「俺さ、潤の店で雅紀と話ができた日って、すげー嬉しかったんだ」
「え、それって、いつからそう思ってくれてたの?」
「んー…いつからって言われるとなぁ…えー…まぁなぁ」
「なになに?そんなに言いにくい感じなの?」
「いやぁ.....って、こういうのってもったいぶるとハードルあがるんだよな」
「そうだよ、さらっと言った方が気にならないのにね!だから、ハイもうだめー!」
「おいダメってなんだよ!」
「あはは!」
酒も進んで、腹も満たされて。
翔さんの飲みっぷり食べっぷりが気持ちよくて、オレもほぼ同じペースで付き合ったら、思いのほか飲んでしまった。酒の勢いが関係を進めるって、それなりな大人だからこそ、悪くないな、なんて。
よく笑う翔さんが可愛くて、ずっとこの人に笑っていて欲しいなって思う。
ふんわりと左肩が心地よくあったかい。
しょーちゃんも一緒に楽しんでくれてるんだね。
「なぁ、雅紀?」
「ん?」
「俺さ、霊感とかなんもないし、そういう話はめっちゃ怖ぇからあんま言いたくないんだけど」
「なに?急に」
「雅紀のこっちがわ、なんかキラキラしてるんだよな…」
「えっ!?みえんの!!??」
と、翔さんが『こっち側』と、しょーちゃんの片翼がある左肩を指して言うもんだから、思わず反応してしまった。
「え!?『見えんの』って、え?嘘だろ?やっぱ、なんかあんの!?」
「えっと、ねぇ...」
やっべ、どうしよう。
これバレたらダメなんだっけ?
別に隠せとも言われてないし、いいんだっけ??
え?
ってか、オレの左肩、キラキラしてんの??
あーもう!
しょーちゃん!
今日はそばにいてやるからって言ってくれてたのに!
出てくるなら今だよ!?
「えっと、いや、なんでも!なんでもない!」
「そんな反応されて、そっかなんでもないかってならないぞ?絶対なんかあるヤツじゃん!」
「あー!ほら!ね、翔さん、飲みすぎなんじゃない?あ、グラス空いてる!次何飲む?」
「雅紀?飲みすぎだっつってんのに、次何飲むってすげぇ矛盾してんぞ」
「ああぁぁ…」
「あははは!なんだよそれ(笑)おもれぇ」
オレはわかりやすく頭を抱えるしかなく、翔さんをまともに見ることができない。
だって絶対にオレをすごい見てるから。
翔さんからの視線が痛いなぁ。
しょーちゃん、これどーしたらいいんだよ。
って、しょーちゃんに助けを求めたのに、全然返事をしてくれなくて。これオレの修行中?なんかの大罪!?
どうやって切り抜けるか、酔ったアタマで必死に考えていたら。
可笑しそうに笑ってくれていた翔さんがいつのまにか、静かになってる。
そうなるとそれはそれで気になっちゃって、今度は翔さんがどんな顔をしているか、つい頭をあげてしまったら。
………見なきゃ、よかった、かも。
なんて、目で。
酒の酔いで目の周りが赤い。
眉間にゆるくしわが寄っていて。
苦しそうに見えるけど、それは、たぶん違う感情。
視線が絡む。
赤く染まる涙袋がふんわりと目元を彩って、その甘やかさとは裏腹の、言葉にはせずとも伝わってくる、熱。
「…...なぁ、雅紀、今から恥ずかしいこと言っていい?」
「うん…なあに?」
「あのさ、俺、雅紀には、一目惚れ…だった」
「........翔さん」
「この人の、一切合切、全部欲しいって。すげぇ思った。それが俺の中の雅紀のはじまり。」
そういう翔さんはすごく怖い顔をしていて。
でもオレは、そんな彼が、なんて美しいんだろうって。
そう思った。