ホテル山の家に対する思い | Tamaのブログ

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境はききつつ、ただ幾度も歎息した。
「――遁がしたのでございましょうな。画師さんはその夜のうちに、寺から影をかくしました。これはそうあるべきでございます。――さて、聞きますれば、――伜の親友、兄弟同様の客じゃから、伜同様に心得る。……半年あまりも留守を守ってさみしく一人で居ることゆえ、嫁女や、そなたも、伜と思うて、つもる話もせいよ、と申して、身じまいをさせて、衣ものまで着かえさせ、寝る時は、にこにこ笑いながら、床を並べさせたのだと申すことで。……嫁御はなるほど、わけしりの弟分の膝に縋って泣きたいこともありましたろうし、芸妓でしくじるほどの画師さんでございます、背中を擦るぐらいはしかねますまい、……でございますな。
 代官婆の憤り方をお察しなさりとう存じます。学士先生は電報で呼ばれました。何と宥めても承知をしません。ぜひとも姦通の訴訟を起こせ。いや、恥も外聞もない、代官といえば帯刀じゃ。武士たるものは、不義ものを成敗するはかえって名誉じゃ、とこうまで間違っては事面倒で。たって、裁判沙汰にしないとなら、生きておらぬ。咽喉笛鉄砲じゃ、鎌腹じゃ、奈良井川の淵を知らぬか。……桔梗ヶ池へ身を沈める……こ、こ、この婆め、沙汰の限りな、桔梗ヶ池へ沈めますものか、身投げをしようとしたら、池が投げ出しましょう。」
 と言って、料理番は苦笑した。
「また、今時に珍しい、学校でも、倫理、道徳、修身の方を御研究もなされば、お教えもなさいます、学士は至っての御孝心。かねて評判な方で、嫁御をいたわる傍の目には、ちと弱すぎると思うほどなのでございますから、困じ果てて、何とも申しわけも面目もなけれども、とにかく一度、この土地へ来てもらいたい。

きつおん