故郷で暮らす旧友のお母さんが亡くなられた。家族葬で執り行われたとの知らせは、いろんな人を経由してすぐに私にも伝わって来た。 取り込んでいるに違いない数日を避けて、落ち着いただろうと思われる頃に電話を入れた。
久し振りに聞く彼女の声は、いつも通りの元気のいい張りのある声だった 天寿を全うし、娘達に囲まれての旅立ちだったとか…… 「母が入院してから、姉と一日交代で病室を見舞っていたよ 遠くで暮らす妹も、時折顔を見せてね……静かに息を引き取ったよ。私たちも心残りはないよ」 お母さんを見舞っては、耳元で声をかける友人の姿が思い浮かぶ。 後日、お供えと「看取りお疲れ様」の気持ちを込めて品物を送った
彼女は、コロナ禍で亡くなった父の葬儀を知り、出向いてくれた友人だったあの当時いろんな制約がある中で、足を運んでくれたことへのありがたさに胸がいっぱいになった 遠くなってしまった故郷にそんな友人がいることこそ、故郷と私を結びつけているものの一つなのかもしれない
母亡き後、祖母と精神的にダメージを受けた父を残して、母の実家の港町へとやって来た小学生の少年の成長をえがいた作品が『遠い町できみは』(高遠 ちとせ)だ
都会から田舎の小学校にやって来た少年(翔)は、言葉の違いや慣習になかなか馴染めないでいた 同じようにクラスで浮いていた少年(大也)は、両親が離婚し、若い母は新しい彼をつくっては、その新しい彼や母にネグレクトを受け 幼い頃から、母の命令で万引きをして「盗人」と呼ばれていた
もう一人、無視されていた少女(美波)は、再婚した母の新しい家族の中でも疎外され、義理の父の暴力に心の中で悲鳴をあげていた その三人が、ともに心を解き放って楽しめたのがサーフィンだった ショップを経営する翔の叔母の支えもあって、四季折々に海を眺め、波に乗ることに集中していく
大人の不条理に屈することなく、それぞれが少しずつ本音を言えるようになっていく 家族は、時とともに形を変えていく 表紙に描かれるのは、波打ち際を走る出会った頃の三人。裏表紙に描かれるのは、数年後、若者となった三人の姿だ この町から去って行った者とこの町に残った者。「家族」のあり方を問う一冊だ 彼らは波立つ海の「その時」を窺い、それぞれが人生の荒波に乗ってその先に拡がる景色を見ようとしていた
もうすぐ中秋がやって来る 十五夜も近い。 月が満ちるように心が満たされた本との出会いだった