないその肉を不満も言わず食べる男たちに大笑いしてしまう。

 

ラストシーンの紙風船を打ち合う二人。その画面から醸し出される夫婦の関係性。そしてこの先も、打ち合っていくことだろうと思える二人の未来・・・。

 

成瀬映画の中でも強い印象を残す、名ラストシーンとなっている。

 

以下Wikiより転載

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『驟雨』(しゅうう)は、1956年(昭和31年)に公開された成瀬巳喜男監督による日本映画。

概要
岸田国士の戯曲『驟雨』を始め『紙風船』、『ぶらんこ』、『屋上の庭園』、『隣の花』、『犬は鎖につなぐべからず』、『かんしゃく玉』等に材をとり、前年の日本映画史に残る傑作『浮雲』を手掛けた水木洋子が脚本を執筆した。

1951年(昭和26年)の『めし』、1954年(昭和29年)の『山の音』に続き原節子を主演に迎え、再び「倦怠期の夫婦」というテーマに挑んだ作品で、夫役には佐野周二が選ばれている。

この時期の成瀬は上質の良作を量産している円熟期で、小田急線梅ヶ丘駅付近の新興住宅地を舞台とした、経済的・肉体的に危機にあるサラリーマン夫婦の日常生活をリアルに描く手腕が、存分に発揮されている。また、些細な夫婦喧嘩が執拗なほど徹底的に描かれ、誰しも一度は口にするようなごく自然な言葉が放たれている。さらには、新興住宅地ならではの人間味のない町内会の情景なども丁寧に描写され、リアリティーとユーモア溢れる会話には水木の脚本の貢献が大きい。

主演の原節子にとっては前二作同様の「等身大の主婦」を演じており、ここでも小津映画とは違った光彩を放っている。ただし『めし』と重複する印象が強かったのか、同時期の成瀬作品が絶好調だったためか、この作品の興行成績はさほどふるわなかったという。とは言えシリアスな夫婦の危機を描きつつも、驟雨(にわか雨)のように通り過ぎ、結局「犬も食わない」能天気な結末は他の成瀬作品と比べてもユーモラスである。