大菩薩峠
大映/91分★★

1960年(昭35)10月18日公開<カラー・ワイド>    
脚本    衣笠貞之助    監督    三隅研次
撮影    今井ひろし    音楽    鈴木静一
原作-中里介山
出演-市川雷蔵・中村玉緒・本郷功次郎・山本富士子・菅原謙二・根上淳・笠智衆

原作の「大菩薩峠」は、中里介山作の長編時代小説。
1913年(大2)~1941年(昭16)に都新聞・毎日新聞・読売新聞などに連載された41巻にのぼる未完の一大巨編。
幕末が舞台で、虚無にとりつかれた剣士・机竜之助を主人公とし、甲州大菩薩峠に始まる彼の旅の遍歴と周囲の人々の様々な生き様を描く。連載は約30年にわたり、話は幕末から明治に入らずに架空の世界へと迷い込み、作者の死とともに未完に終わった。
作者は「大乗小説」と呼び、仏教思想に基づいて人間の業を描こうとした。世界最長を目指して執筆された時代小説で、大衆小説の先駆けとされる。

最初の映画化は1935年(昭10)で監督は稲垣浩、主演は大河内傳次郎で全2作。次に1953年(昭28)で渡辺邦男監督、主演は片岡千恵蔵で全3作。さらに1957年(昭32)で内田吐夢監督、主演は再び片岡千恵蔵で全3作。そして本作の三隅研次監督、市川雷蔵主演の全3作。さらに1966年(昭41)には岡本喜八監督で仲代達矢主演の全1作。

原作は未読だが題名だけは昔から知っていた「大菩薩峠」。今回が初見だが、主人公の机竜之助の浪士の虚無感、無常観がどこから来たものなのか説明がないので今ひとつの印象。辻斬りにのめり込む理由が分からない。
原作の連載が始まった大正2年は大正デモクラシーが台頭、翌年には第一次世界大戦が始まり、日本では米騒動が起こった時代。そのような世情が主人公に反映されているのだろうか?
しかし無差別殺人である辻斬りをする浪士を主人公にする小説が、長きに渡って新聞小説として大衆に支持されたのはどうしてなのだろうか?

映画としては今井ひろしのキャメラがアップを多用して面白い。また中村玉緒が、一種の悪女を好演している。横目の演技など、いつのまにかお嬢様女優から脱皮していて驚いた。

あとこの作品の殺陣のシーンがとても酷く感じた。ロングの長回しで撮っているせいもあるが、相手が切られに行ってるのが丸わかり。何とかならなかったのだろうか・・・。

以下Wikiの三隅研次より転載

三隅 研次(みすみ けんじ、1921年3月2日 - 1975年9月24日)
神戸の海運業者の父親と、京都の芸妓の母親との間に、妾腹の子として京都市に生まれる。神戸市出生との説もあり、成人するまで母親に一度も会うことなく育った。
立命館大学専門部商科卒業後、日活京都撮影所に助監督として入社。1942年に召集され満州へ配属される。戦後の1947年までシベリアで抑留生活を送り、そこでの過酷な経験や人間観察が、自身の屈折した生い立ちと相まって後の作風を形作ることとなった。

復員後は大映に籍を置き、伊藤大輔、松田定次、衣笠貞之助らに師事した。監督デビュー作は『丹下左膳・こけ猿の壺』(1954年)。田中徳三、池広一夫と共に「大映三羽烏」と称され、全盛時の大映京都撮影所を支える主力監督としてプログラムピクチャーを撮り続ける。また国産初の70ミリ映画『釈迦』の監督も務めた。

大映倒産後は映像京都の立ち上げに参加してテレビシリーズを手がける傍ら、勝プロ=大映京都撮影所(配給は東宝)で数本の劇場用作品を完成させる。初の他社撮影所(松竹大船)での劇場映画『狼よ落日を斬れ』を完成させ、『必殺仕置屋稼業』第13話「一筆啓上 過去が見えた」の演出を務めていたが、撮影中に病院に運ばれ、1975年9月24日、肝臓ガンのため死去、同作品が最後の演出となった。54歳没。酒は全く嗜まなかった。

「座頭市」シリーズや、「剣」三部作、「眠狂四郎」シリーズなどの作品により、時代劇の巨匠監督の地位を得た。また、若山富三郎を主役に据えた映画版『子連れ狼』における鮮烈な殺陣シーンなどは、クエンティン・タランティーノやサム・ライミにも大きな影響を与えたとされる。

 

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大菩薩峠 竜神の巻
大映/90分★★★

1960年(昭35)12月27日公開<カラー・ワイド>    
脚本    衣笠貞之助    監督    三隅研次
撮影    今井ひろし    音楽    鈴木静一
原作-中里介山
出演-市川雷蔵・中村玉緒・本郷功次郎・山本富士子・片山明彦・見明凡太郎・小堀阿吉雄(明男)・須賀不二夫・清水元

前作から約2.ヶ月後の公開。

失明して逃げ延びた竜之介と、二役の中村玉緒との交情が中心に描かれる。
前作よりは面白く観る事が出来た。ただ当時29歳の山本富士子が、当時22歳の本郷功次郎と恋仲になるのはどう見ても無理っぽい。

 

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大菩薩峠 完結編
大映/98分★★

1961年(昭36)5月17日公開<カラー・ワイド>    
脚本    衣笠貞之助    監督    森一生
撮影    本多省三    音楽    塚原哲夫
出演-市川雷蔵・中村玉緒・本郷功次郎・小林勝彦・近藤恵美子・島田竜三・阿井美千子・見明凡太郎・三田村元

三部作の完結編。

中村玉緒が再び別役で出演している。このシリーズ、一人で役名違いの三役での出演となる。また山本富士子演じていた役は、セリフは出てくるが出番は無し。

前二作ともに本郷功次郎との仇討ちがラストとなり、次作ではその後から始まる構成だったが、今回も決闘はお預け、「続・完結編」も作るのが可能なラストとなっている。

雷蔵は崖から滑ったり、谷から滑り落ちたりすると必ず女に助けられて、飲食不自由することなく、時間を持て余す故にか、己の煩悩に悩み、辻斬りしながら日々を過ごす。

原作はどうだか知らないが、構成自体はワンパターンの極み。三部作にするほどの原作なのだろうか。

ただ一つ、この映画のラストの洪水シーンは見もの。

濁流にのまれ流れて去っていく、崩れた屋根の上の雷蔵のカットは、大映美術スタッフの底力が感じられ、最高峰の美術装置であった。