正月恒例のスポーツイベントと言えば、ニューイヤー駅伝があり、その翌日には箱根駅伝がある 元旦に起きた能登半島地震の情報が溢れる中、100回を迎えた箱根駅伝の記念大会が開催された テレビ画面には、各区間のランナーが走っている映像とともに100年の箱根駅伝の歴史を振り返り、歴代の「山の神」やアクシデントに見舞われたランナーのエピソードなど盛りだくさんの内容が語られた
この大会に出場することを目指してきた多くの学生がいる中、ランナーとして走れる者はほんの一握りでしかないという現実をあらためて感じた。 そして、合間に流されるコマーシャルは粋なものだった 箱根路を走った歴代ランナーの当時の写真の横を歩くのは、「今」の本人たちだ やがて、コマーシャルの終盤には、そのランナーたちが「今」の姿で集合するというものだった 100年の歴史を感じる「その時」だけのコマーシャルタイム、なんとも贅沢に思えた。
年末の都大路でバトンをつなぐ「女子全国高校駅伝」 これをテーマにしたのが、『十二月の都大路上下(かけ)ル』だ 27年振りに出場を果たしたある女子高校生チーム そのチームをルポするようなかたちで物語は進んでいくが、万城目 学さんの得意の京都が舞台にしてあり、地図を片手に物語を追っていけそうだ ただし、やはりそこは万城目さん 沿道で併走する人物に浅葱色の陣羽織を羽織ったイメージのある集団を登場させている 「誠」の旗を持って彼らが走るのは、彼女たち高校生が走った西大路通り。そこには、屯所や墓地もあった
『八月の御所グラウンド』(万城目 学)には、この『十二月~』と『八月~』の二作品が収められている
『八月の御所グラウンド』は、野球チームの話だ 蒸し暑い京都。暑さ真っ盛りの頃、一人暮らしの部屋でゴロゴロしていた青年は、チーム対抗戦の助っ人として、朝から御所グラウンドに呼び出される どうにか一回戦を勝ち抜き、次の試合へと駒を進めていくのだが、日を追うごとにどんどんメンバーが足りなくなっていく
でも、そこに現われた人たちにチームに加わってもらい、試合開催にこぎつけられていくというものだ
新たに加わった人たちの正体は 次第にその謎が解け、なぜ、あの時、あの場所にその人たちが居合わせたのかもわかっていく 助っ人メンバーの「えーちゃん」の投げたボールが、「みよじ」のミットに上手く吸い込まれていったように、謎だらけのパズルのピースがきちんとはまったのだ
五山の送り火の夜、「大」の文字が消えゆくのを見続けながら、青年の胸には、灯りがともっていく 万城目ワールド全開の、時空を超えて繋がっていく物語 ランナーのような疾走感が物語から伝わって来た一冊だった