まごころ

★★★

1939年(昭14)8月10日公開/モノクロスタンダード/67分/

製作-竹井諒 原作-石坂洋次郎 脚色・監督-成瀬巳喜男

撮影-鈴木博 音楽-服部正  美術-中古智

出演-入江たか子・高田稔・村瀬幸子・悦ちゃん・加藤照子・藤間房子・清川荘司

 

前作「はたらく一家」から五ヶ月後に公開された成瀬新作。

内務省の厳しい検閲下で撮られた作品だが、少女二人を中心に据えて素晴らしい映画となっている。

 

小6の少女役「悦っちゃん」が可愛い。本名は江島瑠美で当時13歳。日活多摩川撮影所で2年間に主演映画「悦っちゃん」シリーズを計6本も撮っていた人気者。題名を記すると「悦ちゃん(原作:獅子文六)」「悦ちゃん乗り出す」「悦ちゃんの涙」「悦ちゃんの千人針」「悦ちゃん部隊」「悦ちゃん万才」と戦時下での子役を使った戦意高揚的な作品でもあったようだ。
 

内容は入江たか子と悦ちゃんは祖母と三人暮らしで、着物仕立てで生計を立てている。悦ちゃんの親友・加藤照子は父が銀行支店長の高田稔で教育ママの母は村瀬幸子。実は母の入江と高田が、昔は恋仲であったらしい事が加藤から悦ちゃんに伝わる。子供心にも悦ちゃんはショックを隠せない。村瀬は高田と入江の過去を知っており、子供の教育方針も含めて口喧嘩が絶えない毎日。ある日の午後、少女二人が川遊びをしていると加藤が足を切ってしまう。悦ちゃんは薬を取りに自宅へ行って入江と共に戻ってくると、釣りをしていた高田と出会ってしまう。微妙な二人の関係を感じる少女たち。後日、先日のお礼にと高田から悦ちゃんにフランス人形が届けられる。それを知った村瀬は高田に詰め寄る。高田は丁寧に話して誤解を解き、村瀬は自分が間違っていたと改心する。そして高田は召集令状が来たことを知らせる。ラストシーンは駅から列車に乗って出兵していく高田。万歳三唱の中、見送る少女たち二人と入江と村瀬の姿があった。

 

少女二人がいきいきと描かれ見ているだけで気持ちが良い。二人はいつも走っている印象。

川で怪我をして加藤が高田に肩車して帰っていく姿を見て、悦ちゃんも入江に肩車をねだるシーンが微笑ましい。

 

また高田が召集令状が来たことを娘と妻に知らせるシーン。加藤は霊所を見て顔を上げ、笑顔で「お父さん、おめでとう」と言い放つ。戦時下の映画だったと改めて気づく。村瀬の場合はそれ以前のわだかまりが溶けた後に、高田が「あっ、実は今日、これが来たんだよ」と召集令状を示す。村瀬は「おめでとう御座います」と頭を下げ泣き出す。高田「何を泣くんだ」村瀬「すみませんでした、長い間わがままをして」ここのシーンは微妙に泣く意味を取り違えさせているが、本当は招集が来て泣いている心情も含まれているとの、成瀬の微妙な演出が入っているだろうと感じた。

当時の一般庶民の反応はもっと深刻なものだったと思うが、検閲を通すためには、そう演出するしかなかった成瀬の悔しさを思う。