新・平家物語

★★★★

1955年(昭30)9月21日公開/カラースタンダード/108分/大映京都/
製作  永田雅一  原作  吉川英治『新・平家物語』

脚本  依田義賢/成沢昌茂/辻久一    監督    溝口健二
撮影  宮川一夫    音楽  早坂文雄    美術    水谷 浩
共演-市川雷蔵・久我美子・大矢市次郎・林成年・木暮実千代・進藤英太郎・

 

前作「楊貴妃」から約五ヶ月後に公開された溝口作品。
吉川英治の同名歴史小説を、三部作で映画化したシリーズの第一作。

平安時代末期に貴族との激しい抗争の中で台頭してきた武士階級の御曹司・平清盛が、自らの出生の秘密に悩みながら成長していく姿を描く。15年前の1941,42年公開の「元禄忠臣蔵・前後篇」以来の、時代物の歴史大作。荘厳な格式高い映画だと思ったら娯楽大作だった。

 

「雪夫人絵図」「祇園囃子」で主役を演じた、清盛の母を演ずる木暮実千代が適役過ぎるほどの適役。夫を捨て子を捨ててまで、階級格式にこだわる女を熱演、溝口監督との息もピッタリだったろうと思える。


溝口はこの時56歳。24歳で監督デビューして、永田雅一と共に大映映画の巨匠として君臨して来たその演出力には、目を見張るものがある。

最高峰と言える宮川一夫の自由自在なクレーン撮影のフレームの中、主役である24歳の市川雷蔵は眉毛を巻き上げたメーキャップで、平清盛を力演している。スター嫌いな溝口も雷蔵の演技には十分満足したのではないだろうか。

 

 

雷蔵と溝口監督              原作者・吉川英治とのスナップ

 

雷蔵は1年前の1954年公開の『花の白虎隊』で映画俳優としてデビュー、関西歌舞伎の重鎮・市川壽海の子である雷蔵は映画界では貴種として扱われ、大映の経営陣は長谷川一夫に続くスターとして売り出す意向を持っていた。、デビュー作後5作目の『潮来出島 美男剣法』(1954年)、6作目の『次男坊鴉』(1955年)と立て続けに主役に抜擢している。

そしてデビュー2年目の1955年、この『新・平家物語』の平清盛役でスターとして注目を集めるようになった。雷蔵の映画を16本監督した田中徳三は、当初雷蔵の俳優としての大成は難しいと感じていたが、『新・平家物語』で印象が一変したと述べている。また雷蔵の映画を16本監督した池広一夫は、それまで長谷川一夫の亜流のようなことをやっていたのが、じわじわと役者根性が出てきたと評している。映画評論家の佐藤忠男は、『新・平家物語』を境に「長谷川一夫の後を追うように、もっぱらやさ男の美男の侍ややくざを演じた」雷蔵が、「通俗的なチャンバラ映画だけではなく、しばしば格調の高い悲劇も鮮やかに演じるすぐれた俳優になっていった」と評している。

 

雷蔵は足腰が弱く、立ち回りの時にふらつく癖があった。元大映企画部長の土田正義によると、立ち回りに不安のある雷蔵に「天下を制した青年清盛」を演じさせるのは大変な冒険だったという。雷蔵も自身の足腰の弱さを自覚しており、同志社大学相撲部へ通い四股を踏むなど様々な鍛錬を行ったが改善されず、撮影時にスタッフは足腰の弱さが画面に表れないよう配慮する必要があった。

雷蔵の映画を18本監督した三隅研次によると、雷蔵は自らの肉体的な弱さに対し強い嫌悪感を持っていたが、ある時期を境にそうした肉体的欠陥を受けいれた上で、それを乗り越えようとする姿勢をとるようになったという。

 

『新・平家物語』を境に雷蔵は、年間10本以上の映画に出演し、休日返上で撮影を行う多忙な日々を送るようになった。市川雷蔵にとってターニング・ポイントとなったこの作品。日本映画にとっての幸せの時代。群衆シーンではエキストラ一人一人に至るまでまさに画面内で生きている、CGでは決してこの熱気は伝わらない。

 

堂々の娯楽作品を演出した溝口健二だが、次作が遺作となってしまう、過酷な運命が待ち受けているのだった・・・。

以下Wikiより転載
---------------------------------------------------------------------------
『新・平家物語』は、1955年(昭和30年)9月21日公開の日本映画。大映製作・配給。監督は溝口健二、主演は市川雷蔵。カラー、スタンダード、108分。昭和30年度芸術祭参加作品。

吉川英治の同名歴史小説を、3部作で映画化した大河シリーズの第1作で、平安時代末期に貴族との激しい抗争の中で台頭してきた武士階級の御曹司・平清盛が、自らの出生の秘密に悩みながら成長していく姿を描く。スタッフには撮影の宮川一夫、美術の水谷浩、色彩監修の和田三造など、数々の映画賞に輝いたベテランが顔を揃えた。長回しのカメラワークはヌーヴェルヴァーグの映画人に高く評価された。配収は1億7303万円で、この年の邦画配収ランキング第4位となった。翌1956年(昭和31年)1月に続編の『新・平家物語 義仲をめぐる三人の女』(監督:衣笠貞之助)、同年11月には3作目の『新・平家物語 静と義経』(監督:島耕二)が公開された。

2006年(平成18年)12月22日に溝口健二監督没後50年を記念して、角川エンタテインメントから発売されたDVD-BOXに収録された。2009年(平成21年)11月27日には市川雷蔵没後40年を記念して角川エンタテインメントからデジタル修復版のDVDが発売された。