瀧の白糸
★★★★

1933年(昭和8)公開/98分モノクロ無声・スタンダード/

製作-入江プロ/配給-新興キネマ
原作    泉鏡花「義血侠血」 脚本    東坊城恭長、増田真二、館岡鎌之助    

監督    溝口健二 撮影    三木茂
出演-入江たか子・岡田時彦・菅井一郎・浦辺粂子・見明凡太郎


溝口健二35歳の監督作。無声映画時代の溝口のピークの作品と呼ばれている。
同年のキネマ旬報ベストテン第二位に選出、第一位は小津安二郎の「出来ごころ」。溝口は5歳年下の小津にライバル心は当然あっただろう。ちなみに第三位は7歳年下になる成瀬巳喜男の「夜毎の夢」となっている。みんな若かった時代だ。

 

ラストシーンが欠落していたり、読めない字幕が多かったりの不完全での鑑賞。また活弁入りだが煩いので無音で見た。

「瀧の白糸」とは、古典奇術である水芸の一つ。主人公の入江たか子は金沢の水芸太夫で、扇子などの上から水を噴出させる芸で観客を熱狂させていた。そこに貧乏学生の岡田時彦と出会う。入江は一目惚れして、向学心に燃える岡田に金を与え、東京へと旅立たせる。
やがて季節は冬となり、水芸舞台には閑古鳥が鳴く。仕送りを続ける入江は高利貸しに体を売って金を工面、しかし帰り道にグルとなったヤクザに金を盗られ、結局は高利貸しを殺してしまう。入江は岡田に会いに東京へと逃げるが警察に捕まり投獄。やがて裁判となり、出世した検事の一人となった岡田と再会。岡田の説得で真実を述べたあと、舌を噛んて自殺、岡田も後を追って短銃自殺する・・・。

ラストの入江の自殺以降のフィルムが欠落していているのが至極残念。
それでも男を慕う女の情念が伝わってくる。面倒見がよく姉御肌の入江が、苦学生にぞっこんとなってしまう、しおらしさ。

反面、盗まれた金を取り返しに高利貸しの家に入っていくシーンの凄み。もうすでに溝口はクレーンでのワンカット撮影にトライしている。そして殺した後の俯瞰カットの切れ味。岡田を想うシーンでのフラッシュバックの技法など、溝口は人間の激情を技術テクニックを駆使して大胆に表現している。

この映画は当時の人気女優、入江たか子自身の入江プロの製作。
Wikiによると、22年後の監督作『楊貴妃』(1955)では入江たか子の演技に満足せず、「何ですかその芝居は。それは猫です、猫芝居ですよ」と罵倒したらしい。猫芝居は当時の入江が主演した化け猫映画のことであるが、化け猫映画はゲテモノ映画として扱われていたため、往年の大スターである入江が落ち目になったという風に捉えられていた。溝口は入江に何度も演技をやらせても不機嫌な態度のままOKを出さず、入江はその気持ちを理解して自ら降板した。溝口は過去に入江のプロダクションで『瀧の白糸』を作って成功させてもらった縁があったため、周りのスタッフや俳優は溝口があまりにも冷酷だと批判した。

恩義があっても気に入らない演技に対しては、全否定してしまう溝口の完璧主義者ぶりは、今の時代では到底認められないだろう。ある意味、性格破綻者とも評せられる溝口だからこそ、数々の名作と言われる映画を作ることが出来たのかもしれない。

以下Wikiより転載
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1933年版「瀧の白糸」溝口健二監督作品。サイレント映画。88分。
5つ、プリントが現存するが、ラストシーンが欠落したものや、ラストシーンを含むものの欠落や傷が多いものなど、不完全なプリントしか残されていない。このため、フィルムセンターにより欠落部分を補い、ラストシーンを修復したデジタルリマスター版が作成されている。

2007年に望月京が付随音楽を作曲。IRCAMフェスティヴァル・アゴラの枠内でルーヴル美術館オーディトリウムで初演された。このような昔の無声映画に現代の作曲家が新たに音楽を付ける試みは、ここ十数年間毎年ルーヴル美術館で行われているが、日本映画としては初の例である。