駅に降りて、ふぅ、と。
ひと呼吸。

駅前には喫煙スペースがあって。
そういえば櫻井さんも電子タバコ吸ってたな、なんて。
何を見みても彼に結びつけてしまう。


スマホに映った櫻井さんとのトークルームを見つめる。


そこには連絡先を交換したときに送り合った『櫻井です』に添えられた何とも言えないスタンプ。数年前の大河ドラマのキャラクターだそうで。


その時に、もしかしてっておもった。

『主演俳優がちょっと好みだったんで、ついつい買っちゃいました』

って。

それって、そういう意味?
オレもアリって、暗に伝えてくれたのかな。
希望のある方へ考えすぎ?
あんなに素敵な人、引く手あまただろうな。
でも、決まった人はいなさそう。
『対象』は、オレでもいいってことかな。
でもオレなんかが近づいていいヒトじゃないかも。
だってあのひとのこと、何にも知らない。



【雅紀、だいじょうぶか?】


ふんわりと、抱き締められたような心地。
ひとには見えてなくても、しょーちゃんがそばにいてくれてることがわかる。


《うん、大丈夫。ありがとう、来てくれて》

【大切な主のそばにいるのは当然だ】

《なんか、ちょっと久しぶりすぎて、忘れてた》

【なにをだ?】

《人を好きになると、楽しいだけじゃないんだったなーって》

【楽しくないのは、どんな気持ち?】

《どんな...?そうだなぁ。卑屈になったり、嫉妬したり...とかかなぁ》

【そっか、雅紀は櫻井さんが欲しくなったんだな】

《え?》

【ううん、頑張れ、メッセージ、送るんだろ?】


そうだ、こうしていても何も変わらない。
櫻井さんへ自分から連絡してみるって決めたじゃん。


「よし」





『こんばんは!お昼に会えてびっくりしました。あの時にちゃんと言えなかったですが、オレも櫻井さんに会えて嬉しかったです。もし良かったら今日、あのバーで飲みませんか?』


送信、と。


「ぅうわぁ!」

【どうした雅紀!】


と、思わず声に出てしまい、周囲を見回すベタな反応をしてしまった。


《既読になった!》

【お、よかったじゃん】

《よかったけど、心の準備が》



そうこうしている間にすぐに返信がきた。


『こんばんは。お誘いありがとうございます。ぜひご一緒したいです。なるべく早く向かうように仕事がんばります。』

そして、渋い戦国武将のスタンプ。
気に入ってるんだな、コレ(笑)


『お忙しいですよね、ご無理のないように。のんびり飲んでいるので、櫻井さんのご都合でいらしてください』

...と。



「ふぅ」


仕事よりもこのメッセージのやり取りの方がよほど緊張感があってなんだか疲れた...。
こういうやり取りに気持ちを動かすって、こんなに大変だったんだな。



【櫻井さん、来てくれそうだな!嬉しいな!】

《ふふ、そうだね、嬉しいね》


そう、それでも嬉しいから、頑張って連絡してよかったと思った。