「時間を決めるか、バケツ一杯分って、量を決めるかした方がいいよ」と言う彼女の言葉が残ってはいるものの、ついつい欲が出てしまう
草引きをし始めると「ちょっと10分」は30分になり、「ばけつ一杯分」は「あそこの山」と「ここの山」に変わっていく
しかし、アドバイスをくれた彼女も先日、久し振りに会うと「気がついたら2時間してて、次の日、腰が…
」と、口にしていた。花や草を目の前にすると、なかなか手を止めることができないのが現実だ
ひとしきり片付け終わって、小さな菜園に向かう階段に腰掛け眺めてみる。菜園では、苺の花があちらこちらに咲き、夏野菜も土に馴染んで生長している
菜園に降りる階段脇をシャクナゲが飾り、丸い大きな蕾がどんどん大きくなってきて、狭い庭ながらも花盛りの季節がやって来た
そんな中、去年根元から伐ってもらったつるバラ
が地面からシュートを伸ばしてきた
今は、ワクだけ残ったバラ用のアーチに、早くもクモの巣が張り巡らされていた
……植物だけではなく、生き物も活動が活発になってきている
…… 日を浴びて、キラリと輝くクモの糸
……このクモの糸にこれからどんなものが引っかかるのだろうか
……
「蜘蛛の巣は、吉兆紋や。己の手で運を掴むてな。」 『きらん風月』(永井紗耶子)を読んでいて、この一行に出合った
この小説の主人公は、煙草屋の主であり、『更科草紙』や『東海道人物志』を著した栗杖亭鬼卵(りつじょうてい きらん)だ。 時代は江戸中期。冷夏で作物が実らず、暮らしに困窮する者が溢れる中、浅間山が噴火した そんな中で老中となった松平定信は、徹底した質素・倹約令を出し、風俗や学問などにも沙汰を出す。
滑稽、風刺、諧謔…… 世の流れに反するように語り、綴り、描く鬼卵。 彼の師は、「筆は卵」と言った そこからは、「武者も神仏も美女も出てきて、人の心を躍らせ、救いもするが、鬼も蛇も出てきて暴れ、人を食らいもすることもある」と…… 長子に老中を譲り、「風月翁(風月を愛で、人生を楽しむ)」となった定信と掛川で出会う
立場も違えば、考え方も全く違う二人だが、どこか惹き付けられるものがある
直木賞受賞作『木挽町のあだ討ち』と同じように、登場人物たちの遣り取りの中に、その時代背景が浮かび上がってくる 「きらん」と「風月」と対比が序章と終章であざやかに際立つ一冊
だった
風薫る5月が目の前だ この間、若い「かおるこ(馨子)」さんと知り合った
去年、大往生した伯母の名も「かおるこ(薫子)」だった
「いい名前だね
」と話しかけると、嬉しそうに「父がつけてくれた名前です
」と笑顔で返してくれた。新緑の香りを感じたような一瞬だった