鍼灸師に求められる新たな役割 〜「治療者」から「教育者」へ〜
日々の臨床において、鍼灸治療が症状を改善させる力を持っていることは、多くの鍼灸師が実感していることでしょう。しかし、それだけで患者の健康が維持されるとは限りません。
一時的に症状が緩和しても、生活習慣や身体の使い方、ストレスへの対処が変わらなければ、再発は避けられません。
このような背景を踏まえると、鍼灸師には「治療者」としての役割に加えて、「教育者」としての視点」が求められる時代が来ているといえるでしょう。
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鍼灸治療の効果を「持続させる」ために
患者の訴える症状の背景には、姿勢のクセや不規則な生活、運動不足、心理的ストレスなど、身体と心の両面にわたる多様な因子が複雑に関わっています。
鍼灸治療で一時的な改善が見られても、それらの根本的な原因が解消されなければ、治療効果は短命で終わってしまいます。
こうした問題に対処するために必要なのが、患者自身の行動変容を促す関わり=患者教育です。
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患者教育の要は「伝え方」と「タイミング」
教育的アプローチとは、単にアドバイスを与えることではありません。患者に“気づき”を促し、納得と実践に結びつけるためには、伝える技術=コミュニケーション力が重要です。
ここで有用なのが、行動変容のステップを整理した**トランスセオレティカルモデル(TTM)**です。
これは、
1.    無関心期(まだ変わる気がない)
2.    関心期(少し意識し始めている)
3.    準備期(変えようとしている)
4.    実行期(実際に行動を変えている)
5.    維持期(変化を継続している)
という5段階で、人が行動を変えるプロセスを理解する理論です。
たとえば、「運動した方がいい」と伝えても、無関心期にいる患者にとっては響きません。関心期に入って初めて、適切なアプローチが効果を持ち始めるのです。
このように、患者の現在地を見極めたうえでの説明・提案が、教育的関わりの質を大きく左右します。
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教育者としての視点を持つ鍼灸師へ
これからの鍼灸師に求められるのは、単に「症状を取る」技術者ではなく、
患者の健康意識を高め、生活を整える力を引き出すファシリテーターです。
鍼灸治療の効果をより深く、より長く患者の中に定着させるために。
そして、患者の自己治癒力を「日常の中で再起動させる」ために。
私たち自身が、伝える力・支える力をさらに磨いていくことが、これからの臨床において大きな意味を持つでしょう。
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今後のメールマガジンでは、実際の説明の工夫や、患者教育に役立つコミュニケーションの実例もご紹介していく予定です。ぜひご期待ください。