超高齢社会が加速する中、日々の臨床で「最近物忘れがひどくなった」「家族の認知機能低下が心配」といったご相談を受ける機会が増えているのではないでしょうか。
認知症と一口に言っても、その背景にある原因や病態は様々です。 病態に応じた適切なアプローチを行うためには、まず「どのタイプの認知症なのか」を正しく整理することが欠かせません。
今回は、主要な認知症の種類別の原因と、臨床で見落とされがちな「薬の副作用による認知機能障害(薬剤誘発性認知障害)」について詳しく解説します。
1. 認知症の種類とそれぞれの原因
認知症の約85%以上は、以下の「4大認知症」が占めています。
① アルツハイマー型認知症(最多) 【原因】アミロイドβやタウタンパクと呼ばれる異常なタンパク質が脳内に蓄積し、神経細胞が徐々に破壊・脱落することで脳が萎縮します。記憶を司る「海馬」から萎縮が始まるため、初期症状として記憶障害(物忘れ)が目立ちます。
② 脳血管性認知症 【原因】脳梗塞や脳出血、微小な脳血管障害により、脳の神経組織へ酸素や栄養が行き渡らなくなることで発症します。高血圧や糖尿病などの生活習慣病が主な背景となり、できること・できないことがはっきり分かれる「斑(まだら)認知症」や、感情のコントロールが難しくなるのが特徴です。
③ レビー小体型認知症 【原因】「αシノクレイン」という特殊なタンパク質が脳内に蓄積(レビー小体)し、神経細胞を障害します。リアルな幻視(実際にはいないものが見える)や、パーキンソニズム(手足の震え、筋固縮、歩行障害)、自律神経症状が伴うのが大きな特徴です。
④ 前頭側頭型認知症(ピック病など) 【原因】脳の前頭葉や側頭葉が局所的に萎縮することによって生じます。記憶障害よりも、理性や社会性を司る部位が障害されるため、万引きや暴言といった人格変化・脱抑制、同じ行動を繰り返す「常同行動」が初期から現れます。
2. 見落とし厳禁!「薬の副作用」による認知障害(薬剤誘発性認知障害)
臨床上、特に注意しなければならないのが「薬剤誘発性認知障害(薬剤性認知症)」です。 これは、処方薬の毒性や副作用によって一次的に認知機能の低下やせん妄が生じる状態を指します。
「急に物忘れが激しくなった」「急にぼんやりすることが増えた」という場合、進行性の認知症ではなく薬の影響である可能性が疑われます。
【原因となりやすい主な薬剤】 ・ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬(覚醒度を低下させる) ・抗コリン作用を持つ薬剤(第一世代H1受容体拮抗薬、抗パーキンソン病薬、三環系抗うつ薬など) ・H2受容体拮抗薬、抗てんかん薬など
特に高齢者では、複数の医療機関から処方された多剤併用(ポリファーマシー)により抗コリン作用などが相乗的に強まり、記憶力低下やせん妄を引き起こしやすくなります。
薬剤誘発性の認知障害は、原因薬剤の変更や中止によって改善・治癒が見込める「治療可能な認知症」です。 問診時に現在の服用薬を確認し、疑わしい場合は主治医や薬剤師への相談を促す視点を持つことが大切です。
【編集後記】
患者さんやご家族から「これって認知症でしょうか?」と相談された際、単に「年相応ですよ」で済ませず、薬の影響まで含めて多角的に見立てができる鍼灸師は、医療現場でも深く信頼されます。
日々の問診や評価の精度を一層高めていきましょう!
五枢会代表 武藤由香子