前回のブログ「記録にみる豊前秦氏」では正倉院の戸籍の記録から豊前秦氏居住地を推測しました。
今回は豊前秦氏と畿内の葛野秦氏（かどのはたし）の関係を考察してみたいと思います。
Wikipediaによれば葛野秦氏の拠点は山城国葛野郡太秦（うずまさ）とあります。
実は豊前秦氏が暮らしていたと思われる地域にも畿内と似た地名があります。
北九州市八幡西区畑（はた）です。
うずまさ、はた、読むと全く似てませんが漢字にすると太秦と畑です。
太秦の秦は、はたと読めます。
そして畑の近くに河内（北九州市八幡東区河内）があります。
畿内には河内国がありました。
更に北九州の畑と河内の近くには金剛山があります。
畿内にも金剛山があります。
北九州の金剛山の近くには福智山があります。
葛野秦氏の拠点京都には福知山市があります。
秦氏が暮らしていたと思われる両地域に同じような地名があるのは偶然だとは思えません。
先程出てきた福智山の周辺には香春神社があります。
香春神社のWikipediaには、宮司は代々、赤染氏、鶴賀氏が務める、とあります。
谷川健一『四天王寺の鷹』（河出書房新社、2006年）
によると赤染氏は秦氏であるとあります。
やはり、これらの地名は秦氏に関係がある地名のような気がします。
図1
図１は北九州筑豊地域の豪族の支配地域を表したものです。
青は物部氏、赤は熊鰐、緑が秦氏です。
緑色の秦氏に関係があると思われる地名をつないでみると渡来人秦氏がたどってきた経路がわかるような気がします。
まず洞海湾から入り、黒川上流の畑地域と、板櫃川（いたびつがわ）上流の河内地域に住んだのではないでしょうか。
これらの地域は、どちらとも谷にある地域です。
あまり人が住みやすい場所とはいえません。
現在は、畑には畑貯水池が、河内には河内貯水池ができています、ダムができるような場所です。
周りには熊鰐と物部、有力豪族がいるためこのような場所にしか居住の許可がおりなかったのではないでしょうか。
秦氏のご子孫である赤染氏が宮司をなさっておられる香春神社の祭神は、辛国息長大姫大目命、忍骨命、豊比売命です。
辛国息長大姫大目命の名前には辛国の文字があるので、辛国息長大姫大目命は渡来の神でしょうか。
忍骨命はアメノオシホミミです。
北九州筑豊地域で広く信仰されている神です。
この地域の有力豪族である熊鰐も祭っています。
そしてアメノオシホミミは物部氏の祖神ニギハヤヒの父親とされています。
物部氏は北九州筑豊地域最大の豪族です。
秦氏はこの神を祭ることで周囲の豪族との融和をはかったのではないでしょうか。
正倉院の七〇二年の戸籍をみると秦氏の戸籍には豊前国仲津郡丁里とあるので八世紀初めには豊前海まで居住地域を広げていたようです。
そして一部の秦氏は大和への移住を認められるようになったのではないでしょうか。